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グラフィックデザイナー 平野佳さん

2019年 ビジュアルデザイン専攻 卒業

1997年生まれ。〈桑沢〉を卒業後、株式会社ワークアップたき(現・たきコーポレーション)にてグラフィックデザイナーとして勤務。2022年、食への関心をきっかけにオイシックス・ラ・大地株式会社へ転職し、サービスの開発・運用に関わるデザイン業務に従事。UI/UXやイラストレーションなど活動の幅を広げながら、デザインを通じて食と暮らしをより豊かにすることを目指す。

モノを作る力

▲Oisixを初めて利用する方向けのパンフレットは、企画から撮影ディレクションまで平野さんが一貫して手がけています。料理に苦手意識がある方でも楽しめるよう、調理の豆知識やイラストを活用した説明など、さまざまな工夫が凝らされています。

―― 〈桑沢〉昼間部での3年間はどのような時間でしたか?

デザインへの考え方が垂直にも水平にも広がっていった時間でした。たとえば、2年次に取り組むパッケージデザインの授業では、コンセプトから実際のパッケージ制作までをひとりで行います。リサーチを重ね、コンセプトを立案し、手を動かしながらモックアップをつくり、その試行錯誤を繰り返すことでデザインの考え方が深まっていきました。また、1年次にビジュアルデザインだけでなく、他の専攻のデザインを学んだことで、デザインを幅広く捉えられるようになりました。他の学校でビジュアルデザインを学んだ方と一緒に働く機会も多いのですが、特に驚かれるのは“ モノを作る力” です。道具を適切に扱えること、そして平面だけでなく立体の制作もできること。これは、〈桑沢〉でプロダクトデザインやスペースデザインを学んだからこそ培われたスキルです。

―― 実際に形にすることは重要なのでしょうか?

WEBデザインに特化する場合は必須ではないかもしれませんが、多くの制作物はポスターや冊子といった形で、WEB上の画面だけにとどまりません。実際に手に取ったときの質感や空間に配置したときのサイズ感など、モノとしての形にすることは大切だと思います。

自分の中に正解をつくる

―― 卒業後、制作会社に就職されています。実際に社会に出て感じた〈桑沢〉との違いはありましたか?

明確に違いを感じたのは、ひとつのデザインを追求する姿勢です。学生時代も制作に手を抜くことはありませんでしたが、クライアントワークでは求められる基準が大きく異なります。お金をいただいている以上、“このぐらいでいい”という妥協点はなく、常にクライアントの期待を超えるものが求められます。紙の厚さから字間の0.1ミリまで最適解を突き詰めていきます。プロのデザイナーとして求められる姿勢を身をもって感じました。さらに、チームで働くということも学生時代とは異なる経験でした。2年目からは、クライアントとの窓口を担当することになり、クライアントが本当に望んでいることを把握し、それを社内チームに的確に伝えることが求められました。責任と言うと簡単に聞こえますが、自分の力量次第でチームの制作物が変わるというプレッシャーは大きなものでした。

―― 転職されたきっかけについて教えてください。

自分が関わるサービスやプロダクトのすべての工程を知りたいという思いからです。制作会社にいた時は、自分がつくったものが実際に誰に届き、どんな反応があったのかを知る機会がほとんどありませんでした。これは〈桑沢〉の授業で一連の流れを経験したからこそ言えることですが、コンセプト立案から販売に至るすべての工程に携わりたいと考え、現在の会社に転職しました。

―― 現在の仕事内容についても教えてください。

既存サービスの運用と新規顧客獲得のためのサービスの立ち上げに携わっています。新規サービスの立ち上げに際して、まずは食材の生産者に話を聞き、コストやスケジュールを考慮しながらプロトタイプを作成し、お客様にインタビューを行い、サービスを改善していきます。プロセスの本質は変わりませんが、それまで意識していなかった数字面など、考慮しなければならない要素が格段に増えました。

―― 転職することのメリットを教えてください。

ひとつの企業に長くいると、どうしても視野が狭くなってしまい、その企業のデザインの考え方にとらわれてしまうように思います。しかし、それは数あるデザイン手法のひとつにすぎません。私は転職を、単に自分のスキルをいかすためではなく、これまでできなかったことに挑戦し自分のデザインの幅を広げる手段だと捉えています。たとえば、1社目では関われる工程が限られていたからこそ、大規模な案件でプロフェッショナルなチームと働けたことで、自分の中に“ 正解”を確立することができました。一方、2社目では前職ほどの規模ではないものの、新規サービスに立ち上げから関われたことで、数字を見ながらデザイン・プロセスを進めるスキルを身につけることができました。新しい環境に身を置くことで視野が広がり、デザインの幅も広がる。それがまた次のステップへとつながっていくのだと思います。

デザインの原点

―― 〈桑沢〉を目指される方へ、今だからこそ伝えたいことはありますか?

とにかく全力で課題に取り組むことが大切だと思います。私自身、社会に出て忙しい日々に追われている中で、自分の“ 好き”を見失ってしまったことがあります。しかし、〈桑沢〉でつくった作品を見直すと、自分が好きだったことに立ち戻ることができました。それらは私にとってデザインの原点のような存在です。デザインだけに集中できる3年間は本当に貴重な時間ですので、後悔しないように全力で楽しんでください。


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