ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

動かせない外部特定の場所や出来事分離動かせる分離板絵中間(額縁)内部描かれない分離描かれる分離中間(額縁)描かれない動かせない外部図Aなど)から造った板の上に描かれた絵を意味している。また広義では、洞穴の中、岩壁、建物の壁などに描かれた、場所と使用目的に限定のある絵とちがって、一個所に固定されることのない、つまり輸送可能な絵画すべてを指す(3)。つまり、広義における「板絵」の主要な属性は動かせることであり、それを可能にするのが「基底材」である。別の言い方をすれば、「基底材」があるからこそ、画像は特定の場所や使用目的を自らの外部へと分離し、独立した内部を確保することができるのである。さて、大英博物館のキュレーターであるニコラス・ペニーは、『額縁と名画』において、額縁を「取り外しできない額縁」と「取り外しできる額縁」とに分類し、前者から後者へ変遷すると説明する。加えて、「取り外しできない額縁」にも大きく分けて二つの段階があり、初期の段階では板絵の内部は絵画と額縁とにはっきりと分かれていなかったと指摘している(4)。ペニーが例にとったシエナ派の画家・サセッタによる祭壇画では、金箔が人物の背景まで施されているし、「飾り枠」と呼ばれる装飾文様が板絵の中央部を横切るように描かれている。金箔や装飾文様は、現在のわれわれから見れば、絵画ではなく額縁に施される処理である。ここでは装飾が表象の一部に含まれており、両者を明瞭に分けることは難しいというわけである。そこに、絵画と額縁とをはっきりと分離するタイプの板絵が現れる。同書で紹介されるロベルト・カンビンの工房による「室内の聖母子」(1435年)では、中央部が四角く削り取られて平坦に磨かれているのに対して、周辺部は階段状に彫刻されている。つまり、板絵の中央が〈描かれる領域〉として確定され、〈描かれない領域〉が周辺へと分離されることで、今日われわれが絵画、額縁と呼んで区別しているものが、一枚の板絵の内に同時に発生するのである。『絵画学入門』で額縁が基底材の一部として解説されていたのも、こうした事情による。ここで重要なのは、額縁が、〈動かせる/動かせない〉と〈描かれる領域/描かれない領域〉という二つの分節の重ね合わせによって、〈動かせる+描かれる=板絵の内部〉と〈動かせない+描かれない=板絵の外部〉とのあいだにまたがる〈動かせる+描かれない=中間領域〉として出現することである(図A)。やがて16世紀にキャンパスと油絵具による技法が開発されると、板絵の内に共存していた絵画と額65