ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

の場所と収納される物の数を制限していくという考えであった23。「簡易住宅号」と題された1920(大正9)年4月号では、生活を単純化し能率を増進するために洋風の「簡易住宅」を目指すことがテーマとされている。ここでは先に述べた女中の存在が触れられており、工業の発展にともない今後女性が工場に吸収されていくことから女中は払底し、主婦の家事労働の負担が大きくなる、そのため「複雑多様」な生活を単純化することが必要であると述べられている。押入れについても述べられており、押入れの中には価値のないものが多いため、押入れを箪笥へ転用することが提案されている。それは箪笥の機能を押入にもたせることにより、箪笥の分だけ部屋の広さを確保できるということであった。また狭いところを有効活用するための「整理法」ということばも使われている24。大正期においては、『住宅』では収納に関していえば上でみたようにおもに押入の問題が取り上げられている。その要点は、まず、ガラクタを廃して押入れを有効利用することで住宅の容積的な無駄を省くこと、二点目は、ガラクタをためこまず押入れを有効利用するために、慣習的な押入れの寸法を再考すること25、三点目は、寝台(ベッド)が普及していないことから現状としてはまだ寝具を入れるという前提で押入れが必要であることである26。特に三点目は、押入が新しい生活様式をもたらす家具との関係で考えられていたことを示している。押入れと家具ということでいえば、昭和期にまたがるが1928(昭和3)年の「家具と押入に就て」という山田守の記事にも注目しておきたい。山田守は、大正期に分離派建築会を結成し「東京中央電信局」(1925(大正14)年)などを手がけた建築家である。山田は、住宅における家具と押入れは「生活の全体の目的に調和し統一」されていなければならないとした。そこで山田が提案したのは「家具の壁体への進入であり押入の進化」、すなわち「造付」家具である。戸棚、本箱、食器棚の類を全て凸のないフラットな造付家具に集約させ、「空間的な無用」を棄てること、また、それぞれの家具につもる塵を掃除するのを容易にすることで、「能率のよい家」となるという。そして、実際につくられた造付家具が見苦しくなるならばそれは「デザインの無力」であるとし、「調和」において「デザイン」が重要であることを述べている27。おもに大正期の『住宅』において語られていた「収納」の問題は、上にみたように、収納の行為というより、住宅改良のなかでどれくらい、どのように、現在で言うところの収納場所を配備するかということに重点があったようである。あくまで収納場所以外の広さの確保、住宅内の「空間」つまり無駄となっているところの活用ということが前提であった。そこには、収納の仕方の具体的事例や、収納の行為を意味するような動詞はあらわれていない。3.『婦人之友』での「収納」に関する言説3-1.『婦人之友』住宅関連記事の概要『婦人之友』のなかでも、新しい生活をどのように具体化していくかという問題は、新しい住宅を考えることと直結した。創刊からまもなく、橋口信助やあめりか屋の記事、広告も掲載されていた。橋口も『住宅』の創刊前に『婦人之友』で住宅改良の必要を主張しており28、一方で『住宅』では住宅改良における女性の役割を強調している29。『婦人之友』は、掲載されていた記事の内容が広範であり、いわゆる総合雑誌の性格を有していた。37