日本で最初の『デザイン』学校で未来を創造する【専門学校桑沢デザイン研究所】

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【月刊インタビュー】桑沢卒の素敵なあのひと
今注目のクリエイターにお話を伺う連載。第4回目は、営業職からプロダクトデザイナーになったあのひとです!


株式会社COLOR. 草桶 開さん

法政大学 デザイン工学部 建築学科卒業後、インテリア会社に勤務。
その後、桑沢デザイン研究所 夜間部 専攻デザイン科 プロダクトデザイン専攻を卒業し、
株式会社COLOR.に入社。
プロダクト、スペース、グラフィック等領域を絞らず活動中。
yumegiwatoneという名義で作曲活動もしている。

―― デザインに関心を持ったきっかけを教えてください。

母が漫画家兼イラストレーターで、かつ図画工作教室を開いていた影響もあり、小さい頃から物作りに触れてきました。

デザインに興味を持ったきっかけは、池袋の大きな本屋に置いてあった木の椅子です。試し読み用に置いてあるのですが、素材は硬いのに座り心地が柔らかく感じたんです。その体験でものづくりへの興味がより深まり、デザイン系の学部を受験することにしました。
実は姉が桑沢卒なのですが、美大受験はとても大変そうな印象が強く、自分の得意な理系科目で受験できるデザイン工学部を選びました。

建築について学んだ大学生時代

―― 大学では何を学びましたか?

建築学科で建築について学び、デザイン系のゼミに進みました。

卒論では、「建築とプライバシーについて」という論文を書きました。きっかけは劇的ビフォーアフターというテレビ番組です。家の前の道に対して全面ガラス、内部も風通し重視でほぼ扉なしのデザインだった回があり、全部見られたら嫌じゃないか?と感じたのがきっかけです。論文の結論としては、匠のデザインはプライバシーの感覚そのものを変えていこうという大きな動きの1つだと解釈すれば、納得できると書き上げました。戦後の日本では住宅を増やさなければいけなかった関係上、ユニット式の住宅(団地)がたくさん出来たんですね。襖で空間を仕切っていた頃よりもどんどん内向き志向になっていったのですが、それは体にも心にもよくないという説があります。従って、日本人の住環境の意識を変えていくためにも、よりオープンな空間を提案していたんだなと理解できました。

―― 論文執筆後、別に作品を作ったりするんですか?

卒業設計では大きな模型を作ります。曲作りが好きなので、「作曲手法で建築をつくる」というテーマに決めました。環境音楽と呼ばれるジャンルがあるんですが、海や風の音さえも音楽になるという概念です。高速道路と海に囲まれた実際にある公園を敷地として、適した環境音楽を設計することにしました。音楽にはメロディーラインや副旋律、コードなど様々な要素があり、それらが重なり合って曲になります。それぞれの音の用途やその構築方法を、建築に応用するとどうなるか実験しました。最終的には、1m四方の模型を寝ずに作ったのを覚えています(笑)。

―― 大学時代は、どのような就職先を考えていましたか?

まず考えていたのは、デザインと同じくらい好きな音楽活動にあてる時間が取れること。かつインテリア系の企業であること。デザイン事務所はめちゃくちゃハードなのを知っていたので、音楽とのバランスを考えると厳しいかなと思いました。最終的にインテリアコーディネートもできる企業を探して採用されたのが、カーテンや絨毯を取り扱う企業です。

日本国内に100店舗ほどあるのですが、僕は大宮の店舗配属になりました。ご来店されたお客様や外回りで提案するのがメインでしたが、僕がもの作りを好きだというのは周りも知っていたので、職人仕事にも参加させてもらいました。ただ色々やっていた結果、かなり疲弊しちゃったんですね。音楽活動の時間も取りたいと思って就職したのに、それも出来なくて。どんな仕事も大変なんだって気がつきました。音楽もできないなら0から作る仕事をしたくて、入社1年目から桑沢にいこうって決めていました。

―― 桑沢に決めていたのは、お姉さんの影響もありますか?

そうですね。姉がデザイン事務所に関わっていた影響もあり、僕がデザイン系の仕事に就くにはこのままだと厳しいぞという話になって。桑沢に通えばいけるのではないかというのと、社会人生活の2年間で貯めた金額で通えるかなというのもありました。また姉を見ていて、しっかり勉強したい意思があれば、先生方も応えてくれるんだなと感じていました。

デザインプロセスが身に付いた桑沢時代

―― スペースデザインではなく、プロダクトデザインを選ばれたんですね。

有名な家具は建築家の作品が多かったこともあり建築学科にいった結果、家具自体の勉強はできなかったんです。あと生活雑貨にも興味があったので、プロダクトを専攻した方が知見も広がりますし、就職時の間口も広くていいかなと思いました。

自己推薦入試では、お気に入りの時計について描いた課題作品とポートフォリオを持って説明しました。夜間部は入学時のポテンシャルよりも、入学後に何をしたいかというのが非常に重要な気がします。デザインの経験がなくても、熱意が伝わるようなものが書ければ試験でも評価されるのかな。夜間部の学生は特に多様なバックグラウンドを持っていて、人によって能力の差があるのを先生方も理解した上で、指導してくれたと思います。

―― それでは、桑沢入学後に制作した課題についてお伺いさせてください。スピードシェイプはいかがでしたか?

課題内容:スピードシェイプ
先生に評価してもらった作品ですね。今までにいない!と言われました(笑)。モチーフがしっかりあって、葉っぱから水滴が落ちる瞬間のスピードを表現しています。横方向のスピード感を表現する学生が多い中、下方向へのスピード感を表現したのが珍しかったのかもしれません。形をスケッチしてから、形を削り出し、傷がないように塗装して仕上げます。結構根気のいる作業ですが、僕は手作業が好きなので、あまり大変だった記憶はないですね。むしろその工程を経験するのが初めてだったので、ワクワクしました。最初にスケッチをたくさん描く方が苦労したかもしれません。

課題内容:カードリーダー
内蔵物の制約が多々ある中で作らなければいけない、初めてのチャレンジになりました。最近シンプルな形状が流行っていると思うんですけど、その中にも複雑な要素があると思うんですね。様々な要素が整理されてすっきり見えるというか、味があるという感覚を初めて実感しました。ちょっと面に気をつけるだけで印象が変わるということや、角の丸みの取り方など、勉強になったことが多かったです。今見るとボタンのグラフィックなど気になる部分もありますが、それも含めて思い出深い作品ですね。

課題内容:防災グッズ
自分が一番納得できた作品です。角の穴から空気を入れると、笛のような音が鳴る構造になっています。東日本大震災が発生した時、位置を知らせるのに笛が役立ったと聞いたんですが、わざわざ笛だけ持ち歩かないなと思って。多くの人がいつも使っているものにその機能が付いていればいいんじゃないかと考えた結果、笛の機能を付けたカジュアルなパスケースのデザインをしました。血液型など個人情報を書いたカードも付属していて、倒れた時に役立つようなオプションも考えました。

この授業では、「自分の作りたいものではないものを作ろう」って決めたんです。仕事って自分が好きなものを作れるわけではないので、誰かの役に立つものを作ってみるっていう課題を追加した上で、納得できる作品ができたと思っています。

―― 課外で制作された、床発電機についても教えてください。

エコ展という課外展示のために制作して、最優秀賞をいただいた作品です。床を踏むと発電できるパネルなんですが、技術的にはすでに存在していました。実験的に新宿駅や東京駅の改札にテスト導入されたそうですが、メンテナンスコストなど様々な要素を考慮すると実現化しませんでした。もしこの技術が実現した場合を想定し、お祭りの屋台の前に敷いて活用すると良いのではないかと考えまして。朝の準備段階で人がたくさん踏んだ結果どんどん電気が溜まって、夜までにこの屋台の電気を灯すだけの電気量が溜まるというものです。その場で使う電気はその場で溜めることがエコに繋がるのではないかと思い、提案させていただきました。
最初プレゼンした時はそんなに反応が良くなくて、むしろ他の学生さんの方が新しいコンセプトを提案していた気がします。僕はあくまでテーマからぶれずに、どうすれば世の中に普及するか、ユーザーに押し付けがましくなく使ってもらえるかなど丁寧に処理して、模型もなるべく見応えがあって分かりやすいデザインにしました。コンセプトが新しければいいというだけじゃなくて、すでにある技術やアイデアでも、視点を変えて丁寧に処理してあげれば評価されるということが分かった良い経験でした。

―― 桑沢で学ぶ際に意識したことはありますか?

まず先生が学んでほしいと思っている目的を理解しようと努めました。大学時代はあまり何も考えずに授業を受けていたという反省点があるので、授業ごとに与えられるミッションを解釈して、100%自分のものに出来るよう努力しました。そのおかげで、最終的にプロセスの1つ1つが繋がって、強化された状態で自分の中で消化されていったと思います。桑沢では、そのようにしてデザインプロセスを学べたと思っています。

―― 桑沢は“現場力をくれた場所”とも伺っています。

課題が多いので常に追い詰められていたのですが、そのおかげもあって、会社で追い詰められてもあまり驚かないです(笑)。仕事のプロセスがある程度イメージできるので、仕事の土台となる考え方は桑沢で身についていたと思います。焦らないだけの経験というか、諦めずにやればなんとかなるみたいな、踏ん張る力を得ました。その延長線上で、仕事も乗り切れているかなって感じですね。

"気持ち"をかたちにするデザイン事務所でのデザインプロジェクト

―― 桑沢在学時の就活はどうされましたか?

あまり一般的な就活はしていなかったです。まずはしっかり作品を作ってアピールしようと思っていたので、授業に打ち込んでいました。できれば小さなデザイン事務所に入りたかったので、アルバイトに行ったりすればいいかなと思っていたのですが、先生経由でデザイン事務所 COLOR.のインターン募集の話をいただきまして。繁忙期のモックアップ制作で、人が足りない時のアルバイトとして行っていました。お手伝いをしているうちに「ここで働けたら」と思い始めていたのですが、エコ展の審査員に、COLOR.立ち上げメンバーのサトウトオルの名前を見つけたんです。社長のシラスだけでなく、サトウにもアピールするためにエコ展への出展を決めました。

その頃ちょうどスタッフの一人が辞めるという話が出ていたらしいんです。幸いエコ展で最優秀賞も取れ、シラスからも頑張りを認めてもらえていたので、「僕はどうですか」とアピールしました。何名か面接したみたいですが、最終的に僕の人柄や作品を見ていただいて、採用していただきました。個人的にはインターン中も熱烈アピールしていたつもりだったんですが、後々聞いたらCOLOR.に入りたいというこちらの気持ちはあまり伝わってなかったみたいです(笑)。でもどこが良いと思ってくれたかを聞いたら、自分がアピールしていた内容を見てくださっていたので、良かったなと思います。

―― インターンをしていてその企業に入りたいと思ったら、賞を取るという手もあるかもしれないですね。

賞を取るのは運もありますが、僕はインターンに行く際に積極的に作品を見せていたんですよ。作品を丁寧に作っていて、ちゃんと勉強していて、デザインが好きなんだなっていうのを見てくれていたみたいです。デザイン事務所って、デザインが好きで仕方ないっていう人ばかりなので、仕事をしていく上でまず一番重要な部分は持っていると思ってくれたんじゃないですかね。

―― それでは現在のお仕事についてお伺いしたいと思います。まず、「コハコ」というお仏壇のプロジェクトについて教えてください。

コハコは現在商品化を目指しているプロジェクトです。お仏壇を自宅に置かない家庭も多くなってきて、マンションなどの限られたスペースで大きな仏壇を置くの大変だし、見た目も馴染まないという課題があります。元々発案した企業の方からお声がけをいただいて、COLOR.でプロダクトデザインを担当することになりました。

自宅に置かないくらいなら、選択肢の1つとして提案出来たらと思っています。デザインは極力お仏壇に見えないようにしたかったので、白い箱のような外観で、周囲に馴染ませました。また特徴の1つとして、中央に配置した画面越しに故人とコミュニケーションがとれるようになっています。例えばお孫さんの誕生日のために、生前にメッセージを記録しておいて、亡くなった後でもメッセージが届くような機能があります。

お仏壇って、仕様にかなり細かいルールがあるんです。御本尊やおりん、位牌などもルールが決まっていて、デザインするのが大変な部分もありました。今は商品化に向けてブラッシュアップしているところなので、画面をもっと目立たないようにしたり、洗練されたデザインにしていきたいと思います。

―― 次に「NEPO」というプロジェクトについて教えてください。

僕自身が音楽活動をしていて、株式会社キルクという会社と出会ったのがきっかけです。キルクレコードというCDを出したりするレーベルをやりつつ、飲食店やライブハウス経営など色々事業をやっています。最初にミュージシャンとしてその代表の森と知り合いになって、僕の音楽も面白がってくれて。デザインをしていると話したら、フライヤーや看板など、グラフィック関係の依頼をくださるようになりました。

新しいライブハウス(NEPO)を立ち上げる時に、より良い場所にする資金を集めるためにクラウドファンディングをすることに決まったのですが、「QRコードで支払い処理を済ませられる」という小規模なライブハウスでは前例のない試みを説明するためのイラストを担当しました。それが大変気に入っていただいて、元々使う予定ではなかったWebサイトにも掲載してもらっています。ライブハウスで配る会計用のリストバンドのデザインも担当させていただきました。

―― 水切りのデザインについても教えてください。

COLOR.に在籍して2年半くらい経つのですが、僕が手がけたデザインで唯一買える商品です。というのも、これまでCOLOR.で担当した仕事が店舗で使用するプロダクトや展示空間などの仕事をやることが多かったのと、生活用品の案件をやっていてもプロダクトデザインってスパンが長いので、なかなか世に出ていかないんですね。コンセプトから関わると更に時間がかかるという背景もあります。キッチンツール市場も飽和状態の中、be worthstyleというメーカーの商品デザインをCOLOR.が担当し、販売した「hanauta」というシリーズが水切りとして初めてグッドデザイン賞を受賞しました。それからハナウタと並ぶ新たなシリーズを考えようという話になり、「UtaU」というシリーズの水切りを新たにデザインさせていただきました。

お茶碗の幅に合わせたスリムなデザインで、シンクの上に渡して置けます。「小さいけど、お皿もコップもツールもたくさん置ける」デザインです。例えば一人暮らし用のコンパクトなキッチンでもシンクを広く使えるので、フライパンなどを洗っても使いやすく、洗い物もたくさん置けます。

既存のアイテムを、ちょっとした異なった切り口で表現してあげることで、新しい価値のある商品をデザイン出来たかなと思っています。

―― インタビューの最後に2つ質問させてください。まずは、今後の展望を教えていただけますか?

長い目で見れば、1つのデザイン分野だけ取り組んでいても飯を食っていけないなという話を社長とよくしています。COLOR.は領域に縛られないデザインと、見た目だけではなくコンセプトや商品コピーなど言葉まで大切にしている会社なので、そちらも続けつつ個人の能力も高めていきたいなと思っています。

―― それでは、社会人を経て「桑沢で学び直す良さ」があれば教えてください。

デザインの仕事も大変なので、人によっては合わない業界かもしれません。でも本当にデザインやものづくりが好きという気持ちがあれば、やりがいはあると思います。桑沢に入るとちゃんとデザインを教えてくれるというか、現場で困らないだけのことを教えてくれます。チャレンジしたい強い想いと、苦労してもデザイナーになりたいという気持ちを持った人間を、現場でやっていけるデザイナーとして送り出してくれる学校です。


インタビュアー:はやしわかな
桑沢デザイン研究所 総合デザイン科 プロダクトデザイン専攻卒業。
海外で働きたい気持ちが強く、卒業後すぐに海外就職。
建築系3Dアプリの開発に携わり、デザイナーやエンジニアをサポートする仕事に就いている。
<2020年7月>
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