ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

作品を〈閉ざす〉──額縁とニス塗りの意味論──佐藤竜平|造形担当Ryuhei Satoはじめに絵画制作の過程で出会う問題のひとつひとつに向き合い、その問題が生じる背景を調査し、現在取りうる解決策を考案し、実施と検証をおこなう。以上が教員研修費による研究の方針である。2016年度の研究では、作品サイズ、基底材、描画材といった問題を取り上げ、いくつかの試行を通して、制作の指針を得ることができた。本年度は、作品の保護を主題とする。作品の保護について考えるきっかけとなったのは、以下の事例に接したことである。以前の研究レポートで「失画症」という概念とともに紹介した画家・宇佐美圭司は、1960年代に描かれた「還元」というシリーズについて、自身の転機となった重要な作品群であるにもかかわらず、保存のまずさによってそのほとんどが失われており、わずかに残ったものも損傷が激しいと漏らしている(1)。文化財修復を専門とする棚橋映水の『前衛絵画の保存処置』によれば、前衛絵画は新しく実験的な表現技法を用いているにもかかわらず、修理や保存処置を依頼される際に作者から作品について説明を受ける機会はほとんどない(2)。この報告ではARKO2010で日本画家・浅見貴子の作品を額装する事例が取り上げられるが、この事例のように制作から額装までのプロセスが一貫しておこなわれるのは「きわめて希」だという。現代の絵画において、重要な作品が劣化するがままとなる一方で、保護策の代表である額装は、制作者から軽視あるいは回避されている。大仰で費用がかかるという理由で額装を避けるというならば分かりやすいが、それほど単純な話ではないだろう。この問題に向き合うべく、本研究では、まず額縁の意味について3つの側面から再考する。それをふまえて、自作において解決すべき問題を限定し、実施可能な解決策を考える。最後に、その実施と評価を報告する。1問題把握──額縁の意味論──1.1西洋絵画史における額縁──二重分節と中間領域──まずはクヌード・ニコラウスの『絵画学入門』を参照して絵画の物的構造を頭に入れておこう。本書の章立ては絵画の層状構造を反映しており、下層から上層に向かって、A.基底材、B.地塗り、C.下描き、D.鍍金、E.彩色層、F.絵画の書き入れ、G.ニス…という順序で配列されている。この中で、額縁は基底材の章に登場する。これは額装が描画の後にではなく描画の前に完了することを意味する。今日一般化している順序とは異なるが、これには理由がある。古来、欧州において、多くの画像は特定の建物の内に固定された壁画であった。ところが7世紀になると「板絵」が登場する。同書は「板絵」について以下のように説明する。「板絵」(Tafelmalerei)という名称には二つの意味がある。狭義では実際に堅い材料(木、金属64