ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

画面を90度回転させて2度塗りする水平方向に吹く左右の往復を中断せずに下まで続ける50cm離すイーゼルで45度に傾ける図Dするのが美術(館)という制度である。この制度が人々の現実とかけ離れている(形骸化している)と感じられたために、20世紀の美術はこの制度を抑圧ととらえ、批判を重ねてきたのだろう。その結果、美術と現実との落差は緩和され、額縁の役割は小さくなっていった。きか背景に退くべきか、エネルギーは放出すべきかせき止めるべきかといったことについて、いかに細心の注意を払って考察していく必要があるかが分かるだろう──ちなみに、この課題の類例を歴史の中に求めるとすれば、個人と社会の相互摩擦の問題がそれに当たる(15)。では結局のところ、〈制度批判〉によって芸術と現実との差は解消されたのだろうか。答えは否であろう。何を芸術として現実から分離するべきかという問題は、額縁という見やすい対象を欠いたまま、今なお問われ続けている。ジンメルが額縁に見て取った問題がいかに根深く解消され難いか、額縁論の最終段落から伺うことができるだろう。以下に引用して結びとしたい。芸術作品には、それ自身ひとつの全体でありながら、同時に自分をとりまく環境とのあいだで統一的全体を作り上げなければならない、という本来矛盾した要求が課されている。ここには、あの人生一般の難しさ、すなわち全体の一要素たる存在が同時に自律した全体たることを要求するという、あの難しさと同じものが見て取れる。芸術作品とその環境のあいだを分離しつつ相互に媒介していくという課題を、額縁が視覚的なもののなかで解決していこうとすれば、額縁が前景に出るべ【註】(1)「宇佐美圭司インタビュー」『ART TRACE PRESS』第2号、ART TRACE、2012年112頁。(2)棚橋映水「前衛絵画の保存処理について」『文化財情報学研究』第8号、高梁、吉備国際大学文化財総合研究センター、2004年、81頁。(3)クヌード・ニコラウス『絵画学入門』黒江信子・大原秀之共訳、美術出版社、1985年、14頁。(4)ニコラス・ペニー『額縁と名画』古賀敬子訳、八坂書房、2003年、18頁。(5)岩渕潤子「美術館の誕生──美は誰のものか」中央公論社<中公新書>、1995年、53-54頁。(6)上掲書、66頁および99頁。(7)ゲオルグ・ジンメル「額縁──一つの美学的試み(1902年)」『ジンメル・コレクション』北川東子編訳、鈴木直訳、筑摩書房<ちくま学芸文庫>、1999年、114頁。(8)前掲書、115頁。(9)前掲書、119頁。(10)前掲書、120頁。(11)前掲書、125頁。(12)ヘンリー・ラッセル・ヒッチコック、フィリップ・ジョンソン『インターナショナル・スタイル』武澤秀一訳、鹿島出版会、1978年、28-29頁。(13)佐藤竜平「『培相』の再起動について」『教員研修会研究レポート』第44号、桑沢デザイン研究所、2017年、44頁。(14)ニス塗りだけではなく、サインとともに完成日を書き入れる行為などが同様の効果をもつ。(15)ジンメル、前掲書、125-126頁。71