[サステナブルデザインとは]あるべき未来のためのこれからのデザイン
サステナブルとは?
近年、耳にすることの多い「SDGs」という言葉。SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことで、ここにサステナブル(持続可能な)という言葉が使われています。
世界各国が話し合い、2030年までに達成すべき17の目標として2015年9月に国連総会で採択されました。世界が協力して取り組む、人類共通の目標といえます。
「サステナブルデザイン」は、「Design for Sustainability」を語源としています。Sustainability(サステナビリティ)とは持続可能性という意味で、つまり「持続可能性のためのデザイン」ということです。
地球環境の変化
ではSDGsやサステナブルデザインはいったい「何」の持続可能性を指しているのでしょうか。
私達人類は様々な環境の変化の中で常に、たくさんの問題を抱えて生きてきました。
それらを克服しながら、現代文明と社会生活を維持してきました。
そしてこれからもそれを維持し続け、未来へ託したいと願っています。
人類が暮らす環境とは「地球」であり、つまり私達が持続させたいのは「地球環境」でしょう。
では、この地球環境はどの程度どのように維持されていると思いますか。
地球による環境破壊
長い目で見れば、地球はその誕生以来環境を激変させてきました。
46億年前の地球誕生ころの大気の主成分は二酸化炭素だったと考えられていますが、24億年前ころ大気・海洋中の酸素濃度が急激に上昇(大酸化事変)し、酸素を代謝エネルギー源とする動植物が誕生し今に至ります。
また、誕生以来4回の氷河期を経ており、少なくともそのうちの2回は厚さ3000mを超す氷ですべてを覆われた「全球凍結(スノーボールアース)」になったと考えられています。人類どころかほぼすべての生物が生きられないほどの環境変動です。
持続可能性
このように地球は地球自身による地球規模の環境変動(破壊)を繰り返していますが、それでも地球は「持続」しています。
私達が捉えている環境変化・環境問題は、地球にとっては小さな変化に過ぎません。実は、環境問題とは地球への問題ではなく人類への問題であり、私達が持続させたいのは単なる「地球環境」ではなく、「地球における人類の生活環境」なのです。
SDGs
SDGsの理念は「誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」です。
この理念が示すように、SDGsは人類に共通する「普遍性」が特徴で、環境目標とともに社会目標や経済目標に加え、不平等の解決・ジェンダーの平等・平和などが体系的に掲げられています。
とりわけ生命の基盤を支える地球環境の持続可能性としての環境目標(気候変動・エネルギー・生物多様性など)は重要であり、地球環境に配慮した在り方として「サステナブルデザイン」という考え方への意識が高まっています。
サステナブルデザインの成り立ち
現在のサステナブルデザインの考え方は、1989年にスウェーデンの小児ガンの専門医カール・ヘンリク=ロベール博士が設立した国際NGO「The Natural Step」(ナチュラルステップ)が示した「4つのシステム条件」に基づいています。
この条件の提示に至る地球環境に対する人類の認識の始まりは、1960年代の世界的な環境運動、そして1968年にアメリカの建築家であり思想家のバックミンスター・フラーがその著書『宇宙船地球号操縦マニュアル(Operating manual for Spaceship Earth)』で説いた哲学的概念によります。
「宇宙の中で破産する」
同年、月の軌道上を回るアポロ8号から撮影された地球の写真で、人類は初めて地球の本当の姿を目の当たりにし、フラーがこの中で記した、このままでは「私達は宇宙の中で破産する」というメッセージを強く実感したでしょう。
また、この概念を倫理的科学的に実証し世界共通の認識として成立させたのが、1972年にスイスの環境に関する民間シンクタンク「ローマクラブ」によって発表された予見報告書『成長の限界_人類の危機レポート』です。
人類による環境破壊
「世界人口、工業化、汚染、食糧生産、および資源の使用と現在(当時)の成長率が不変のまま続くならば、来るべき100 年以内に地球上の成長は限界点に到達するであろう。」
「世界人口、工業化、汚染、食糧生産、および資源の使用と現在(当時)の成長」は、人間による地球環境の変化です。
この急速な変化は18世紀半ばに起こった産業革命に端を発しています。産業の変革と石炭利用によるエネルギー革命、それにともなう社会構造の変革は、爆発的な世界人口の増加を引き起こしています。
地球は大きくなった?
人類の誕生以来十数万年の間、3億人ほどにとどまっていた世界人口は産業革命以降のわずか300年(2050年)で30倍超の97億人に達すると予測されています。(2020年現在78億人)
その間に、地球はどのくらい大きくなったでしょうか。何個に増えたのでしょうか。そうです、大きくなっていません。これからも増えません。私達はたった一つの大きくもならない宇宙船「地球」号で暮らし続けなければならず、決して破産させてはならないのです。
人類の生活を持続させるために
1972年はローマクラブによる「成長の限界」発表の他、国連の主催による環境や開発を議題とする初めての会議(地球サミット)「国連人間環境会義」(ストックホルム会議)が開催され、地球環境に対する人類の認識をアップデートさせた重要な年となりました。
それから約半世紀かけて人類はようやく、SDGsという世界共通の具体的な目標を定めるに至ったのです。
人類の生活を持続させるための目標です。
何が問題なのか
サステナブルデザインが示す持続可能性とは、地球一個で100億人をまかなえる生活環境の持続可能性を指しているのです。
ところで、現代の文明の規模は100億人の暮らしを地球一個でまかなえるのでしょうか。
アース・オーバーシュート
地球はいま「アース・オーバーシュート」の状態とされています。
「EO(アース・オーバーシュート)」は、人間活動による消費が、地球が1年間で再生産できる資源量と二酸化炭素吸収量を超えることを指しています。
次のような計算式で算出します。
EO=EF/BC
EO=EF/BC
計算式の分母「BC(バイオ・キャパシティ)」は生物生産力。生物の生産効率に面積をかけたもので、地球の生態系による再生産エネルギーの供給量を表しています。
人間が地球から得られる「収入」です。分子「EF(エコロジカル・フットプリント)」は環境収容力。
一人あたりのエネルギー消費と生産廃棄効率に人口をかけたもので、人間活動によって排出された二酸化炭素を吸収する生態系サービスの必要量を表しています。いわゆる人間活動の「支出」です。
地球が1.7個
2017年の時点で、バイオ・キャパシティ(地球からの収入)を1とした時、世界のエコロジカル・フットプリント(人類の支出)は1.7。
言い換えれば、人類は地球が1.7個必要な暮らし方をしており、すでに地球は人類の暮らしを支える限界を超えています。
赤字の地球
アメリカの国際シンクタンク「グローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)」は毎年、1年間に地球が再生産できるエネルギー量を人間が使いきってしまう日を「アース・オーバーシュート・デー」として発表しています。
2020年の「アース・オーバーシュート・デー」は8月22日。この日以降、人間活動の収支は「赤字」です。前年より3週間遅くなりましたが、その理由は、世界的な新型コロナウイルスのまん延による人間活動の停滞です。
このような大きなインパクトを持ってしても、わずか三週間しか伸ばせなかった明らかな使いすぎの状態なのです。
地球を消費する人類
「アース・オーバーシュート・デー」以降は計算上地球からの収入がないのですから、人類は地球の生態系サービスの「原資」に手を付けて生活をしていることになります。
つまり、地球の有限の自然資源を消費しているのです。1970年以降「アース・オーバーシュート・デー」は1年の終わりを待たず訪れ、毎年早まり続けています。
この頃から人類にとって地球は一個では足りなくなってしまい、地球そのものを消費して自らの生活環境を損なっている「危機的進行形の状況」をむしろ加速させているのです。
危機的進行形
バックミンスター・フラーは『宇宙船地球号操縦マニュアル』で警告していました。「私達は宇宙の中で破産する」と。そして「エネルギーを得るために「宇宙船地球号」本体を燃やすこともできるけど、そんなことをしていたら、未来はお先まっくらだ。」と。
しかし、2017年国連の声明には「未だ地球は人間が住み続けるのに適した条件が急速に損なわれている危機的進行形の状況にある。」と記されています。
残念ながら、地球は破産に向かっています。
サステナブルデザインとは
1972年はサステナブルデザイン元年と言っても良いでしょう。
しかし、同じ頃から私達の社会は持続不可能(アンサステナブル)な状態に陥り、それを加速度的に進行させ、現在は地球が1.7個必要な暮らし方をしているというのですから、今のような状況を「持続」させてはならないはずです。
サステナブルな社会を作る
サステナブルデザインとは、本来あるべき社会の姿を考え直しそれを実現するためのこれからのデザインをさしているのです。
本来あるべき社会の姿とは、地球一個で100億人を支えられる社会です。
「サステナブルデザイン(Design for Sustainability)」とは社会をデザインすること、そのほんとうの意味は、「Design for Sustainable Sosiety」持続可能な社会を作るデザインということになるのです。
未来の地球
「本来あるべき社会の姿」を具体的にイメージできるかどうか が求められています。生活を過去に戻したり社会をすぐに作り変えることはできませんが、私達の今の行動によって、未来を変えることはできます。
本来あるべき社会の姿(地球一個で100億人を支えられる社会)とは、私達人類が作る未来の地球です。
地球における人類の生活環境の持続性に対し「4つのシステム条件」を示したナチュラルステップは、本来あるべき未来をデザインするために有効な考え方として「バックキャスティング(backcasting)」を提唱しています。
バックキャスティング
私達は通常、何かを考えたりイメージする時、過去の経験やデータをもとに現在から未来を予想して行動をしています。「予想・見込み」のことをフォアキャスト(forecast)といいます。
天気予報(weather forecast)は、過去の膨大な蓄積データから算出して未来の天気を予測しています。
これに対して「バックキャスティング(backcasting)」は自分の立ち位置を未来に置いて、未来から現在のことを見る視座変更の考え方です。
本来あるべき社会が実現している“未来”に立ち、過去を振り返るように現在を見ると、今やるべきこと・やめるべきことが見えてくるかもしれません。
「4つのシステム条件」は、ナチュラルステップが(地球一個で100億人をまかなえる生活環境が実現している)未来社会から、現在(当時)を振り返って見た時に「今、やるべきではないこと」を示していたということがわかります。
サステナブルデザインとは、あるべき未来のためのこれからのデザイン。
サステナブルデザインは、現状を持続させるためのデザインではありません。未来のあるべき姿のためにこれまでとは異なる概念や手法によるデザインで、既成概念を壊し新しい価値観を生み出す「これからのデザイン」として社会変革の可能性を探っているのです。
別の機会に、サステナブルデザインの具体的行動と手法の一つとして「エコデザイン」について紹介したいと思います。
この記事の監修者
プロダクトデザイン分野専任教師
本田圭吾