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日都産業株式会社/デザイナー 堀越千春さん

1988年千葉県生まれ。2018年に総合デザイン科プロダクトデザイン専攻を卒業後、日都産業株式会社に入社。公園などに設置される屋外向け遊具のデザインを担うデザイナーとして活躍する。

CDジャケットのグラフィックに惹かれてデザインの道へ

―― 堀越さんがデザインの道を志した経緯をお聞かせください。

小学生の頃から図工の授業が好きで、夏休みの宿題の工作は弟の分まで手伝ってしまうほどでした。デザイナーとしての原点は、中高生の頃にレンタルショップで借りたCDです。当時は「このジャケットでこの楽曲なのは意外だな」「この楽曲はジャケットのイメージそのままだ」と、ジャケットとあわせて音楽を楽しんでいたのを覚えています。そこからデザインに興味を持つようになりました。

とはいえ、最初から美術系に進路を決めていたわけではありません。きっかけは、文理選択を迫られた高校2年生のときでした。文系、理系ともに興味を持てず、先生に相談して同じ学内の芸術コースに転科したことから、デザインの道へ進むことになりました。

―― 桑沢に入学したきっかけや決め手は何ですか?

高校卒業後は美大を受験するも合格できず、8年間の浪人生活を経験しました。浪人8年目のときは自分のなかでやり切った感覚があったため、併願して受験していた桑沢への入学を決めました。自分がやりたいデザインを学べる専門学校としては、個人的に桑沢一択でしたね。高校の同級生や浪人仲間が桑沢に通っていて、身近な存在だったのが大きいかもしれません。多様なジャンルにおいて国内外で活躍するデザイナーを数多く輩出していることや、教育カリキュラムの充実度も決め手になりました。

桑沢での課題制作を通して、やりたいことが明確になった

―― 在学中、特に印象に残っている授業や課題はありますか?

1年次に履修していた「基礎造形(構成・立体)」「立体を考える」という授業がいまだに強く印象に残っています。「基礎造形(構成・立体)」で特に面白かったのが、ある制約のもとに、多種多様な立体図形を考案してスケッチを描いていく課題です。

この課題制作の経験は、仕事で遊具のデザインを考える際のアイデア出しや発想の転換にも役立っていると感じます。

基礎造形_立体_課題

▲「基礎造形」で提出した課題。決められた制約(例:立方体×1±直方体×1)に従い、他マスの余白に立体図形を描き込んでいく

「立体を考える」では、上面、正面、左右それぞれの角度ごとに異なるアルファベットが見える立体物の制作や、破片状になった石から本来の形状を想像して欠けている部分を補って形に起こしていく課題が印象的でした。

アルファベットの立体物の制作は最低1種類の提出でよかったのですが、私の場合は夢中になりすぎて100個ほど作ってしまいました(笑)。入学当初はグラフィック領域への興味が強かったのですが、これらの授業をきっかけに立体造形にハマっていきました。自分がやりたい方向性が明確になったという意味でも、転換点になった授業でしたね。

▲「立体を考える」で取り組んだ課題。見る角度によって異なるアルファベットが浮かび上がる

立体を考える2

▲同じく「立体を考える」で取り組んだ課題。欠けた石の形状や手触りを手がかりにもとの形を想像し、紙粘土で補うようにして制作

―― 卒業後の進路についてお聞かせください。なぜ現在の仕事を選んだのでしょうか?

就活時には、大きく2つの軸を意識していました。1つ目は、自分が得意とする絵やスケッチを描くスキルが活かせること。2つ目は、車や建築物のような大きいものではなく、身近なインテリアや小物のようなサイズ感のデザインに携われることでした。大きいものになるほど思い描いたデザイン通りにはならない印象があったためです。

そんなときに、桑沢の学内企業説明会で日都産業を知りました。小さなサイズのモノをデザインすることをイメージしていたため、遊具のデザイナーとして選考を受ける際は、まだ迷いがありました。しかし、遊具という大きなデザインをする自分が想像つかないからこそ、あえて挑戦してみたら面白いんじゃないかと。そんな逆転の発想で入社を決めました。入社した当初は自分のデザインと設置された遊具とのズレに戸惑うこともありましたが、今ではそんなズレも考慮に入れつつデザインの仕事を楽しめています。

遊具のデザイナーは子どもの思い出に寄り添える仕事

―― 改めて、現在の堀越さんの仕事内容を教えていただけますか?

デザイナーとして、オリジナル遊具のデザインを行っています。遊具の設置場所は、公園や商業施設をはじめ、場合によっては自宅のお庭までさまざま。予算や立地、デザインのイメージなどクライアントの要望に合わせて、パソコンを使い3Dデザインで遊具をデザインしていきます。

また、遊具の外観や内容をわかりやすく絵にして伝える資料(通称:パース)を作成するのもデザイナーの仕事です。これはコンペでも使われるもので、パースを見た子どもたちによる投票で採用が決まるケースも少なくありません。クライアントが見てわかりやすいだけでなく、子どもたちにもワクワクしてもらえるパースづくりを心がけています。

星空アスレチック

▲パースは、大人から子どもまで遊具のイメージや遊び方が伝わるように描かれている

―― これまで堀越さんがデザインした遊具について教えてください。

設置される遊具は複数メーカーのコンペ形式で決まることが多く、採用に至らずに実現されない遊具も多々あります。そのため、自分が提案して初めて採用された「星空アスレチック」は、今も鮮明に記憶に残っています。

星空をテーマにするアイデアは、公園内のトイレの外壁に星座のタイルが埋め込まれていたという営業メンバーの情報から生まれました。真上から見たときに、平均台はカシオペヤ座の形に、ジグザクに折れ曲がった複合遊具は北斗七星の形にするなど、遊び心を加えています。

星空アスチック設置写真

▲実際に公園に設置された「星空アスレチック」

―― 仕事をするうえで大切にしている価値観や考え方はありますか?

遊具メーカーの仕事は、営業、デザイン設計、遊具の加工、組み立て、設置に至るまでさまざまな人が関わって成り立っています。だからこそ、デザイナーとしてひとりよがりにならない仕事の仕方を心がけています。デザイン面では、子どもたちが怪我をすることがないように安全性への配慮が欠かせません。あわせて、子どもが遠くから見つけたときにパッと目を輝かせてくれるような遊び心のあるデザインを意識しています。

―― どんなときに仕事のやりがいを感じますか?

自分がデザインした遊具が実際に設置されて、子どもたちが遊んでいる姿を見られたときはうれしいですね。また、遊具のデザインは、子どもの思い出に寄り添える仕事だと思っています。たとえば小さい頃にジャングルジムで手が滑って痛い思いをした、ぶらんこを漕いだ後の手から鉄の匂いがしたなど、大人になっても覚えている思い出はありませんか?子どもたちが大人になって昔を振り返ったときに「あの公園で遊んだな」と記憶に寄り添うことができるのは大きなやりがいです。

―― 桑沢での経験が仕事に活かされていると感じる部分はありますか?

在学時の3年間は、入学から卒業するまで常に何かしらの課題制作やコンペに取り組んでいました。当時はアルバイトもしながら課題にも取り組む毎日で、1時間単位でスケジュール管理をするなどスキマ時間を活用していました。時間をかければよりよいものを制作できるとしても、全体のバランスや自分の状況を考慮し、一定の基準で区切りをつける決断をしたこともあります。

こうしたスケジュール管理のスキルは、今の仕事にも通じています。タスクが山積みのなかで納期が連続する時期など、当時の経験がなければこの仕事量をこなすことはできなかったと思う場面も多いです。

また、桑沢には社会人経験を経てきた人や4年制大学を卒業して入学した人など、さまざまなバックグラウンドを持つ人がいます。そんな友人たちからも多くの刺激を受けました。以前の私は、デザインで100点を出さなければいけないと思い込んでいたんです。しかし個性豊かな友人との学生生活を通して、100人いれば100通りのデザインがあるのだと気づきました。デザインには正解というものがありません。そこで自分なりに1つの選択肢を提示できればよいのだと、肩の力を抜いてデザインと向き合えるようになりました。

―― 最後に、桑沢に興味を持っている人や在校生に向けてメッセージをお願いします。

まだ高校生で進路や将来を決めるのが難しいという人も、他者との関わりや制作への挑戦を通して、自分が得意なものや夢中になれるものがきっと見つかるはずです。桑沢にはそれができる環境が整っています。少しでもデザインに興味を持っているなら、ぜひ思い切ってここからデザインの世界への一歩を踏み出してもらえたらと思います!


<2024年4月>
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