ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

害はそれぞれ気分障害者の行動や感情表現によってその症状を判断せざるをえない。視覚的に捉えることのできる多くの病気は、周囲あるいは医師と患者がそれを共有することができる。しかし、鬱病や双極性障害などの気分障害者は本質としての理解・認識はしてもらえず、そのエキセントリックな行為から通常ではないということを感じることになる。そのエキセントリックな身体表現や素材による表現によって表出される創造物に正常と言われる一般の人々が何か惹かれていくことになる。しかし、この気分障害者の残すものが魅力的で偉大なものになったとしても、本人の苦痛の排除にはならない。気分障害への理解と支援躁鬱病を始めとする気分障害は、原因が特定されていないため、要因によって気分障害を明確に分類したり定義したりすることは現時点では難しいようである。仮に研究されてきた幾つかの原因仮説を示したい。?生物学的仮説:脳内セロトニンの代謝の問題や、海馬の神経損傷も論じられている。しかし影響カのある生物学的な基礎研究はなく、決定的な結論は得られていない。?神経損傷仮説:近年MRIなどの進歩に伴い、鬱病において脳の海馬領域での神経損傷があるのではないかという仮説が唱えられている。そして、このような海馬の神経損傷には遺伝子レベルでの要因が存在するとも言われている。?病前性格論:気分障害になりやすい性格という考え方である。几帳面?生真面目?小心な性格を示すメランコリー親和型性格を持つ人が職場での栄転昇進などをきっかけに仕事の責任感から無理を重ね、鬱病を発症するという仮説である。多くのアーティストに、このメランコリー親和型性格が多いことからも前述の遺伝性要因共々気分障害の気質が才能と絡まっていることが考えられる。?社会的要因:貧困と社会的孤立は、一般的に精神的健康における問題のリスク増加と関連している。児童虐待(身体的、感情的、性的またはネグレクト)も後年になって気分障害を発症するリスクの増加だと言われている。いわゆるトラウマであるが、私の双極性障害も幼少の頃のトラウマが関連していると医師から伝えられた。『ネガティブ』が『クリエイティブ』鬱病を代表とする気分障害の主な症状である「ほぼ全ての活動において、興味や喜びを喪失している」、「著しい過眠や不眠」、「不安・焦燥・自尊心の低下」、「著しい疲労感」、「鈍い行動」、「根拠のない心配」、「不適切な罪悪感」、「自殺念慮?希死念慮」は一般的にはどう考えても排除すべき事柄ばかりである。しかし、これらを全て無くして、明るく健康ではつらつと元気な、そんな環境の中だけで一体どれだけのクリエイティビティーが生まれるのかは、いささか疑問である。前レポートでも示したように、気分障害を抱えた多くのクリエーターが排出されてきた。もちろん人生を楽しむために鬱病を始めとする気分障害などないほうがいい。しかし、なりたくなくても、なったものはしょうがない。そこに創造のモチベーションが隠れていることも事実である。癌になったり、大怪我をした人の苦しさや痛さは当事者以外にはわかるはずもない。ましてや傷や腫瘍などはっきりしたものが何も見えない躁鬱病などの気分障害の苦しさは更に説明しにくい。大切なことは発症者に「その苦しさ、よくわかります」ではなく「どんなに苦しいか、私にはわからない」と言えることかもしれない。多くの気分障害者は完治することはなく、生涯自分の疾病と付き合っていかなければならない。それぞれの症状を認識するしないに関わらず死ぬまで暮らさなければならない。そのままで良いのであれば、そのまま辛く生きていけばいい。もしその苦しさを29