日本で最初の『デザイン』学校で未来を創造する【専門学校桑沢デザイン研究所】

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建築家 空間デザイナー/ 桑沢デザイン研究所 スペースデザイン分野非常勤講師 志摩健さん

1987年、神奈川県横須賀市生まれ。2009年、スペースデザイン専攻を卒業し、株式会社We+F Vision(2009-2011年)、株式会社arflex japan(2011-2017年)、株式会社DRAFT(2017-2019年)へ勤務。2020年にmoss.を設立し、建築など空間づくりを軸に、苔むすように悠久な時を過ごせる質朴で心地の良いデザイン目指す。2022年より現職。

―― ご担当された新校舎のリノベーションが4月にオープンしました。設計のポイントや新校舎に込められた想いを教えてください。

現校舎と並行して運用しながら、教室の機能の拡充と桑沢の魅力向上を図りたいということから始まったプロジェクトで、取り組むにあたって現校舎に何を付加していけばいいだろうか、ということを考えながら着手していきました。学校側からは教室の数や収容人数の目安と1Fにギャラリースペースを作りたいというリクエストのみでした。建物自体には奥行きがあまりなくシンメトリになっていたので、教室やギャラリーなどの必要な機能をレイアウトしていくにつれ、その間の空間が空いてくることに気がつきました。そこで自分が学生だった時のことを振り返ってみて、学生が交流したり、授業の合間に休憩したり、集中して課題が進められるようなスペースがあったらより校舎に愛着を持って過ごせるのではないかと考え、1F〜3Fにはみんなで共有するコモンスペースを設けています。 また4Fは半分以上が屋外スペースになっていたので、下の階が学びに集中できるようなニュートラルな空間に対し、都心にいながら自然や周辺環境と繋がりを感じられるようなテラスを、屋内部分はラウンジとして建物の形状に合わせた家具を提案しました。桑沢がドイツのバウハウスのデザイン理念を日本にも伝えたいということで始まった日本初のデザイン学校だということも踏まえて、ドイツのデッサウの校舎で使われている素材やディティール、空間の使い方を現代なりにアップデートして用いており、デザイン学校としての空間のあり方を意識しています。

▲新校舎の 1F-3F に各部屋の中間領域として設けたコモンスペース。利用する学生同士のコミュニケーションが生まれる空間になっている

▲日当たりもよく風を感じられる新校舎の 4F テラススペース。木々の奥には代々木体育館が臨める

―― 実際に伺って、コモンスペースやラウンジなどの中間領域的な場所の居心地のよさを感じました。昼間部の1年次に専攻に関わらず学ぶことで色々な人が混ざりあう、桑沢の教育理念とも重なる部分があるように感じます。

僕自身も桑沢で過去に学んでいて、昨年から指導教員という形で学生と関わらせてもらっているのですが、桑沢の学生には独特のユニークさがあって、自分を強く持っているけれど内向的でコミュニケーション下手というか。人によって得意・不得意はあるとは思いますが、真面目な分自分の中にこもってしまうので、上下や横の繋がりがそこまで発展しないイメージを学生の頃から持っています。僕自身もそういうタイプだったので、普段集中して教室で授業する場所の間に緩やかに混ざりあうスペースとか、4Fで外と中とが混ざりあうスペースが多くあると、自然と交流が生まれていって、今までとは違った関係性に発展していくことがあればいいなということは意識して取り組んでいました。

▲外部空間との繋がりを意識した4Fラウンジ。特徴的な建物の形状を生かしてベンチをリズムよく配置した。段差に沿っているため、利用する学生が横に並んだ時にも視線も気にならず各々の作業へ集中することができる

▲要所に配したシンプルなアールの手すりや特注のカーテン、ファブリック、既存の大理石をアップサイクルした研ぎ出しの天板。直線的に形成される空間に人間の手仕事と自然素材による暖かみを感じる

▲細かいデザインを決める前のコンセプトスケッチ。新校舎の環境の特徴や、素材感、共用部の家具のイメージ、バウハウスの流れを汲んだディティール表現などをコラージュ的に落とし込んだ

―― 桑沢で学ぶに至った経緯やスペースデザインの道に進む大きなきっかけを教えてください

元々絵が好きだったので、グラフィックデザインを学びたいというところから、予備校に入って美大を受験することにしました。結果的に多摩美術大学と桑沢デザイン研究所に受かって、色々な人に相談したところ、予備校の先生に「志摩には美大でゆっくりやるより、スピード感を持って進んでいく桑沢の方が合っていると思う」と言われたことがきっかけで、桑沢に入りました。

昼間部では1年次に専攻に関係なく色々な分野を学ぶカリキュラムになっており、その時の大松俊紀先生の授業がスペースデザインの分野に進む大きなきっかけになりました。それまで平面的な視点だったのが、空間や立体物を三次元で立ち上げていくプロセスに面白さを感じました。授業の成績もよかったこともあり、先生と進路の話をした時に「スペースデザインは建築やインテリアをやっていくことになるけれど、その中でグラフィックや視覚伝達、プロダクトなど複合的にデザインの要素が含まれているから、興味があったらスペースデザインにきてみたら?」と声をかけていただいたことで、スペースデザインの分野に惹きこまれ、進路を変更しました。

今はインターネットが普及しているので気軽に検索できますが、当時は本から情報をインプットすることが圧倒的に多く、二年に進んで専門的な内容になってくると、自分でも住宅や商空間のデザインを考えるにあたって桑沢の図書室で、建築家やインテリアデザイナーの本をひたすら読み漁っていました。空間で人の考え方や行動、時代性も変えられる世界に魅了されて、本格的にその道で働いていきたいと思いました。

―― 卒業制作での制作物や思い出を教えてください

卒制は、学生に対してそれぞれ1/1、1/2、1/5、1/10…と異なるスケールを割り振られて、そのスケールに見合ったものをデザインし、1.5m角のスペースで表現しなさいという課題でした。複合施設といったように特定の何かを作るのではなく、割り振られたスケールに基づいて敷地や何を作るかを自分で考えていく必要がありました。僕が割り振られたのは1/100のスケールで、最終的には地元の横浜にある象の鼻パークに隣接する場所に、昔のメタボリズムを想起させるテトラポットの集合体のような海中ホテルを設計しました。

▲卒制の課題講評時の写真。スケールやシーン別の模型が並ぶ

▲制作風景。ひたすら手を動かし、あらゆる表現方法を探り続けた

僕は学生の頃からひとまず色々な方法を試してみるタイプで、卒制では特に表現方法を探りたくて、水の中の様子を表現するために1/500や1/100の模型を別で作ったり、ホテルを見上げるようなパースを描いたりと、とにかくできることは全てやりつくしました。周りの学生はメインとなる制作物とプレゼンボードといったシンプルな設えだったのですが、僕のブースだけ色々なものがありすぎて、どれを一番見せたいのかわかりにくいという意見もいただいて、講評の結果は芳しくありませんでした。 そんな中、今は亡きデザイナーの中山定雄先生が講評を見にきてくださっていて、全部終わった後に「俺は志摩のが一番良かったと思う。学生は手を動かして色々な表現を自分なりに模索をして、迷ったら迷ったなりにとりあえず全部形にしてみて、最後までしっかり出し終えることが大事だから、それを一番できてたのは志摩だった」と声をかけてくださったことにとても救われました。学生の間は自分のスタイルが定まっていない人の方が多いので、学生最後の卒業制作でひたすら作ることを通してそれができたことが、今にも繋がっています。建築家やインテリアデザイナーは図面を描くことで表現するのが一般的ではありますが、それぞれの空間にあった表現やアウトプットの仕方は違うと思うので、こういうことやってみよう!と思った時に臆せずできるようになったのは、卒制での体験がもとになっています。

―― 卒業してからどのような経緯を経て今に至りますか?

当時卒業するまでに就職が決まっている人もあまりおらず、僕自身も卒業制作が終わってから就職活動を始めました。ちょうどリーマンショックの年だったこともあり、どうやって就活したらいいかもあまり分からず、最終的に渋谷のハローワークに行きました。そこで建築やインテリア事務所の求人を見て、株式会社We+F Visionに辿り着き、アシスタントとして2年半程働きました。当時の先輩から、デザインが好きなら志摩にもっと合っているところがあるから、もう少し探してみたらと言ってもらったことがきっかけで、転職してarflexという家具メーカーへ。6年弱、ディスプレイデザインなどに携わりましたが、設計やインテリアデザインを改めてちゃんとやりたいという思いが芽生えて、DRAFTというオフィスデザインの会社に入りました。そちらで3年程経験を積んで、当時の上司に「志摩は自分の色があるから独立する方が向いているのでは?」と言われたことがきっかけで独立を考えるようになり、周りにそのことを話していたら独立するなら仕事をお願いしたいと声がかかって、2年程前にmoss.を立ち上げました。そういう意味では、予備校時代から僕は基本的に自力というよりは他力によって導かれてきたところがありますね。

▲arflex在籍時に直営店のインテリアデザインおよび全体ディスプレイを担当 / Copyright © arflex japan ltd.

DRAFT在籍時にコンペから担当した大阪のコワーキングオフィスのデザイン。前職から空間設計の専門性を積み上げられていないのではないかという不安があったが、この仕事をきっかけに自信がついたという / © DRAFT Inc.

▲moss.で手がけた「PATIO KOMAOKA 20」
神奈川県の駒岡、地域に愛された銭湯の跡地に建つ集合住宅の設計。 賃貸住宅における付加価値を見つめなおし、普遍的な心地よさや豊かさに寄り添い、暮らしを楽しむきっかけとなるような建築を目指した / Photo : Koji Fujii | TOREAL

▲moss.で手がけた「Morght」
寝返りを科学し、からだの痛みにアプローチする「NELL マットレス」をブランド展開する株式会社Morghtのオフィス兼ショールームのインテリアをデザインした / Photo : Koji Fujii | TOREAL

―― 昨年から教員として学生を指導されているとのことですが、どんなことを意識されていますか?

基本的に僕は指導教員という立場で、ゼミを持っている先生たちの授業の中で拾いきれないことを補助する役割だということを前提にお話すると、学生のうちは設計したとしてもその先の人と関わることはほぼありませんよね。働き始めるまでは、非常に多くの時間と人の関わりがあって一つのものができることを実感しづらいので、自分の仕事を見せながら学生に伝えていけたらいいなと思っています。たとえ図面を引いてデザインができたとしても、それに対してお金を出してくれる人や現場で働いてくれる建設会社の方や職人さんがいないと、自分は何者でもない存在なんです。もちろん作家性やそのもののかっこよさを探求していく姿勢はとても大事なことではありますが、たくさんの人と関わって、かつ大きなお金をお預かりして作り上げることへの責任感や、スムーズに進めていくためのコミュニケーション能力と謙虚さも同じくらい必要だと思うので、校外学習で自分の現場に学生を連れていく時にもそういう話は必ずします。

現場で働いている人の顔が見えると、彼らに対してわかりやすい伝え方や図面の描き方をしようと思えますよね。それから最終的にそこを使う人に対してどういうものを提供できるかを考えると、段々と人にフォーカスするようになってくるはず。使い手に対して深い部分で共鳴することができたら、空間の質も見え方も格段に上がります。それは自分が学生の時から今にかけて一番変化した部分でもあるし、現役でやっているからこそ伝えられることなのではないかなと思います。

▲新校舎のリノベーション前の解体写真。施工途中の現場も生きた教材として案内した。普段は無口な学生の目の色が変わったという

―― 業界的な変化も踏まえ、デザイナーにとってこれからどんな必要な素養や価値観が必要でしょうか?

スピード感を持ってトレンドが変わったり、新しいものが出てきたりするファッションやビジュアルの世界とは少し異なり、建築や空間デザインの領域はゆっくりとした時間軸で動く業界です。独立するにしても企業の中でやっていくにしても、日々の地道な活動の延長線上に、時間をかけて自分のスタイルや技術を確立していくことになります。ただ、そうした時のインプットの仕方には工夫の余地があります。色々なものをひたすらに見るという時期も大事ではありますが、そこからもう一歩進めて、空間でもプロダクトでも気持ちがいいなと思う基準を、自分の価値観として持つことは特に重要です。今は僕が学生だった時よりもはるかに情報が溢れていて、調べるとすぐに表面的な情報にアクセスすることは可能です。ただ、実際に足を運んでみて自分の目で見ることで、これは心地よいとか、こっちは自分にはあまり必要のないなといったように、情報を取捨選択できるようになることが、これからの時代は大事だなと思っています。色々なものをインプットして、それをアウトプットに生かさなければいけない仕事なので、それらを吸収できる柔軟性は持ちつつも、なぜそれがいいのかを言語化したり、判断するための価値観を持っておくこと。それが自分でわかっていると、作り出すものに対して説得力が出てきます。

桑沢のいいところは、まさに授業の中で造形力や自分が気持ちいいもの・美しいものを探求していけるカリキュラムがあることだと思うんです。学生のうちにその芽を出せていれば、社会に出た時もブレずにやっていける気がしますね。インプットの工夫は学校に入る前からでもやり始めることができるので、自分の感覚を育てて行ってほしいです。

▲moss.で手がけた「TERA COFFEE and ROASTER 」
東急東横線、妙蓮寺の緑溢れる公園の傍にあるコーヒーロースタリーのショップデザイン。駆体、焙煎機、内装、什器を「ブレンド」し、それぞれの素材が持つ良さを「抽出」するように古き良き空間へ落とし込んだ。オーナーや既存店の持つどこか角の取れた地元に愛される雰囲気を、什器の小口のR(アール)に込めて、緊張感を生みがちな素材たちに暖かみを付加した。
/ Photo : Akira Nakamura

―― これからデザインの道に進みたいと思っている人に向けて、メッセージがあれば教えてください

何かを生み出すことが好きで、なんとなく心地よい形や美しいものに対する感覚を持っているのであれば、すでにスタートラインに立っている状態だと思います。具体的に何をしたいということが決まっていない人でも、追求してみたいという気持ちがある人の受け皿として、桑沢はとても良い場所だと思いますね。夜間部だとある程度専門性を決めてから入ることになるとは思いますが、昼間部は入ってから決めるので全然遅くないですし、自分が何に向いているかとかということをある程度考えながらやれる環境ではあると思うので、臆せず飛び込んできてほしいなと思います。


インタビュアー:元行 まみ
桑沢スペースデザイン年報(2021-)の編集などを担当
<2023年6月>
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