| 5.デザインの研究について
 デザインや科学技術のように、それが社会的なものとして具体化されるためには、多くの場合企業を通 過しなければならないような領域においては、いったい教育機関における研究とはどのようなものであったらよいのかについて、それを明確に規定することは容易ではない。いうまでもなく、企業における研究をそのまま教育機関に移しても、有意義でないばかりか、有効でないからである。
 
 一般に、企業における研究は、応用研究ないしは開発という性格をもつだろう。それに対して、教育機関における研究は、基礎研究として特徴づけられる。デザインを対象とする場合にも、それぞれの研究のあり方は、ほぼ同じように応用研究と基礎研究とに区別 されるだろう。もちろん、企業において基礎研究を含むこともあり、また反対に教育機関において応用研究を含むこともありうるけれども、機関の性格からいって、基本的には上記のように規定されよう。
 
 いいかえれば、デザインの基礎研究は、それが直ちに現実に売られる製品、ないしは使われるコミュニケーション手段へとつながるものでなくてもよい。その意味では、デザインの諸問題についての無目的の研究といってもよいだろう。したがって、それは、色彩 や形態についての造形的ないしは心理学的研究ばかりでなく、生産品における機能と構造と形態との関係にかかわるもの、さらには生産品の生活環境のなかでの位 置づけという視点からとり上げられる社会学的ないしは工学的問題などを含むこととなろう。そういった探究は、けっしてアカデミズムへの逃避を意味するのではない。今日におけるデザインの機能なり価値を、根底からとらえなおすものとして、それらは−現実の企業の要請から進 められる応用研究や開発とは違った次元においてではあるが-アクチュアルなものといわなければならない。
 
 また、さきに4において各種学校の教育法について述べたさいにふれた新しい教育チームの編成にしても、上に述べたような研究が根底にあるのでなければ、具体性をもちえないだろう。すなわち、どのようなチ ームを編成し、どのような教育計画を設定するかは、どのような基礎研究を行ないうるかということと密接に関連しているものである。
 
 このような基礎研究が効果的に行なわれるためには、一方ではスタッフの個々の専門領域の特性が尊重されると同時に、他方ではスタッフ相 互の連関が保たれねばならぬことは、いうまでもない。かってのバウハウスが、有意義なデザインの進め方をなしえたのは、その原動力のひとつとしてチーム・ワークがあったからだということは、しばしば指摘されてきたとおりである。だが、もちろん今日では、1920年代という時点で可能であったチーム・ワークを、そのまま再びくり返すことはできな い。一方では、人間工学や情報理論や、さらには未来学など、デザインを進めるうえで有力な理論や学問が急速に発達しているだけに、チームを構成する要素が著しく多様になってきている事情を考えれば、今日におけるチーム・ワークはいっそう困難になっているとみられよう。
 
 そのような状況のなかで、専門領域への狭小化は、企業内のデザインの問題としては、それなりに有効であるかもしれないが、しかし教育の場においては、再考を要する問題であろう。
 
 デザインは、単なる工学の領域での対象でもなければ、また美学の領域の対象でもない。これを、もろもろの学問の関連領域としてとらえるという姿勢が根底にあるのでなければ、ほんとうに意味ある研究も、ま た教育も成り立ちえないだろう。
 
 
 第一回講義参加者(五十音順敬称略)
 
						
							| 相 場 秀 夫 | 渥 美 博 章 | 阿 妻 知 幸 |  
							| 有 本 和 子 | 五十嵐 次 也 | 石 川 忠 治 |  
							| 石 倉   巌 | 出 原 栄 一 | 伊 藤 真紀子 |  
							| 宇 賀 洋 子 | 宇賀神   勝 | 魚 住 双 全 |  
							| 潮 田 登久子 | 内 田 広由紀 | 海 本   健 |  
							| 遠 藤 誠 之 | 小能林 宏 城 | 小 俣 紀 之 |  
							| 大 江   宏 | 大 空 淑 子 | 太 田 幸 夫 |  
							| 大 辻 清 司 | 奥 村 恒 夫 | 河 合 玲 二 |  
							| 鍵和田   務 | 金 子   至 | 川 本 弘 子 |  
							| 木 村 美和子 | 岸 本 明 子 | 楠 原 義 一 |  
							| 熊 本 高 工 | 桑 原 盛 行 | 根 田 み さ |  
							| 近 藤   英 | 佐 藤 みさ子 | 清 水 千之助 |  
							| 渋 谷 邦 雄 | 下 村 千 早 | 白 石 勝 彦 |  
							| 白 木 俊 之 | 須 賀 攸 一 | 須美田 与 市 |  
							| 末 吉 琉美子 | 千 田 康 雄 | 相 馬 二美子 |  
							| 高 梨 隆 雄 | 高 松 大 郎 | 高 山 正喜久 |  
							| 田 中   淳 | 田 中 宏 明 | 田 中 正 明 |  
							| 田 中 佑 二 | 田 中 陽 子 | 谷   二 三 |  
							| 手 銭 正 道 | 塘   和 夫 | 豊 田 高 代 |  
							| 中 島 道 子 | 羽 生 道 雄 | 馬 場 雄 二 |  
							| 日 野 永 一 | 平 野   久 | 福 村 千英子 |  
							| 藤 川 喜 也 | 藤 沢 典 明 | 藤 本 経 子 |  
							| 箆   敏 生 | 前 田 晃 子 | 松 本 和 夫 |  
							| 松 谷   疆 | 真 水 公 雍 | 真 鍋 一 男 |  
							| 丸 山 陽 子 | 宮 内 嘉 久 | 三 好 二 郎 |  
							| 宮 崎 恭 一 | 宮 沢 タイ子 | 武 者 英 二 |  
							| 村 岡 景 夫 | 村 上 一 郎 | 村 田 文 子 |  
							| 森     啓 | 矢 沢 宏 司 | 矢 島   功 |  
							| 矢野目   鋼 | 柳 沼 恵美子 | 山 口 勇次郎 |  
							| 山 村 あい子 | 山 本 哲 也 | 和 爾 祥 隆 |  |