デザイン教育の課題
阿部 公正
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4.各種学校の役割

  各種学校とは、学校教育法第1条に掲げるもの(すなわち、小学校、 中学校、高等学校、大学など)以外のもので、学校教育に類する教育を行なう施設をいう。周知のように、その種類は多様であるが、それらは、基本的には特定の技能の習得の場という実務教育的な性格をもっている。

 だから、デザインの場合にも、多くの各種学校がもっぱら技能と実務の教育を目標としているのも、不思議ではない。だが、すでにふれたように、デザイン教育の場合、大学レベルのそれがまだ確立されていない、というのが現状だということを見落としてはならない。

 そのような状況のなかで、デザイン学校が、各種学校としての宿命的 な機能の充足にのみ落ち込んでゆくならば、デザイン現象の混乱を助長するだけであって、そこからはなんらデザインの社会的な意味はうまれてこないであろう。

 それでは、KDSについていったいどのような方向が考えられるか。新たにつくられる理想案というのではなく、現実の状況を考慮した案としては、およそ次の3つが考えられよう。
i  現行の2〜3年制のなかでの、可能なかぎりの改革
ii  4〜5年制の専門大学レベルの各種学校への移行
iii 研究所としての組織がえ

 以下それぞれについて若干の説明を加えておこう。

 iの場合、基本的には、ひとつの学園内にある東京造形大学が、大学として社会ないし産業界に対してどのような姿勢をもつか、ということが明らかにされなけれはならない。そうした理念と平行して、各種学校としてのKDSも、デザインのどのような部分をとり上げて教育するかを明らかにすることとなるだろう。
カリキュラムのうえでは、いわゆる実技が中心となることは当然であるが、そのさい在来の意味での−とくに美術教育における一実技という考え方は捨てられる。同様に、実技と相対する意味での理論科目も捨てられる。いわゆる実技は、理論を伴った演習となるだろう。そうした演習が、デザインにとって必要なもろもろの能力を育てるための中心的な場になるのでなければならない(6)。

 さらに、そのさい従来のビジュアル・デザイン、インダストリアル・ デザイン、インテリア・デザイン等の区別をとった、独自の教育グルー プを編成する方が、いっそう効果的であろう。したがって、教育しょうとするデザインの範囲が限定されなければならない。また全体の教育計画の立案と運営が最も重要なこととなるだろう。つまり、これはデザインをトータルなものとしてとらえる姿勢を、1年次から3年次にいたるまでつづける、という考え方をもとにするものであり、このような方法 は、各種学校に伴う上記の宿命的な弊害を取り除き、反対に各種学校としての利点を生かすこととなるだろう。

 iiの場合には、基本的には、大学制度に縛られることなく、インターディシプリナリーなアプローチをまったく自由に行なうことを目標とすることとなる。この場合、当然同一学園内の大学との関係が問題になるだろうが、それと重複しない道を決めてゆくことは、十分に可能だろう。

 またiiiの場合には、研究機関としての機能を主とするものであり、そ れに付随した教育機関を考えるとすれば、それは大学院レベルのものとなるだろう。いったい、デザインないしは造形の研究所というものが、 どのような組織によって成り立つのか、という点については、適例があ るとはいわれない。だが、基本的には、教育機関と関連した研究所という方向で検討すべきであって、研究を売るという形での研究所を考えることは、独自性を失う結果となるだろう。



注(6) デザインの方法がシステマティックになっている今日、演習という場は、感覚と思考とを平行してすすめてゆく場でなければならない。慎重に順序づけられた課題について、それぞれの段階で感覚と思考の総合がなされなければならない。そのような意味での理論を正しく位置づけることが、まず第一に必要なことであろう。そうでなければ学生にとって、理論と実技は別々のものとしてしか受けとられない。



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