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  ‐ vol.1 安齋肇 × 森井ユカ ‐

〈桑沢〉卒業生対談 くわトーク  - Let’s talk about KUWASAWA -

大学と〈桑沢〉の2本立て
桑沢デザイン研究所には、高校から直接入学する学生だけでなく、
大学卒業の後に、また社会人として働きながら通うなど、
さまざまな学生が集まってきます。
〈桑沢〉のクラスメイトは、多様な社会を先取りして
体験できる時間がもてる貴重な財産です。
大学と〈桑沢〉を卒業したおふたりに登場いただきます。

‐ vol.2 濱二美沙子 × 西山浩平 ‐


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  濱二美沙子[はまに・みさこ]
   (株)本田技術研究所パワープロダクツR&Dセンター デザイナー
    東京都出身、東京大学文学部卒業後に、桑沢デザイン研究所デザイン専攻科プロダクトデザインコース卒業。
    (株)本田技術研究所に入社。芝刈機や除雪機など複数の製品開発に携わる。
    楽しさやわくわく感を盛り込み、これまでにない幅広い層に受け入れられて大ヒットを生んだ。
    



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  西山浩平[にしやま・こうへい]
   実業家 ELEPHANT DESIGN HOLDINGS株式会社代表取締役
    東京大学教養学部在学中に桑沢デザイン研究所にてプロダクトデザインを学ぶ。
    大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て1997年「空想生活(現 CUUSOO SYSTEM)」を設立。
    ユーザーと企業が共創し、新商品開発を実現するWebサービス「CUUSOOプラットフォーム」を提供。
    クラウドファンディングの先駆者として商品開発をサポートする。
    現在は、先端科学技術とそれをもっとも必要としているユーザーへの
    マッチングを可能にするテーマに取り組んでいる。
                                                     






ー〈桑沢〉を選んだ理由
写真 濱二:ものを作ることが小さい頃から好きで、デザイナーになりたいと小学校の文集に書いていました。でも思い切ることができず、美大ではなく文系の大学に進学しました。手を動かして作ることがずっと好きだったので、服やアクセサリーを作り、人に見せたりあげたりして、喜ばれることが嬉しかったです。
 大学3年生の時、やはり物作りを仕事にしたいと思いました。周囲の友人に相談すると〈桑沢〉を勧められました。説明会に足を運んだり学校を見学し、立地・講師陣の充実、そして夜間部があったことで入学を決めました。

西山:〈桑沢〉を選んだ理由は1に立地、2に立地。3、4が無くて5に立地です(笑)。
海外に暮らしていた高校生の頃、彫刻の道に進むことを志望しアメリカのデザイン学校に合格しましたが、そこに進むことを親が許してくれませんでした。母親は私に相談することもなく、日本の大学の経済学部へ願書を送っており、旅費は出すから試験だけ受けに来てくれ、と。その提案に応じて試験を受け、合格しました。反抗期でしたから親元を離れるために入ったようなものです。
 しかし大学に入学しても、長く海外に暮らしていたので、まず日本語がわかりません。他の学生は4月から入学して顔なじみになっていましたが、私は6月入学。学校の仕組みもわからなければ友達もいない状態で、早々にドロップアウトしました。彫刻を続けたいという思いはつのり、制作場所を確保するため美術サークルに入りました。1年生なのに勝手に部長に就任したことにして、猫と一緒に部室に住みました。彫刻をして暮らそうと思いましたが作品は売れず、授業に出なくなったことが親にも知られて学費を止められました。
 困ってぶらぶらしていた時、下北沢でオーダーメイドのカバン屋を見つけ、そうだ、オーダーメイドであればそれほど言葉が話せなくても注文がとれるだろうと思いつきました。スケッチブックと鉛筆があれば、こうですか?とイメージ画を描いて、違うと言われれば修正し、OKが出たら値段を確認する。イメージと値段が合致したら仕様を決めて職人さんに依頼すればいい。前金制にすれば材料費にあてられるから、食いはぐれもないだろうと思ったのです。
 でもよく考えるとカバンの値段は高くても3万円程度なので、フルタイムで働いても収入は頭打ちになってしまう。そこでもっと単価の高いものを、と考え、家具だと思いました。そして、近くにあった〈桑沢〉を思い出したのです。家具の作り方を学べる上、地下の工房が遅くまで使えるということも耳にしていたのです。 当時、大学に在籍しながら昼間は働いていたので、勉強する時間は夜しかありません。お金をかけずに自転車で通えるところにする必要もありました。


ー一本一本の線から生まれる、異なる表現
写真 濱二:多くの方に自分の作ったものを使ってもらいたい。また自分のデザインで人々の生活が少しでも良くなればいいなと以前から考えていたので、〈桑沢〉に入学した時には、企業デザイナーになろうと決めていました。アルバイトをしながらそれぞれの企業で、そうした量産品を作れる余地がありそうかをチェックしていました。
〈桑沢〉では就職活動に向けたポートフォリオは1年次から作り始めます。入社試験は美大で3年間学んだ人たちと一緒に受けることになるので、その人たちに追いつけるように多くの課題をこなし、それをポートフォリオに込めました。
 課題はどれも楽しかったですね。頭で考えるのではなく、手で粘土をこねたり。理屈をこねるのではなくて手でこねるのがいい。頭で考え過ぎずに手を動かして何かを作るということは、子供時代には当たり前のようにやっていたことであり、とても気持ちがピュアになりました。他の人の作品を見る、刺激を受ける、そしてまた作る、という繰り返しも楽しい思い出です。

西山:写真私にとっての思い出は、冬の教室でストーブを焚きながら、黙々とやっていたデッサンの授業です。目の前にあるものをどう解釈するのかは自由。ただ細い線を重ねてもよいし、並べてもよいし、交差させてもよい。みんな黙って線を引くわけです。次第に奥行が出て、形が浮かび上がってくる。
 モデルさんは毎回違いました。ふくよかな方、痩せている方、魅惑的な方、男の人もいました。いろいろな人をみんなが真面目な顔して描いていたのがおかしかった。でも、線を引くというシンプルな所作を重ねるだけで何かを表現でき、でき上がった表現が人によって全部違うという体験は、自分にとって大きかったと思いますね。
 それは今の活動にも通じています。何もないところから、人と話をしてプロトタイプを作り、どこかでインスピレーションを得て、発展させていく。ささいな日々の行為を、限られた道具(紙と鉛筆)と時間の中で積み重ねていくという点でも同じです。私はもう何十年も木炭に触っていませんが、デッサンの時のようなプロセスは、今も続けているような気がします。
 デッサンでは、一度間違って線を描いてしまうとなかなか消せません。紙のひだの間に木炭が埋まってしまうため、表面をそぎ落として羽ぼうきで掃けば多少は落ちますが、それでも引いてしまった濃い線の軌跡は消せないのです。人物像の頬や鼻など、ハイライトとして白いままにしなくてはいけないところに残ってしまうと、傷跡のようになります。
 でも、そういう誤りは、プロジェクトを進める際にも生じます。まだ発表してはいけなかったこと、調達や決定が先行してしまい、後戻りできなくなったりすること。そういう時にデッサンで紙を変えるように「やめる」という選択もあるのですが、逆にどう解釈し直せるかを考えていくのです。実はそういう日々の積み重ねこそが人生だと言えますね。
 私が好きだったのは、一番濃くするところを見つけて、そこを徹底的に濃くしていく方法。濃いところを決めれば、後はそこからどう薄くしていくかを考えるだけです。白いスペースを残しながら、大事なところだけ先に線を引いていきました。

ー1年間で1000案にふれる
くわトーク西山さんデザイン 濱二:くわトーク濱二さんデザイン2印象深かったのは「卵で何か作ってきてください」というような、謎めいた課題を出す先生の授業でした。「わ」という文字だけ黒板に書いて「『わ』でやってきてください」と言って教室から去ってしまう。しかも期限は1週間です。
 次第にネタが切れてきて疲れることもありましたし、絶えずアンテナを張って考え続けていなければなりませんでした。毎週30人くらいが案を提出、1年間では1000案にふれることができたことは、頭の刺激になりました。あきらめない、限界を超える感覚を、楽しみながら身につけられました。

西山:そう、変わった課題や授業はいろいろありましたね。砂糖を溶かしたり、絵の具をまぜて沢山パレットを作ったり。視覚ではなく触覚を頼りに、木の塊を自分の手に心地よい形に仕上げる〈桑沢〉名物の「ハンドスカルプチャー」は良かった。これはずっと続けて欲しい課題です。展示物を用意する時などに的確に指示が出せるようなボキャブラリー、またそのための視点や考え方なども〈桑沢〉で会得できたのだろうと思います。

濱二:デザインの仕事というと、表層を綺麗に整える印象もありますが、スキルだけを磨いてきれいに整えるだけでは足りません。開発の仕事も、複雑で混沌としていて、いろいろな要因があります。製品の個性、作り方、いろいろなことが複雑に絡まってくる。経験にもよりますが、そうしたさまざまな側面を把握しながら、これだ、と提示できるのが善いデザインの仕事だと最近は思えます。
 機械なら構造から考える。どんな人が使うのか、どんな人に伝えたいのか。そこから考える訓練をしました。スキルじゃなく本質を見て、考えて、感じる大切さを〈桑沢〉で教わりました。
 私は、最近の仕事で小型耕うん機のモデルチェンジを担当しました。弊社の耕うん機の中でも小型の機種だったので、女性や初心者の方でもより使いやすいように外観も大きく変更しました。その時は複数機のモデルチェンジが重なっていたので、そのうちの2つを「兄弟」にしてみようと考えました。少し大きくて安定したハンドリングができる上位機種は、『しっかりもののお兄さん』。小ぶりでパワフルな下位機種は『やんちゃな弟』と、それぞれ機械の特性にあったイメージを与え、個性を持たせつつ統一イメージを与えました。また一般的に女性は色の印象に敏感と言われているので、パーツごとの色分けにメリハリを強くし、色から受ける印象を強調しました。
 製品がきれいであることは当然ですが、ただ流行りを取り入れるのではなく、その商品がどのように使われるかという視点はとても大事です。そのため実際に畑に行き、自ら機械を使った耕うん作業も行いました。耕うん機での作業は、機械が元気に、パワフルに動くので、かなり力が必要であることや、耕うん作業や畝立て作業というものは、できるだけ真直ぐに進みたいのだということが、やってみると、改めてわかってきます。そこで「元気な機械」という特性を、樹脂カバーの造形に表現したり、真っ直ぐに進むための目安になる造形を入れこんだりしました。でもやはり本質的に大切なのは、おいしい野菜を作りたい、とか、楽しく畑仕事をしたい、という作業者の気持ちを、いかに形にしたり外観に込めていくかということだと思いますので、それを意識して開発しました。


ー異分野の人こそ、直感を育める
くわトーク②5 西山:学校は便利な渋谷にあり、入口まで歩かせるようなグラウンドもない。〈桑沢〉は無駄がないですよね。文科省の指導要綱と関係なく自由闊達にいられることを教えます、という印象を受ける。校舎や食堂を増設すれば、運用するために学費を上げなければいけない。でも〈桑沢〉は小さい敷地に変わった建物を建てて、目的に対して機能を最大限に活かしている。
 桑澤洋子先生の教えなのでしょうが、必要最低限のものしか提供しないけれど必要なものは全部揃っている。多額の広告費も使わない、明朗会計で質実剛健。必要なものを必要な時に必要なだけ与えるところがいい。
 私の仕事のパートナーであり、ELEPHANT DESIGN HOLDINGSのグループ会社、elephant design株式会社の社長も〈桑沢〉の同級生です。無駄なく、必要最低限で価値あるものを大事にする。そして慈しむように使っていくというのは〈桑沢〉らしいと思います。

濱二:現在は具体的な商品開発からは少し離れ、既存製品の枠組みを超えた新たな提案をデザイン軸で行うために、原宿にある弊社のデザインオフィスで仕事をしています。〈桑沢〉にも近い場所です。この場所は、情報量も多く、非常に刺激を受けます。〈桑沢〉のあるこういった場所で若い時に過ごすことができたことは、貴重ですてきなことだと改めて思います。

西山:〈桑沢〉は4年制大学に通学しながら、あるいは卒業してから通う人もいますね。普通の人が遊びやアルバイト、フェイスブックやラインをする時間をデッサンなどにあてることになるわけです。その価値を当時は分かりませんでしたが、デッサンで濃い部分を作るように人生の一部分に濃密な影をつけるなら、あの時期しかなかったと今は思います。結婚して、子供を持てばそういうことができる余裕もなくなりますから。
 できる時期にやるという点から、大学生でアルバイトをしなくても済む境遇にいるのなら〈桑沢〉に来てみるのも良いと思います。目が悪くなったり体力がなくなったりしてからでは「ハンドスカルプチャー」などの課題や、言語に頼らないデザインの体験が、体力的に大変になってくる可能性があるからです。しかるべきタイミングで、体に覚え込ませなければならない基本的なことを体験できたのが、私にとっての〈桑沢〉。
 語学学校や経済学部などに行ってしまえば、相手はパソコンです。本は読むかもしれませんが、論文はダウンロードでレポートもオンラインで提出する。推敲するために印刷するかもしれませんが、ほとんど画面上でできてしまう。抽象的な概念や言葉をあやつる知識や技能は得られますが、社会には、言語以外の要素が沢山あります。
 特に、私は抽象的な学問に携わっている、薬学や物理、コンピューターサイエンスや数学など、難解で抽象的なことをしている人に〈桑沢〉を勧めたい。物理現象や自然現象、社会現象でも、知覚しきれないものをなんらかの形で消化して表現する場合に、抽象的な世界しか知らない人は、咀嚼する力が限定的で、限界があると思います。
くわトーク②6  デザインと遠い領域にあった人が感覚や直観力を頼りに取り組む課題に、疑問に思いながらも向かい合うと、その経験は体の中でマイクロレベルで残ります。モレキュラー(分子、最小の組織)とモレキュラーの反応、普通はつながりにくいところがつながっている。すると直感が働くようになるのです。
 身体を使って覚えた美しいものや、心地いいものは、言葉で知覚できるはるか前に記憶として体内に蓄積されます。それは一種、言葉を伴わない知覚のようなものです。デザインを勉強するとは、こうした直感によって把握できる事の語彙力を増やすトレーニングをすることだと思っています。
ですので、デッサンや彫刻で美しいバランスを身体に覚えさせる事は、普段、文字や数字で扱う事を専門とする人ほど、大切だと思うのです。というのは実験結果を見て良い仮説が作れるかどうか、問題を見て背景に潜む構造に気がつくかどうかは、頭だけでなく直感を働かせた方が正解に辿りつきやすいと思うからです。
 渋谷のように交差点の多い街にあって、普通は交差しない人たちを交差させる社会的機能を〈桑沢〉は担い続けられる存在だと思います。

〔対談日:2017/04/20 @桑沢デザイン研究所〕