ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

ページ
41/90

このページは 桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017 の電子ブックに掲載されている41ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

簡易になり、生活の手数がはぶけ、また質素なる家風をつくるもとになる」と読者の記事が掲載されていたのは、創刊まもなくの1909(明治42)年1月号である。このように『婦人之友』では創刊当初より「家事整理」ということばを用いながら生活の簡易化、能率化を推進する記事がみられた。三角錫子の記事が掲載されることもあった。収納の話題では、『住宅』と同様に押入れが取り上げられた。『住宅』と異なるのは、例えば1914(大正3)年6月号では「どうしたら押入が片づくか」32といった記事にみられるように、押入れ内部の具体的な使い方や、物の「かたづけ」方が示されたことである(図1)。具体的なかたづけ方は、押入れだけでなく、台所や子供部屋といった住宅の各所でも例示されていった。かたづけというのは「物の置き場所の上手にキチンとなっていること」であり、置くべきところに物を「仕舞う」「納める」ことが、物の出し入れにかかる無駄な時間を省き、家事の能率化につながるというのである33。収納の行為の側面をあらわす「仕舞う」「納める」といった動詞が使われていることにも留意しておきたい。物を仕舞う、納めることは、雑然とそうすることをここでは意味しない。物を分類区分し、「外に品名を書き付け」るという収納の仕方にも言及する記事が出てきていた34。そういった作業は、物の仕舞い方、納め方に「秩序」35を与えることである。仕舞う、納めるという行為に「整理」という過程を含ませる意識があったということである。物を分類してラベリングするということは、複数の人の間でいちいち説明をしなくてもそれぞれが物の置き場所が把握できるということである。上の記事ではまず主婦と女中の間のやりとりの簡略化がねらわれている。ただ、羽仁もと子は、主婦と女中の負担の軽減をはかる上で、「主人」や「子供」にも収納をまかせることを想定しており、住宅の改良によって家族それぞれの部屋を確保し、各部屋で一人分の「衣服調度をその中に納めて置く」ことも考えていた36。つまり、収納の為手は、その住宅で生活する者全員である。「秩序」とその共有は、誰もが収納の為手となり得る住宅では、その誰もが物の置き場所を把握するために必要なことであった。羽仁は、「まづ自分の身のまわりや目に見ゆる持物を、自ら管理し巧みに使用すること」が「最も要領を得た経済的な生活」であるとする。そこには「個人を単位として出来ている家庭は、最も経済的に生活しつつある家庭」という羽仁の家庭観が深く関わっているとみるべきである37。押入れの話に戻ると、押入れには物を仕舞いすぎない、また押入れ自体の数も多くしすぎないということが述べられている記事もある38。押入れの中は案外埃がたつため、物をつめこみすぎていると掃除がしにくくなるからだという。『住宅』で造付家具の提案をした山田守とは視点が少し異なり、実際に家事に従事する主婦の投稿記事が多い『婦人之友』ならではの理由づけであったことがわかる。また、二つの部屋から使える押入れの提案などもみられた。押入れの問題からもわかるように、『住宅』に比して具体的な物の仕舞い方や納め方、そしてその工夫に重点があったのは、『婦人之友』が主婦に対する啓発的な性格をもっていたこと、そして記事の書き手もまた主婦であることが大きかったと言える。住宅改良に関する動向が活発になるなかで、『住宅』においては建築側の立場から収納場所の配備の仕方がおもに論じられていたわけであるが、『婦人之友』においては収納の為手に向けて具体的な収納の仕方が示されていくことになった。『婦人之友』の読者層は都市の新中間層の特に上層部分の主婦であった39