2023.06.30デザイン教育における生成AIの利用について‐所長からのメッセージ
社会のあり方を大きく変えてしまうような技術革新が、またたく間に普及してゆくことがあります。
メッセンジャーRNAを活用した全く新しいタイプのワクチンが、コロナ禍を背景として極めて短期間で実用化されたのは、3年ほど前のことでした。そして今、過去のサンプルデータを学習して人間がもっともらしいと感じる表現をゼロから作り出す「生成AI」という技術が、私たちの身近な道具となりつつあります。
画期的な技術革新が生まれたとき、それをいち早く体験したい、あるいはその進歩に貢献したいと考える人がいる一方で、リスクについても十分な検討が必要だと考える人もいるはずです。桑沢デザイン研究所は、現時点でその両方の考え方を尊重することとします。今はまだデザイン教育における生成AIの使用の是非を断定する時期ではないと考えるからです。
とはいえ、政府が設置する「AI戦略会議」は、5月26日に発表した論点整理の中で、懸念される7つのリスクに「学校現場における生成AIの扱い」や「著作権の侵害」を含めています。そして7月には文部科学省から学校における生成AIの活用に関する指針が示される予定です。生成AIの使用が、学生の学習機会を奪ってしまったり、作品の公正な評価を妨げてしまったりすることは、やはり避けねばなりません。
そこでひとまず、デザイン教育の場で生成AIを活用する際の配慮について、以下のことを共有しておきたいと思います。
※今後、さらなる技術革新や法的規制などにより、上記の方針は変更されることがあります。
①桑沢デザイン研究所は、デザインをプロセスと捉え、リサーチやプロトタイピング、そしてプレゼンテーションといった工程のひとつひとつを大切にしてきました。デザインプロセスの中で適切に生成AIを利用すれば、作業効率を上げて試行錯誤の回数を増やしたり、情報の収集や整理よりもプレゼンテーションの工夫に時間を割いたりすることができるかもしれません。このような場合は、デザインプロセスのどの段階で、どのように生成AI(およびそれを含むサービス)を利用したのかを指導者に伝えるようにしてください。出典や過程を知ることで、指導者はより適切なアドバイスを行えるようになります。
②与えられた課題をはじめからAIに委ねてしまったり、AIが作成したものをそのまま提出してしまうことは、みなさんの学習機会を損なうことになるので止めましょう。また、科目、課題によっては教育上の配慮から生成AIの使用そのものを禁じることがあるかもしれません。その場合は担当教員の指示に従ってください。なお、生成AIを就職活動などで活用する場合も、企業によって制限の有無にばらつきがありますので注意してください。
③生成AIの行う計算量があまりにも膨大であるために人間がその過程を追えなくなっており、生成の過程がブラックボックスになっているといわれています。また、学習が不足している領域については、明らかな間違いといえるほど、もっともらしさの水準が低くなってしまいます。現時点の生成AIが持つ、このような特徴や限界をあらかじめ理解しておきましょう。
④生成AIの利用がなんらかのトラブルにつながった場合、責任は機械ではなく使用者に帰属します。これまでと同様に、著作権保護など表現に関連する法令やガイドラインを遵守してください。
⑤機密情報の漏洩や個人情報の不適切な利用につながる情報を生成AIに入力することは、絶対にしないでください。
桑沢デザイン研究所 所長 佐藤竜平