工業デザイン製図(技法と考察)
真水 公薙
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3 外観図

(1) 外観図について

 外観図というのは、外形図を、よりわかりやすくするために、外形図にいろいろな調子を描き加えて、質感や量感などを一見してわかるように表現した図面のことをいう。

 外形図を描くために、かなり慎重に、わかりやすく描いたつもりであっても、普段、あまり図面に直接タッチしていないクライアント側の人達にとっては、外形図だけでは、かたちはある程度まで納得できても、材料の持つ質感の違いや、それが実際のものの上でどういう効果を持つか、また曲面はどう見えるかなどということにまで、具体的にデザイナーのイメージを読みとることは、まず不可能なことである。そうしたとき、外観図があれば、外形図では理解しえなかった部分に対しても、容易に正しい判断を下すことができるし、それによってデザインの決定のための時間を短縮することも可能となる。また、デザイナーも含めて、そのデザインにタッチする人々が、共通の次元で、よりシビアにイメージを定着することができる。

 外観図は正投影法を基礎にして描き表わす図面の中では、もっとも感覚面での処理が必要になるため、相当高度な訓練をしておくことが必要である。決して、ただ、線を引き、調子をつければそれでよいというものではない。プレゼンテーションのさいに、デザイナーが描きこんだ原図を呈示して説明を行なうことは絶対にしない。原図というのはあくまでもデザインのセクションで管理すべきものであって、外部に出すときは必らずコピーをしたものを出すべきである。図面が汚れたり破損した場合、それが原図であるとたいへんであるし、デザインの図面は製品が公表されるまでは秘密書類であるからやたらに人に見せるわけにはいかない。このような理由も含めて、図面をデザイナー以外の人が見るときは必らずプリントされた状態になっているわけであるから複写ということについてもかなりな知識を持っていなくてはいけない。このくらいの濃さの線を出すにはこの程度に描き込まなければいけないとか、鉛筆の使い方によるプリントでの調子、裏側から用紙に仕事をしたときと、表から描いたものとの組合せの状態など、原図と焼きあがった図面との関係に常に注意しながら仕事をすすめなくてはいけない。

 一般的にいっても、図面というのは数をたくさん描くということがきれいな図面を描けるようになる最上の方法であるが、外観図の場合にはさまざまなテクニックの応用ということがとても多くなるので、できるだけ多くの作図をして、いろいろな例になれておくのがよい。

(2) 量感、質感の表現について

 円筒形にしても、角柱でも、径と高さが同じならば、エレベーションは全く同じフォルムでしか表現されないのが機械製図である。 しかし、工業デザイナーの図面は仕事の性質上、かたち、造形性ということを基準に決定を下していくためにそれだけでは不十分なときが生じてくる。たとえば円柱と角柱といった違いを表現しようとするならば、やはり、外観図を描いて量感を表現するのがよい。また機械製図ではガラスのブロックであっても、鋳鉄のブロックであっても、かたち、寸法が等しければ同様な表現でしかない。こんなときには質感を持たせた外観図を用意することがデザイナーには必要である。これらの方法には、まだ、こうすべきであるというきまりはないので、いろいろな例を研究して、よりよい方法と思われるものを見つけて白分のものとしていく態度がほしい。いくつかの方法を例としてあげるので参考にしてほしい。

 一番簡単な方法はフロッタージュによるものである。カメラの本体の外貼りのレザー仕上げ部分の表現や、モーターの開口部に防塵装置としてつけるエクステンションメタル、ラジオなどのパンチングメタルを使用してある部分などにはこの方法を用いるとよい。トレーシングペーパーに外形図を描きこんだものを用意して、レザーやエクステンションメタルの上に伏せておき、その上を鉛筆の腹の部分でこすればそれらのパターンをトレーシングペーパーにうつしとることができる。このとき、表を下にして裏側からこすれば余分に塗った部分は外形線に影響を与えることなしに消すことができる。鉛筆は腹を使って作業をしないと、トレーシングペーパーが破れてしまったり、不用なタッチを図面に描き込んだりしてしまって、きれいな図面にならなくなるおそれがあるので、よく注意して作業を進めていくことが必要である。また、塗り込んでいくさいには、焼き上がりの状態をよく想定して、極力用紙をよごさないようにすること。そして全体の調子をよく考えながら、強い、弱いのアクセントについてもよく考え、あまり単純なつまらない面に仕上げないように、立体を表現するのだという意識を常にもって作業をすすめていくのがよい。ある一つの面の中における微妙な調子の変化というものが的確に表現されて、立体感を表現できるならば、その外観図は実に大きな説得力を持つ図面となるに違いあるまい。

6・7図 11図 円筒形でも角柱でも径と長さが同じならばサイドエレベーションは同じフォルムで描ける。しかし、かたちを読みとるためには不満が多い。

8図
12図 フロッタージュでカメラのボディを描いた例

 円筒形を表現する方法も何通りかあるが、簡単な方法としては13図に示す方法がある。これは円筒を表わす基本になるラインを記入したものであるが、機械製図では、四角の対角線を細線で紡ぶとそれは平面を表わしているという記号になるように、この描き方も円筒をある程度記号化しているものである。またそれをもう少し実体に近づけた14図のような方法もある。この描き方のねらいは太い線を記入することによって図形上のポイントとし眼をそこに集中させることによって円筒をうきあがらせて、平面を立体感を持つ曲面に感じさせようとしているのである。他にも15図のように細い線をたくさん引いて調子をつけ、線の多く集まっているところを陰の部分、間隔の広いところを明るい部分とするのも一方法である。

8図
13図 円筒形の描き方。 14図 円筒形の描き方。

8図
15図 線による円筒の描き方。


 16図に断面図で示したような角アールを持った立体の上面図を描くときは、外形線を基準にしてアール部分のわきになる個所に17図のように調子をつけるとよい。

 直方体や、それに付随する部品を描き表わすような場合は、一方向からの光線を想定して影になる部分に入る外形線を18図のように太く描くと簡単ではあるが単なる外形図よりはずっと立体的にみえる。また、この場合は他の技法として、線で立体感を現わしたり、質感を加味して鉛筆の腹を利用して柔らかさを表わしたりすることもできる。また、それらの部品で影ができた場合は、突出した部品によってできるかげをうまく捕えれば、立体の量感もかなり表現することがでさるはずである。また、穴の部分は黒く塗りつぶしてしまうのもよい方法である。

8図

 プラスチックスや金属などの例をいくつか図示しておく。  外観図は質感、量感を正しく伝達させるために、対象によってさまざまな方法のなかからもっとも適切な表現方法を使わなくてはならない。そのためには、やはり、まず描いてみること。たくさんの図面に対処して、その中から場合、場合に応じて最適なものを把みとり、レパートリーを広げておくとよい。それが最大限に外観図の特色を発揮できるもとになることである。
 (なお、基本となる項は日刊工業新聞社刊設計製図叢書 第8巻 工業デザイン製図に発表してある)


8図 19図 部品の組合せによって生じる影をとらえたり部品のちがいを表現する。
8図
20図 プラスチックス容器。 21図 キャンドルスタンド上部はクロームメッキ、下部は鋳鉄駕、ツヤ消し仕上げ。


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