
イラストレーター 髙橋あゆみさん
多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻を経て、桑沢デザイン研究所デザイン専攻科(夜間部ビジュアルデザインコース)に入学。卒業後はグラフィックデザイナーとして勤務する傍らイラストレーターとしての活動をスタートし、2023年に独立。現在はフリーランスで広告や装画、パッケージなど幅広い分野で活動する。
フリーランスのイラストレーターとして、主に書籍の装画や雑誌の挿絵、Webサイト、広告媒体などのイラストを担当しています。それほど多くはありませんが、パッケージ用にイラストを提供することもあります。同時に個人での制作にも取り組んでおり、年に1、2回のペースで個展を実施しています。
▲2026年桑沢デザイン研究所イメージポスター
▲週刊誌『週刊文春』(文藝春秋)のリニューアル号(2025年9月11日号、9月4日発売)で表紙のイラストを担当。約48年間にわたり表紙を手掛けた和田誠さんに代わり、新たな表紙イラストレーターのトップバッターとして起用された
▲個展で発表したイラスト作品
―― クライアントワークにおける制作過程を教えてください。基本的にはクライアント様から依頼をいただき、スケジュール感などを踏まえながら仕事を引き受ける流れになります。イラストについては具体的な指示をいただくことも多いですが、私の場合は媒体のテーマを好きに解釈して自由に描いてほしいという依頼も多いですね。雑誌の企画に挿絵を提供する際はテーマからアイデアを練り、書籍の装画は内容を読んでからイメージを膨らませています。
▲髙橋さんが装画を手掛けた書籍
―― お仕事において面白さを感じるのはどんなときですか?私のイラストは少し不思議な世界観だと言ってもらえることが多く、その世界観を活かして物事をわかりやすく伝えてほしいという依頼をよくいただきます。私自身、テーマをどのように解釈し、ビジュアルに翻訳するのかを考える工程に最大の面白さを感じています。説明的になりすぎず、遊びの要素を取り入れながら表現することを常に心がけています。
▲株式会社オリコムのWebサイト用に制作したイラスト
―― これまでのお仕事で印象に残っているものはありますか?月刊誌『小説推理』の表紙は、3年にわたって担当している印象深い仕事のひとつです。読者の方に毎号楽しんでいただけるよう、構図や色合い、アイデアを工夫しながら制作しています。納得のいく表現を考える難しさはありますが、その分、毎回新しいことを試せる楽しさも大きく、試行錯誤を重ねながら取り組んでいます。
▲毎号表紙のイラストを担当している月刊誌『小説推理』(双葉社)
また、テックタッチ株式会社様が手掛けるサービス「AI Central Voice」のWebサイトに提供したイラストも楽しい仕事でした。「AI Central Voice」は、顧客の声、つまりデータをAIで分析するサービスです。その意義が視覚的に伝わるように、顧客から寄せられるさまざまな声をカラフルなドットで表現しました。
普段のイラストと異なっているのは、ドローイングのタッチで描いていることです。このタッチに決まったのは、アートディレクターの方が個展に足を運んでくださった際、そこで展示していたドローイングの作品を気に入っていただいたことがきっかけでした。伸び伸びとした勢いのある線や、きっちりしすぎていない余白のあるフォルムなど、いつもとは違う表現で描けることが楽しかったのを覚えています。個人制作で取り組んでいたドローイングがクライアントワークにつながったことも嬉しかったですね。
小さい頃から絵を描くのが好きで、それを仕事にすることに憧れていました。母親が読み聞かせのボランティアをやっていて、家に絵本がたくさんあったことにも影響を受けていると思います。高校卒業後は美術大学に進学し、油絵やドローイングに注力。やがて社会に出ることを考えるタイミングが訪れました。
しかし当時の私は、自分が世の中に出るイメージを持つことができませんでした。少しだけ就職活動もしたのですが、社会で働く実感がまったく湧かなかった。せっかくならものづくりに携わる仕事をしたいと考えつつも、このままでは足りないものがたくさんあると感じていました。そこで浮かんだのが、自分の強みを増やしたいという思いでした。以前から興味を持っていたグラフィックデザインを通じて社会とつながるノウハウを身につけたいと考えた時、〈桑沢〉の存在を知って入学することにしました。
〈桑沢〉を卒業した後はデザイン事務所でグラフィックデザイナーとして働いていました。仕事の中でイラストを描く機会も多くありましたが、日々の業務がとても忙しく、個人で制作する時間はなかなか取れずにいました。転機となったのは、コロナ禍によって家にいる時間が増えたことです。その時間で新しいことに取り組もうと考え、ZINEの制作に挑戦しました。そこから徐々に依頼をいただけるようになり、本業との兼ね合いが難しくなったことでフリーランスになることに決めました。
昼はアルバイトをしながら夜間部に通っていたので、課題を終わらせることには苦労しました。ただ、社会人や高校を卒業してから入学した人、私と同じく大学卒業後に入学した人など、さまざまな年代の人が集まっている環境は非常に刺激的でした。特に覚えているのは、モノクロだけで素材の硬さと柔らかさを表現する課題です。私はフォルムや濃淡を工夫することで表現しましたが、他のみんなもそれぞれのアイデアを凝らしていて、それを見るのが面白かったですね。
また、「舌足らずの言葉のほうが、伝わる言葉は多いのではないか」という考え方も、強く印象に残っています。〈桑沢〉には毎回ゲストスピーカーを招く授業があったのですが、その際に、広告業界で働くアートディレクターの方が話されていたものです。完璧に説明するのではなく、余白のあるコピーやビジュアルを入れる。そうすることで表現に奥行きが生まれ、見た人の経験と共感する部分が広がり、広告がより魅力的に伝わる。この教えは、イラストレーターになった現在も大きく役立っています。
グラフィックデザイナーとして働き始めたころは、課題を通じて得た学びが仕事の基礎になってくれました。また、イラストの仕事でも、見た人に伝わりやすくなる構図や色彩を学んだ経験が活きていると感じています。もちろん美術大学でも表現について学んでいましたが、当時は、自分の感覚や好きなものを掘り下げながら制作することに、より重きを置いていたように思います。第三者がイラストを見てどう感じるのか、伝えたいことがきちんと伝わっているのかといった視点を持てるようになったのは、〈桑沢〉がきっかけでした。
―― 髙橋さんの今後の目標を教えてください。もともとは「描きたいものを描く」という気持ちを大切にしてきましたが、〈桑沢〉での学びとデザイン事務所での経験が重なったことで、少しずつ客観的な視点を意識しながら制作に取り組めるようになりました。グラフィカルなタッチのイラストレーションは、現在の自分らしい表現のひとつになっていますが、今後はさらに表現の幅を広げていきたいと考えています。そのために、クライアントワークと個人制作の両面で新しいチャレンジを続けることが目標です。
―― 最後に、〈桑沢〉に興味を持っている高校生や社会人に向けてメッセージをお願いします。課題はたくさん出されますが、その分得られるものも大きいと考えています。先生も熱心な方が多く、渋谷という立地も刺激に満ち溢れていて魅力的な環境です。イラストレーターを目指す方にとってもデザインの知識は力になりますので、ぜひ〈桑沢〉で学びを深めていただけたらと思います。



