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工業デザイン製図(技法と考察)
真水公雍  


●はじめに
●設計と製図
●工業デザイン製図の目的
●工業デザイン製図
 1 図面を描くために
 2 ラフ・ドローイング
 3 フリーハンド・テクニックについて
●プレゼンテーションのための工業デザイン製図
 1 断面図
  (1)断面図の役割
  (2)断面図の描き方
  (3)肉厚の表示
  (4)アール部分の表示
  (5)材料の指定
  (6)寸法記入について
 2 外形図
  (1)外形図について
  (2)かたちの検討について
 3 外観図
  (1)外観図について
  (2)量感、質感の表現について



 はじめに

 工業デザインとは何かという定義は、その人の環境や解釈の仕方等によって、簡単に片付けられる問題ではないが、少なくとも、工業製品をデザインすることであり、或いは、デザインされた工業製品に対していう言葉であるといえよう。工業製品というのは図面化することにより、複数のものの生産が可能なもののことをいう。一つしか作らないもののときでも(例えば、飛行機や船などの様に)その時、作成された図面によって全く同形、同質のものがいくつでも作ることが可能な状態にあるならばこれは工業製品である。つまり、設計者の意図を、図面という伝達手段を用いることにより、第三者が的確に表現できることなのである。その製品を作るということに対して、デザインという考え方が加わった時、そこに工業デザインというものが存在するのだから、工業デザインと図面というのは分離できないものであるし、工業デザインの過程の中においては、極言すれば図面を書くことが最も重要なことであるといえよう。

 設計と製図

 狭義に解釈すれば、設計というのはものを考案する行為であり、それを第三者に伝達するために図面化したものを設計図という。また、その考案されたものを具体的に製品として製作するために描いた図面を製作図とよび、製作図を書くことを製図という。しかし一般的にはどららの場合でも、正確に、製図法の規定にそって図面を作成することを製図といっている。

 設計図には予備設計図と決定設計図との二種類がある。工業デザインの場合には、予備設計図というのはメカニズムのレイアウトやかたちの必然性をデザイナーがいろいろな角度から検討し、自分のイメージにあうものを何度でも納得いくまで修正を加えてみつけて行くものであり、一般にラフ・ドローイングと呼び工業デザインの製図の過程の中ではもっとも重要な部分をしめている。

 決定設計図はいうのは最終的に定着したイメージを第三者に提示するために描く図面で、外形図、外観図、断面図、計画図、構造分解図、その他必要に応じて図面の種類を組合せて表現し、製作者がそれらの図面を読んで、すぐ、製作図をおこせるような状態まで書きこんだ図面である。デザイナーが最終的にクライアントにわたす図面はこの決定設計図であるべきである。

 工業デザイン製図の目的

 製図は言葉に例えることができる。読み方を知らない人にとっては、全く意味をもたない図形でしかないであろうし、使い方を知っていれば、自分のイメージを他に伝達することも、相手の意途を理解することも、正確に容易に行なうことができる。一つの図形を通して他の人達と同じ次元で話をすることができるのである。建築には建築製図、機械には機械製図といったそれぞれに適合する言葉があるように、工業デザインには工業デザインにふさわしい製図法があってよい筈である。

 工業デザインのプレゼンテーションには、レンダリングやモデル等もあるが、デザイナーのイメージを正確に相手に伝達するには図面が最良の方法である。デザインの図面なしには部品の構成や位置関係・メカニズムのレイアウトなどを正確に把握したり、製作図を起こして、ものを造るということはとてもむずかしいが、逆にレンダリングやモデルがなくとも、正確に描かれた図面と、それを読みとる能力さえあればものはできあがってくるのである。学校の課題などでは、学生は能力を必要とせず、外観がわかるだけのモデルを造ることだけを重視し、とかく、図面はおろそかにしがちであるが、デザインワークのプロセスのなかでの重要度ということからいえば、図面の方が当然上にランクされるべきものなのである。

 工業デザインというのは、単に外形のスタイリングをさしていうだけではなく、ものをつくりだすうえでの多くの障害に解決をあたえ、さまざまな規制を統合して一つの美しいかたちに仕上げていくことなのである。メカニズムのレイアウトはもちろんのこと、加工技術や生産性に対してもじゅうぶんに考慮を払わねばならないし、また経済的な面からのかたちへの影響も大きなものである。そのため、工業デザインの図面では一つの方向として最終的にかたちを決定するまでに、それらの要素をいろいろ考慮した図面を何枚も描いてゆかねばならない。その過程で多くの検討を加え、一つのものにしぼっていく、これがとても重要なことなのである。

 また、工業デザインの図面というのは、それをみる対象が必らずしも技術者だけではないということも考えねばならない重要な要因なのである。デザイナーが描いたあるデザインの図面に対して、メーカーの技術陣はもちろんのこと、トップの人達も当然みるであろうし、新製品の発売ということで・宣伝関係や営業関係の人達がみるということも考えられる。このとき機械製図法によって描かれた図面というだけでは、それを読みとる訓練をうけていない人達にとってはまことに難解なしろもので、かえって理解をさまたげる場合も生ずるといえよう。工業デザインではもっと量感や質感がはっきりとわかり、図面をよむことが、あまり得意でない人達にもよみとれるような図面が要求される場合もある。これがデザイナーの描く最終的に相手に渡す、プレゼンテーション図面である。この場合にはよみとりやすさの他に、さらにかたちのもつ美しさを伝えるためにもきれいな図面を描くようにしなければならない。

 要は工業デザインの製図はエンジニアサイドの人たちが製作図を正確に描ける図面であり、デザイナーのイメージを具体的に表現して他の人に的確に伝達し、納得してもらえるような力をもった図面であることが必要なのである。

 工業デザイン製図という、一つの分野を確立させるためには、これらのことを目的として、それを表現するのに最適と思われる方法を見いだしてゆくべきである。


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