鍛金加工技術の解説
魚住双全
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4. 仕上げ
 全体にヤスリをかけて表面の凹凸を無くすると同時に滑らかにして、バフをかけて磨く。

5. 組立
 注口根本の切り口を胴中にあわせて隙間の出来ないようにヤスリ根本内側に「注口返し」をろう接する。(写真17)

 つぎに胴中に注口返しと同じ寸法の穴をあけ、注口を差し込んで胴中の内側で叩いて広げしっかり固定させる。最後に注口と胴中の間にハンダを流して固定する。(注口返しは胴板厚み0.7m/mを帯状の輪に加工したものである。)

VI 絃の製作

1. 材料
 胴板 厚み1.2m/m

2. 地金取り
 初めに直状のパイプを作り、後で曲げて製作するので、絃の長手延べ寸法、および各断面の周囲寸法をもとに展開図を求め型紙を作って地金取りをする。(図20−1・2)

写真17-1   写真17-2
写真17-1   写真17-2

図20-1   図20-2
図20-1   図20-2

3. 成形
 焼鈍した後、工作台等の小きな窪みを利用してカラカミ鎚で叩き、全体を一定な状態に徐々に丸めて接点を銀ろう接する。(図21)

 次にろう接面を絃の内側になるように手で曲げていく。

 一度に望みの形に曲げると潰れて失敗するので、途中何度も焼鈍してパイプの断面を両横から木槌で軽く叩き隋円形にしておいて曲げれば失敗を避けることが出来る。(写真18)

4.仕上げ
 加工によって出来た表面の不規則な面はヤスリをかけて滑らかにして、パフで磨いて仕上げる。(写真19)

VII 耳の材料

1. 材料
 銅棒 20.0m/m×13.0m/m

2. 地金取り
 2個の耳を合せた形で地金取りをする。

3. 成形
 焼鈍した後、角床の上で中央を叩いて潰し全体をヤスリで削り出し、2つに切りはなして細部を仕上げ、パフで磨いて仕げる。(写真20、図22)

写真18   写真19
写真18   写真19

写真20
写真20

図21   図22
図21   図22

VIII 絃・耳・胴中の組立

1. 絃と耳の組み立
 絃に図1ような形のダボを通して固定させ、耳にダボの寸法の穴をあけて耳を胴中に固定させた後に絃を差込んで保持させる。

2. 耳と胴中の組立
 耳の底に3φのダボを銀ろう接し、胴中の所定の場所に差し込んで、胴中の内側よりカシメてハンダを流して固定させる(図1)

IX 表面処理

 以上で湯沸しの製作を終り、最後に防錆・美観のため、本体・蓋の内側はスズメッキを施し、外側は煮込着色を行なう。

煮込着色の順序

1. 脱脂
 着色する表面の錆や脂肪を灰汁またはソーダー灰液の中で煮沸し脱脂して、重曹または角粉で金属面を研磨し、脱脂の際生じた曇りを除く。

2. 着色

  
 以上の成分を沸騰溶解し、湯沸しを液中で10〜20分間煮沸する。初めは淡い黄褐色から徐々に濃黄褐色となるから適当と思われる色を示したら液中から引き上げ、水洗してから、熱湯に浸した後、乾かしてパラフィンを塗り乾いた布で良く磨いて仕上げる。

からげ線

X 銀ろう(鑞)によるろう接作業

1. 銀ろう:銀ろうは硬ろうの一つであり展延性に富んでいるので鎚打ち・折り曲げ等 の加工に最適である。硬ろうにはその他、金 ろう、洋銀ろう、真鍮ろう、アルミニュームろう等の種類がある。

 金ろうには金製品の接合に、銀ろうは銀・銅・真鍮に、洋銀ろうはニッケルを主成分とした合金、および銅の接合。真鍮ろうは銅・真鍮・軟鋼等の接合に、アルミニュームろうはアルミニュームの接合に使用する。

2 硬ろう接の順序

1. ろう接する金属の錆と脂肪(油気)を希硫酸で除去する。

2. ろう接個所は突合せ(芋接)爪掛け等の方法で密着させる。突合せは突合せ個所が開く恐れがあるので、からげ線(太さ0.3〜0.5m/mの鉄線)を用いて適当な間隔に縛り良く密着させる。

3. ろう接個所に硼砂を塗布する。硼砂は熔融すると液体となり、金属酸化物を熔解吸収し、金属面を被って空気との接触を防ぐ役割をする。

4. 塗布した硼砂に小片のろうをのせる。

5. ろう接個所を中心として、その周囲の金属面を一様に加熱して徐々にろうをとかし接合する。

6. ろう接が終ったら、からげ線を取りのぞき、酸又はアルカリの淡い液に浸して酸化膜を除去する。

7. 余分なろうがあった場合は、ヤスリ・キサゲ等をかけてのぞき、きれいにする。

 以上、鍛金加工技術の一例を解説したのであるが、現在インダストリアル・デザインコースで行っている表現技術実習、デザイン実習の中で製作するモデルにこの鍛金技術を応用し、ラフモデル、プレゼンテーション・モデル等の外形モデルばかりでなく、プロトタイプまでも製作することが出来れば、そこに起ってくる形態(内部機構との関連・造形性)、材料(生産技術に適した材料の選定)、技術(大量生産における工作上の機構・構造の検討)等のデザイン上の問題点について、検討し伝達することができると同時にそこに新しいデザインの可能性を見い出すこともできる。またデザインを学ぶ過程には金属ばかりでなく種々の材料を実際に加工して材料の 性質、肌あい等をぢかに理解することも大切だと思う。現在、徐々にではあるが、工具・設備が揃いつつあるので、今後はこのような点についての指導も大に進めて行きたいと思っている。

参考文献: 実用金属便覧 日刊工業新聞社
板金工作法 産業図書株式会社


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