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形体における「時間」の分析
郡山 正  


 形体の秩序、形体の統一的な体系をつくる時、数学的な点も、物理的な素粒子も役にたたない。形体は体形思考上の独自な点、人間の精神内部に存在する形体の素粒子を用いる。このような点を、数学や従来の点概念から区別するため│F│の記号に置きかえる。│F│はあくまでも、人間の内面的存在であるから、客観的形体を規定することは出来ない。

 この│F│を出発として、概念の中に線型連続をつくれば│L│の概念が生じ、更にこれを二次元的に発展させて│P│(面的形体概念)を生ずる。この│F│─│L│─│P│の三つは、人間のvisualなシステムに対して、一つのcompactなzoneを形成する。

 次に三次元的な形体概念である│B│を考え、│B│の出発と同時に、それの背景もしくは包体である│C│の概念を生ずる。この空間概念は、ユークリッド空間のように、無限大まで次元を重ねることが可能である。一般にこれを│C│nで示す。

 │F│─│L│─│P│─│B│=│C│─│C2│─│C3│………│C│の概念発展の流れと同時に、時間の概念Tが存在している。物理的現象としての時間は、特殊相対性、一般相対性理論の世界では、自由にに変動し得るのであるが、我々の常識的経験の世界を超えているので、デザイナーの通常の場では殆んど無縁であろう。それよりも、我々にとって、形体に密着した時間の問題は、「形体の動」と「動による時間の歪曲概念」という二つの標題である。

 この前者の標題についての研究は、既に、10回大会で発表したので、今回は後の標題について分析し、実験した結果を発表した。これにより、形体研究の概論的なものに一応の結びを与えたのである。次回からは、│F│にたちもどって、各論の研究発表に移る予定である。

 ベルグソンは「時間と自由」の中で、真の持続(時間を意味している)は、互に内的な諸瞬間から成り立ち、それが全く等質的なものの形をとるときは、空間に表はされるのであるとして、時間と空間の概念の本質的差異と、混同されやすさ、又これは科学に於て特に陥りやすい判断であると説いている。そして、時間は本来空間とは何のかかわりもなく、完全な自由の姿として、自我の内面の純粋な持続として取扱うべきであると考えた。

 ハイデッガーは「存在と時間」の中で、時間測定が時間の特色ある公共化を行うために、我々は我々の通常「時間」といっているものを認識するといい、世界時間に対する我々の内世界的存在の出会には、この意味では客観的なものであるが、同時に世界時間は、実存する自我の存在に依存してのみ了解される故に、非常に主観的なものでもあると説いている。

 「時間」と「実存」との、このような哲学的探求は、哲学の中でも最も本質的問いかけであるから、これらの著名な哲学者の文章から、単純な結論を引出すことは危険である。しかしここで私は「時間」とは何か? という問題に、「時間とは本来各人の内部世界に属する、外部空間に色づけられた経験の感性的存在と、均質的流れとしての空間置換的時間の概念との混合である」という常識的な平俗な答えを引出すことにしよう。

 勿論「時間」についての哲学的な思考は、果しのない論議を引起す。そして、それはそれなりに非常に価値も高く興味もあるのであるが、私の究究の目的から、あまりにもズレるので、この位で打切ることにする。

 私の目的は、形体生産のため(あるいは造形のため)の実用的な論理的秩序をつくりあげることにあるので、「時間」も実際のデザインの場で、アイディアやイメージを発想する際、誰れでも先づ当面する問題にしぼった。つまり、「時間」に客観的な面と主観的な面があるのなら、その両面の間に適当な操作を加えて形体生産に役立つ法則を引出せないであろうかということである。そこで先づ、あれほどベルグソンが説いたにもかかわらず、私はカントとへ−ゲルに立戻って、時間は空間全体を包みながら、直接空間と関係することなく過去から未来へと流れ続けていること、またあらゆる空間も形体も、この時間からのがれられないとし、時間の座標軸を一方向への均質な長さとして公理の第一に置くことにした。

 一方、「時間」は思考の流れを自覚せしめる外的物理的諸現象の反映によって引起されるものに範囲を限り、特に一定の形体が、時間の推移により、主観の内部に定着する一定の型を時間の原型(Series)と置いて、我々の常識的世界では決して経験的に変えられない時間の流れを、如何にして変えるかという問題を取上げて分析し思考し実験したものを発表した。

 第一の問題は「Series」の基本変化。第二は「Series」と「Series」とのPermutation又はCombination、第三は一つの「Series」又は二つ以上の「Series」の内部に於ける構図(これは形体の時間的、継続的構成ともいえる)である。

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