
プロダクトデザイナー 三橋竜希さん
1994年、神奈川県出身。昼間部プロダクトデザイン専攻 2016年卒業。板金製造メーカー、デザイン事務所での実務経験を経て、カシオ計算機株式会社に中途入社。現在はアドバンスデザイン室に所属し、プロダクトデザイナーとしてピアノなどの電子楽器やガジェット領域の新規プロダクトデザインを手がけている。
カシオで楽器のデザインを手掛ける
―― 現在のお仕事の内容について教えてください。カシオ計算機株式会社で、プロダクトデザイナーとして働いています。カシオといえば、時計や電卓のイメージが強いかもしれませんが、私が所属している部署では、ピアノなどの電子楽器や新製品の先行提案を手掛けています。企画担当者や設計者とディスカッションを重ねながら、機能の視覚化やプロダクト全体の世界観を整理していきます。最初に要素のチェックリストを作成し、その項目をもとに複数のデザイン案を提案。検討とブラッシュアップを重ねながら、プロダクトの完成へと導いていきます。

▲カシオが展開した、ギターストラップに装着する新感覚のエフェクター。
学生時代からバンド活動をしていたこともあり、音楽や楽器には馴染みがありました。カシオには中途採用で入社しましたが、現在の所属部署の存在を知った際に、とても面白そうだと感じて応募しました。
自身の特技を活かせる、デザインの道へ
―― 桑沢デザイン研究所(以下〈桑沢〉)に入学したきっかけは?高校時代は、ぼんやりと公務員になれたらいいなと考えていました。ただ、将来を考える中で、せっかくなら得意な絵を描くことを活かせる仕事に就きたいという思いが芽生えました。美術の先生に相談したところ、デザインという分野があることを教えていただき、さらにその先生のお父様が〈桑沢〉のファッションデザイン専攻の教員だったことから、〈桑沢〉を知りました。
1年次に倉俣史朗氏が手掛けた椅子「ミス・ブランチ」に出会い、強い衝撃を受けたことをきっかけに、2年次からはプロダクトデザイン専攻に進みました。グラフィックデザインも包含できる、プロダクトデザインの幅広さや複雑さに魅力を感じました。
100mm×100mmの正方形の紙に、さまざまな方法でテクスチャーを集める課題が印象に残っています。絵の具を塗ったり、紙を引っ掻いたり、公園の排水溝に擦り付けてみたりと、自由な発想で表現しました。従来の授業の概念を覆すような課題で、初めて自分の表現が認められたと感じた経験でした。自由度が高い分、難しさもありましたが、「こんなに自由でいいのか」と嬉しくなったことを覚えています。
また、〈桑沢〉では年齢もバックグラウンドも異なる学生たちが切磋琢磨しながら、互いの強みを認め合う風土がありました。まるで長い文化祭が続いているような感覚を、〈桑沢〉での学生時代には味わっていました。
▲〈桑沢〉時代に手がけた、化粧水ボトル
―― 卒業後の進路について教えてください。
卒業後、1社目には板金製造メーカーにデザイナーとして入社しました。その会社にはそれまでデザイナーという役職がなく、自分で道を切り拓いていける点や、会社に能力を還元できる点に挑戦しがいを感じていました。ただし、まずは板金の製造工程を理解する必要があるという方針から、最初の2年間は工場勤務となり、鉄板の打ち抜き、曲げ加工、溶接、塗装、組み立てといった一連の工程を学びました。その間はデザイン業務に携わることができず、2年後に本社に戻ってから、ようやくカタログやチラシ制作などを担当し、徐々にプロダクトデザインにも関われるようになりました。しかし、板金特有の制約の多さに次第にもどかしさを感じるようになり、他分野のプロダクトデザインへの興味も強まっていき、在籍4年ほどで転職を決意しました。
2社目は、デザイン事務所のINDIGO DESIGNです。ここでの経験は非常に大きく、現在デザイナーとして大切にしている考え方やスキルの多くは、この時期に培われました。〈桑沢〉の非常勤講師も務めていた代表の菅悟史さんが代表を務めるデザイン事務所で、美容機器や化粧品、日用品など幅広い製品を担当しました。プロダクトだけでなく、ブランディングに関わるパッケージやグラフィックまで一貫して学べたことも大きな財産です。
その後ライフスタイルの変化に伴い、約2年半勤めた後、転職を決め現在のカシオに入社しました。
「語れるデザイン」を形にする
―― カシオではどのような体制で仕事を進めていますか?社内にはブランディングやパッケージ、UIなどの様々なデザイナーが在籍しており、その中で私はプロダクトデザイナーとして働いています。プロジェクトは、単独で進める場合もあれば、2〜3名のチームで取り組むこともあります。現在は複数の案件を並行して担当しています。
中でも、デザイナーの裁量でプロダクトの方向性を調整できる案件には、大きなやりがいと楽しさを感じます。新規案件では、企画者や設計者から上がってきた構想を大胆に組み替えることも多く、より良い形にまとめるための提案を積極的に行っています。
特に意識しているのはスピード感です。依頼を受けてから提案するまでの反応速度には自信があります。打ち合わせの場で話を聞きながらリアルタイムで手を動かし、ラフを描いて即座に提案することで、イメージの共有を図ることも少なくありません。
造形面では、シンプル志向が主流の中でも、思わず触りたくなるような遊び心をデザインに落とし込むことを大切にしています。また、常に意識しているのが「語れるデザイン」であること。形状の一つひとつに必然性や機能を持たせ、その意図を明確に言語化できることを大切にしています。
渋谷という立地もあり、都会的な感覚が自然と身につき、流行に敏感になれる点は〈桑沢〉の大きな魅力だと思います。また、デザイナーを志す人こそ、デザイン以外の経験を積むことが大切です。美術館に足を運ぶことでも、アミューズメントパークに行くことでも構いません。思いがけない体験や発見が、後になってデザインの糧になります。新しい体験や感動が、デザインの引き出しを増やしてくれるはずです。



