


1986年、広島県広島市生まれ。桑沢デザイン研究所 昼間部ビジュアルデザイン専攻卒業。現在はアートディレクター兼デザイナーとして、幅広い案件を手がけている。2024年には文響社より『サルでもととのうサウナ教室』を企画・制作。サウナの魅力を楽しく伝えたいという思いから、原稿執筆、デザイン、イラストまですべてを自身で担当した。
―― 現在のお仕事の内容について教えてください。
企業のインハウスアートディレクター兼デザイナーとして働いています。広告制作やビジネスメディアの運営、自社キャラクターの開発、自社アプリ用スタンプの制作など、幅広い業務に携わっています。社内にデザイナーが少ないため、広報ツールや記事のサムネイルなど、さまざまな制作物をひとりで担当することも少なくありません。今の職場は、スピード感と対応力が特に求められます。

▲現職で手がけた広告が、東急線渋谷駅構内で大きく展開された

▲デザインを手がけたキャラクター
―― 桑沢デザイン研究所(以下〈桑沢〉)に入学したきっかけは?
もともとは地元である広島の美術大学でファインアートを学んでいたのですが、もっと実践的なデザインスキルを身につけたいと思い、〈桑沢〉への進学を決めました。地元でも〈桑沢〉はよく知られていて、「デザイン系の専門学校と言えば〈桑沢〉」と言われていました。どうしてもデザイン系の仕事に就きたかった私は、最短ルートで就職を目指すべく、迷わず進学を決めました。
入学後、1年目はデッサンや塑像などアカデミックな内容の基礎造形を中心に、グラフィック、プロダクト、スペース、ファッションなど、垣根を超えた基礎デザインを学びました。2年目はビジュアルデザイン専攻に進級。3年生では広告かイラストどちらのゼミを選ぶか迷いましたが、イラストのゼミを選択しました。先生は有名なイラストレーターの方だったのですが、熱心に指導してくださいました。2年目からは一気に実践的な課題が増え、さらにデザインの面白さを実感できるようになりました。
膨大な課題で磨かれた実践力
―― 〈桑沢〉での授業や課題で特に印象に残っていることはありますか?現職のクリエイターの方が先生として多く在籍していることが、〈桑沢〉の特徴のひとつです。デザイン事務所を経営されている先生の授業で出された、「毎週30案ロゴを制作する」という課題が特に印象深いですね。テーマに沿ったロゴを大量に考える必要があり、締め切り前日の夜に毎回のように必死で30案を仕上げていました(笑)。当時はとても大変でしたが、振り返ると実務に近いトレーニングだったと気付かされます。〈桑沢〉は課題量が多く、まさに納期と戦いの日々。めちゃくちゃ大変でしたけど、放課後に仲間たちと一緒に課題に取り組んだ経験は良い思い出です。それでも終わらず、自宅に持ち帰って深夜まで作業することもありましたが(笑)。
それ以外にも、スチレンボードを使った建築模型をつくる課題や、ミシンで布を縫う課題など、立体造形の授業も記憶に残っています。自分の得意、不得意に関係なく取り組んだ経験が、現在の多岐にわたる業務に活かされています。
憧れの制作会社から始まったキャリア
―― 卒業後の進路について教えてください。ある時、先生から紹介された制作会社が、ちょうど自分が憧れていた広告を手がけていた会社で、「ここで働きたい!」と強く思いました。運よくその会社に就職が決まり、卒業と同時にデザイナーとして入社したんです。最初は画像素材のリサーチや下準備など地道な業務が中心でしたが、少しずつ信頼を得て、次第に大きな案件にも関われるように。TBSの人気ドラマ『半沢直樹』のロゴ制作や、クリアアサヒ、パルコの広告、MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島の壁面デザインなど、多くのプロジェクトに関わりました。なかでも地元である、スタジアム広島の案件は特に思い入れがあります。

▲山口智充さんを起用した、クリアアサヒ 糖質ゼロの広告

▲全長約20mの、MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島の壁面広告
その後、『うんこドリル』シリーズで知られる出版社、文響社に転職しました。ここで『サルでもととのうサウナ教室』という書籍を自ら企画、構成し、原稿執筆からデザイン、イラストまでほぼ一手に担当しました。サウナブームの最中、自身もサウナにハマり、業界に貢献したいと思ったことが企画立案のきっかけです。「ひとりでつくれるの? 他の仕事もあるのに大丈夫?」という不安もありましたが、粘り強く自主プレゼンを続けてコツコツと制作を進めた結果、企画立案から約2年半をかけて出版が実現。非常に苦労も多かったですが、大きな達成感を得ることができました。

▲企画立案から、原稿、イラスト執筆、デザインまですべてを手がけた『サルでもととのうサウナ教室』


最初は学生時代のように自分の思い通りにできないことが多く、戸惑いました。でも、仲間と協力してものづくりをする面白さを知り、今ではチームで仕事に取り組むことにやりがいを感じています。
また、転職先には〈桑沢〉の卒業生がいることも多く、どの職場でも自然と助け合える関係が築けています。こうしたネットワークも学校で得た大切な財産です。
―― デザイナーとして大切にしていることは?発注者の想像を超える提案をするということは常に意識していますね。言われた通りにつくるだけではなく、「こんなアイデアもありますよ」と、一歩踏み込んだ提案をするよう心がけています。時には「これは選ばれないだろう」と思うような尖った案も出してみる。それが議論のきっかけになり、より良いアウトプットにつながることも多いです。
また、情報をどう届けるか? という視点の重要性も日々感じています。どれだけ良いデザインでも、やはり伝わらなければ意味がありません。誰にとっても分かりやすく、伝わりやすい表現を心がける一方で、そこにちょっとした遊び心や自分らしさを加えることで、より印象に残るものにしたいと思っています。

「負けず嫌い」の気持ちで壁を乗り越える
―― 〈桑沢〉での学びは、今の仕事にどう活きていますか?〈桑沢〉で過ごした3年間は、社会に出るための予行練習そのものでした。課題のボリュームやスケジュール管理の大変さ、制作のスピード感など、すべてが今の仕事に直結しています。あの経験があったからこそ、現在の忙しい現場も前向きに楽しむことができていますし、その後の自信にもつながりました。就職してからは短期間で多数の案をつくることが日常になり、思い返せば実務的な訓練になっていたことがわかります。
制作がうまくいかないことや、自分の案がスムーズに通らないこともありますが、そんな時に支えになるのが「負けず嫌いな気持ち」です。思い通りにいかない状況でも、あきらめずに壁を乗り越えようとする気持ちが長く続ける上での原動力になっています。
―― 最後に〈桑沢〉を目指す方へメッセージをお願いします。私は〈桑沢〉を選んで、本当によかったと思っています。デザインの世界で本気で生きていきたいと思っているなら、〈桑沢〉はきっと力になってくれる学校です。大変な課題もありますが、その分、得られるものは大きいです。たくさんの良いデザインや面白いアイデアに触れて、それを自分の手でアウトプットしてください。

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