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鍛金加工技術の解説
魚住双全  


写真1   写真1

写真1
写真1

 インダストリアル・デザインのモデルメーキングに適する技術の一つとして、産業工芸試験所・金工科で、主として手作業による鍛金加工技術の実習を行った。


実習内容

期 間 4ケ月
テーマ 1. 手作業による鍛金加工
2. スピニングによる加工
3. 表面処理
指導者 産業工芸試験所技官
松下新三郎先生

 鍛金加工は手工業的な要素が強く、特に金・銀・銅等の高価な金属によって、一品製作する工芸色の強い加工であり、小規模な設備と治工具の活用によって、複雑な形態を自由に製作出来る方法である。このような利点をインダストリアル・デザインのモデルメーキングに活用し、デザインの検討・伝達に役立てることは出来る。

 しかし、手作業による鍛金加工技術は職人の腕から腕へと受けつがれるのが普通で適当な解説書がない。そこで種々の鍛金加工技術が用いられて作る「湯沸し」の製作を追って基本的技術を紹介する。

湯沸しの製作

 湯沸し・花器・鉢・皿等の製作は、鍛金(打ち物)技術を用い金属の可塑性を利用して平らな板金に加工をほどこし、金属を伸展させて製品に仕上げる。

 湯沸しは写真1・図1の如く、胴中、蓋、注口、絃等からなりたっており、それぞれの部品を剪断・曲げ・絞り・窪め・接着等の鍛金加工技術によって製作し組立る。

 材料は展延性・加工性・耐食性に富み表面処理(メッキ・着色)の容易な銅を使用する。

図1
図1

図2
図2

I 鍛金加工に必要な工具・設備

1. 木 槌:カラカミ槌・両丸槌(図2)

2. 金 鎚:カラカミ鎚、シメ鎚、コシキ鎚、烏帽子鎚、芋鎚。(特にカラカミ鎚は広範囲に使用するので、重量の異った数種類が必要である。)(図3)

3. 金 敷:平丸均し、角均し、坊主均し、駒の爪均し、銀杏葉均しなどの種類がある。(図4)

 平丸均し、角均しは壷・箱などの底の凹凸を平らに均すのに用いる。坊主均しは平らな板金を絞るのに用いる。いづれも軟鋼で作られ、均し面は鋼で焼入れがしてある。

 均し金敷は加工中に種々の大きさのものを使い分けるので、各種とも数種類の大きさの物を用意する必要がある。

4. 烏 口:への字烏口、鵜の首烏口・撞木烏口などの種類がある。(図5)

 への宇島口・鵜の首烏口は皿・壺などの形を絞るの用いる。撞木烏口は円錐状の曲げと直線の折り曲げに用いる。

 烏口も均し金敷同様、種々の大きさのものが必要であり、特にへの字烏口は打撃面のRの違うものが必要である。

5. 切箸:直刃、反刃、刳刃がある。直刃は刃部が直状のものであり、板金を直線に切るのに用いる。反刃は曲り箸ともいい、刃部が根本から曲っており、板金を自由な曲状に剪るのに用いる。刳刃は刃部全体が湾曲していて、板金に孔を切り抜くときに用いる。(厚い板金を剪るには切り箸は不適当でこの場合は押切機を使用する。)

6. 工作台:鍛金加工には特に金敷・烏口を使用して鎚打ちを行なうので、金敷・烏口をしっかり保持しなければならないので、直径50cm・高さ50cmほどの木製の台を使用する。その他、ヤスリ掛けや仕上加工には机状の作業台を使用する。

7. 仕上工具:ヤスリ(荒・中・仕上・細工用組ヤスリ)、キサゲ等。

8. その他の工具・設備:ガスバーナー・定盤・スコヤ・トースカン・コンパス・カリパス・ステンレス・スケール・ノギス・罫書針・コンプレッサー・text箸・ヤットコ、手万力

図3
図3

図4
図4

図5
図5

II 胴中の製作

1. 材料
 銅板、厚み0.7m/m〜0.8m/m

2. 工具
 
胴中の製作は絞り加工が主であるので、絞りエ具であるシメ鎚・坊主均し金敷・への字鳥口・工作台を使用する。坊主均し金敷は絞り加工によって形を作り出す場合に必ず初めに使う工具であって、打撃面のRの構成は一定である。

 への字烏口は内絞り・湾曲に重要な工具であり、製作図面によって常に打撃面のRの構成を選択し使用するので数種類必要とする。Rの構成範囲は製作図面のRより僅かに小さいことが条件であり製作図面と同一Rでは使用出来ない。またRが小さすぎる場合も叩かれた製品の凹凸がひどく目的の形態に達しない。

3. 地金取り
 胴中のような任意の不規則な表面を持つ形態(灰皿・花瓶)を作るには、形態の表面積に加工時における金属の延びを考慮に入れて、次の計算式で円形の地金を剪る。(図6)

 

4. 成形1―絞り
 地金取りによって剪った地金に底面となる部分を中心よりコンパスで罫書き、地金全体に焼鈍しを行う。つぎに図7のように胴中の底となる場所を除き坊主均し金敷を当て手元を浮かせて中心を軸に徐々に回転させながら写真2のような姿勢で絞り初める。

 初めは木槌で2〜3回転打撃し絞り癖をつけたところでシメ鎚に持ち変え一様な力で丹念に端まで打撃して絞っていく。

図6   写真2
図6   写真2

図7-1   図7-2
図7-1   図7-2

 写真3は絞り途中の地金の状態を示している。写真のようにまだ絞られていない部分には、ひだが生じ、このひだを無理に打撃して重ねて絞ると後の加工によってその場所に亀裂が生じ失敗の原因となるので、シメ鎚の打撃面の丸い部分によってひだを端から重ならないように注意しながら徐々に打撃し、地金全体を端まで一様な状態に絞り第一回目の絞り工程を終る。

 絞り工程の終了した地金全体は鎚打ちをすると金属組織の変化によって堅くなるので、一工程ごとに焼鈍しを行って組織を矯正して次の絞り工程を行う。

 このように絞り・焼鈍しの各工程の繰り返しによって徐々に絞ってゆき望みの形態に近づけていく。

 写真4はその各絞り工程における形態の変化を示したものである。

図3   写真4-1
写真3   写真4-1

写真4-2   写真4-3
写真4-2   写真4-3

5. 焼鈍し
 絞り加工を行えば鎚打ちのため金属組織が歪められてもろく堅くなり、そのまま絞り加工を行えば亀裂の原因となり失敗する。そのため金属を加熱炉またはガスバーナーによって10〜40分間適当な温度で加熱し徐々に冷却して金属組織を矯正して再び加工に都合のよい状態に回復させて次の絞り工程を行なう。各種金属の焼鈍し温度は表氓フ如くである。また温度の測定が出来ない場合は、肉眼で焼鈍温度を判定しなければならないが、大体鋼が紅色、銅・真鍮は淡紅色になるまで加熱すればよい。またアルミニュームは赤色にならないうちに熔けるので赤色鉛筆の芯を金属に擦付けて、これを加熱すれば温度の上昇によってその部分が赤色から暗赤色・紫色・黒紫色に変化する。この黒紫色の現われた時がほぼ適当な焼鈍温度である。

6. 成形2―内絞り
 写真4―3まで絞られたら次に上部だけを内側へ絞り込み口径を縮めていく。工具は"への字"烏口を使用し、また口径が非常に小さくなるとへの宇鳥口でも鎚打ちが不可能になるので写真5のようなエ具を使用して絞る。(図8) 写真6は絞り・焼鈍しの各工程の繰り返しによる形態の変化を示したものである。

 製作図面と見合せて大まかな形に絞り込んだところでカラカミ鎚の尖った部分を使って口径の一部を立ち上らせていく。(写真6−4)。この部分は地金の端で一度縮められた部分であるから立ち上らせる際、亀裂が入り易いので慎重に鎚打ちを行ない徐々に立ち上らせていく。

表1 各種金属の焼鈍し温度
金     属 焼鈍温度(℃) 溶融温度(℃)
軟     鋼
硬     鋼
真鍮(七三配合)
″ (六四配合)
アルミニューム
ジュラルミン
840〜880
790〜820
600〜700
600〜650
600
300〜500
350
1500
1450
1083
880〜930
 
650
550〜650

図8
図8

写真5   写真6-1
写真6-1
写真6-2
写真6-2
写真6-3
写真6-3
写真6-4
写真5   写真6-4


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