工業デザイン製図(技法と考察)
真水 公薙
PAGE | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |


 工業デザイン製図

 工業デザイン製図というのは全く新しい図法ということではなく、従来からの機械製図を中心に考えてゆくことができる。しかし、これは機械製図と並置されているということではなく、機械製図法、あるいはJISの製図通則を基礎として、更にそれらの発展した方法として存在したものといえるため、工業デザイナーを志望する人はまず機械製図をマスターしたうえで、はじめて工業デザイン製図についての習得が可能となるのである。

 本稿では工業デザイン製図として、とくに注意すべき点を多くふくんだ予備設計図としてのラフ・ドローイングと、決定設計図としての断面図、外形図、外観図についてのべようと思う。


1 図面を描くために

 図面を描くとき、もっとも重要なことはデザイナーがその図面で何を表現し、伝達しようとしているかということである。そのためにはいろいろなことが考えられるが、みやすいきれいな図面を描くためには図面の大きさや図面内の図形、記入事項等のレイアウトには充分に注意を払わなくてはならない。自分の表現しようとしているものはどんな形状、大きさのものであるか、図面の大きさに対して尺度はどの程度にするのが一番理解しやすいか、図形の向き、位置、正面のとりかたなどはそれでよいか、寸法線や寸法数字、記入文字等に誤読の恐れはないかなど、多くのことに考慮をしなくてはならない。記録欄はファイリングのことも注意して必らず図面の右下に描くことが必要だし、用紙の中に余り大きく図形を入れると周囲の枠のラインなどに影響されて、かえって、かたちを正確につかむことがむずかしくなってくる。また正面図の選びかたをまちがえると不要な面を描かなくてはいけなくなったり、図形の配置が不安定でよみとりにくくなったりする。

 デザイナーのイメージを表現するには何面の図形が必要かということも考慮しなくてはならない。一面からの図形で表現できるものか、三面図が必要なのか、あるいは6面図を描かなければいけないのかなどといったことである。

 このように図面のレイアウトということはデザインの製図ではとても大切なことなのだからどんな場合にもできあがる状態を想定して美しくよみとりやすい図面を描くように心がける必要がある。

2 ラフ・ドローイング

 工業デザインのワークを進展させて行くために図面を描く場合、まず行なうのはラフドローイングである。製品のメカニズムのレイアウトなどがきまっているような時には各部の位置関係を正確に記入した原図をつくり、その上にトレーシングペーパーを重ねて外形部のデザインを描きこんでいく。1枚だけしか描かないのではなく、アイデアによって何枚でも上に重ねて線を描いていけば、ディテールに関してもさまざまな条件を想定して検討を加えることができる。メカニズムのレイアウトを新しくし、まったく新しい製品の開発をしようというようなときも同様な方法で検討し、デザイナーの側からのメカニズムに対する提案などもこの段階のときにすることができる。このようにラフ・ドローイングは基本設計の段階なのであるから、より生産性の高いもの、より美しいものをつくりだすために努力をはらわねばならない。デザインはリ・デデザインの場合でも、あるいは部分変更の場合でも、単にその修正を加える部分だけをみて決定するものではなく、部分の変更ということが全体のかたちに対してどれだけの影響をあたえるのか、ということにも配慮していかねばならない。いろいろな条件を納得させうる範囲でかたちを追求していき、アイデアを2、3点にしぼったところで、部分のバリエーションをふくめて必らず全体のドローイングを描き、各部のデザインが全体のかたちにどう融和しているかということについても充分に検討を加えておく必要がある。ラフ・ドローイングは下図ではあるが、ただ下図として簡単にすませてしまうのではなく、ラフ・モデルとも比較しながら変更した部分はどんどん改訂を加えていき、充分に納得がいくまで描きこまなくてはならない。場合によっては部分的に改訂した部分を拡大して検討したり、あるいは補助投影図を使用して作図し、慎重にデザインを進めていくことも必要である。また材料の使用法、角アールの処理、面のもっている表情、工作法、色彩などについてもじゅうぶんな知識をつぎこんでいかなくてはならない。

 ラフ・ドローイングというのは、エンジニアサイドとの打ち合せを除けば、あくまでも自分のイメージを検討する図面であるから、人にみせるということはあまり考えず、可能性をあらゆる角度から追求して、よりよいものが創りだせると納得したうえではじめて決定設計図に移れるのである。

 ポットをテーマにしてラフ・ドローイングを進めてみると、まず、把手の大きき、把手と本体との隙間、水の入る部分の容量、電気部分の大ききなどを書きこんだ原図を用意して、その上にトレーシングペーパーをのせ、ポットのかたちを描いていくのである。1枚だけではなく、部分の変更等をするごとに、全体を描いて、部分と全体のバランスを検討しながらアイデアを展開させていく必要がある。ツマミとか表示板、ジョイントの方法など細部にわたって検討を加えるような時には必要な部分をとりあげ拡大して描くとよい。

 本来ならばこの段階でラフモデルを造り、ドローイングとモデルの両方に交互に修正を加えながら、より美しく、よりよいかたちを納得するまでつづけるのである。

 ポットに限らず、いずれの場合でも、ラフ・ドローイングは決定に移るまでの段階であるから、アイデアにしたがって多くの角度から詳細に検討し、これでよいというところまでいろいろとやってみることである。このラフ・ドローイングの段階で思った結果をうることができればデザインのプロセスはほぼ終了したものといえるだろう。

1図
1図 ラフ・ドローイングは必要な寸法を描きこんだ原図を用意しその上にトレーシングペーパーを重ねてかたちをおこして行く
 


Back Next