ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

2.1〈描かれる領域〉を閉ざす前述の通り、「培相」において作品を〈閉ざす〉所作は〈描かれる領域〉の限定として現れる。この所作を表現するために、西洋絵画史における額縁で考察した二重分節と中間領域のモデルを応用する。〈内/中間/外〉の関係を〈絵画/額縁/壁面〉から〈正面/側面/壁面〉へと変形することで、絵画の側面を内部と外部の中間領域に見立てられるのではないか。実際にキャンパスの正面にだけ地塗りを施し、側面は生地のまま残すという方法を試みたところ(13)、視覚的な効果は弱いものの、絵画の層状構造と整合性があるため、ある程度満足できる結果となった。線の自在性、作品の可変性といった性質は、〈開かれた状態〉に属する。これらの性質を〈閉ざす〉こと、つまり制作者の手すら届かぬところへ運び入れることが、本研究の目標である。3実施と評価──ニスの塗布の実際──S100号(1620×1620mm)以上の大きさになると、個人が日常的に行えるようなニス塗りの方法が普及しているとはいいがたい。そのため、ニスと塗布方法を適切に選択するための試験から作業を開始した。以下、作業項目ごとにポイントをまとめる。3.1ニスの選択2.2〈描く行為〉を閉ざすニコラウスの著書で確認したように、ニス塗りは絵画の層状構造の最上部にある。極端な言い方をすれば、ニス塗りによってこそ、作品の時間は〈制作〉と〈保存〉とに分離され、両者の境界が〈完成〉という名で呼ばれる。加筆であれ、汚損であれ、酸化であれ、変化に対して作品を〈閉ざす〉所作がニス塗りなのである(14)。とはいえ、現代の絵画において、ニス塗りは額装以上に等閑視されている。現実の物体が作品内に持ち込まれて以来、作品の表面には様々なテクスチャーが混在するようになったのだが、ニス塗りはこの多様性を均一化してしまうからである。本研究では、あえてこの均一化を受け入れようと思う。「培相」において、表面の多様性、描今回はLiquitex社のMATTE VARNISHを採用した。選択の根拠は以下の通りである。(1)アクリル系のニスは、専用のリムーバーで落とせるものと落とせないものとに分けられる。前者は吸収性のある画面に塗ると汚れごとニス層を洗い落とせるという利点が失われる。そのため今回は後者のニスを選択する。(2)ツヤ消しニスは、ツヤ消し剤の粒子が混合されているため、わずかに白濁する。したがって透明度を確保するには、皮膜をできるだけ薄くしなければならない。皮膜の厚さと防水性・透明性の関係を試験して、何回塗り重ねるのが適切かを確認した。(図B)(3)少ない塗り重ねで一定の効果を得るには、ニ69