日本で最初の『デザイン』学校で未来を創造する【専門学校桑沢デザイン研究所】

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【月刊インタビュー】 桑沢卒の素敵なあのひと
今注目のクリエイターにお話を伺う連載。第10回目は、建築模型作家として活躍しているあのひとです!        


建築模型作家 okamoto barba namiさん

明治学院大学文学部芸術学科を経て、桑沢デザイン研究所 昼間部 総合デザイン科スペースデザイン専攻 首席卒業。学生時代から複数の建築事務所で模型制作を経験。minneハンドメイドアワード2017 準グランプリ・ 話題賞のW受賞をきっかけに、本格的に作品の販売を始める。建築模型の魅力を感じつつ実務における模型の不遇さを憂い、自身で「模型のための模型」を目指した建築模型を制作している。

―― 早速ですが、建築模型に魅力を感じたきっかけを教えてください。

私は建築事務所で模型制作を担当していました。建築は実際に人の生活を受け止めるものだからこそ、デザインの中でも特に制約が多いんです。建築に限らないでしょうが、工法や構造、工期、法規、環境、予算などによって元々のデザインの純度がだんだん低くなっていくことが、心苦しいなと感じていました。そこで、模型で完結、と割り切った方が発想の純度が保てて精神衛生によいのではないかと考えたんです。

更に、模型制作の実務をしているうちに、模型の不遇さがみえてきました。度重なるデザイン変更などを経て最後に作られるのが模型なので、主に〆切的にそのしわ寄せがきてしまうのと、こんなに格好いいのにプレゼンテーションの手段の一つに収まってしまっているという実情を知りました。

また、建築模型はその来歴から、デフォルメや素材感によって独特の素朴さとシャープさを持ち、非常に魅力的です。それなのに、他のミニチュアに比べて一般知名度が非常に低く、施主さんやデザイナー、建築学生が展覧会で見る程度なのも、もったいないと思いました。良い模型を作る教育が発展していないという問題もあるので、模型の魅力を広めるために、世に送り出していく活動を始めました。

―― 建築模型とコンセプトについて教えてください。

まず、建築模型がミニチュアと一線を画しているのは、「これから大きくするためのもの」であることだと思います。元々あるものを小さくして愛でるのではなく、実際に建てる想定で、提案したり実験したりする意味合いも大きいです。

私は添景(てんけい)と呼ばれる演出目的の人・車・家具などの家具模型を得意としていて、特に家具が好きでした。家具を置くとその場所が問答無用で住空間になることに気づき、色々な空間構成を試しながら制作しています。例えば、ティーポットが持っているイメージ(溜める、注ぐ、保温など)と、家具のある空間を組み合わせたら、人は何を見出すかな?どんなことを考えるかな?とか。

作品にストーリーを盛り込むことはあまりせず、できるだけプレーンになるようにしています。どういう風に見えるかは各々の想像力に任せたいと思っていて、結果的に作品を受け取った方の叙情的な部分に語りかけられていたら嬉しいです。

また、建築模型はその来歴から紙や木、スチレンなどの比較的身近な、素朴な素材を使っているので、独特なエッジの恰好良さもありますが、その分精度が高くないと観賞用として耐えないので、できるだけ美しいプロポーションを探る、できる限り精度を出すように気を付けています。ちょっと試してみたらこういう風に見えたとか、あり合わせの素材でこう出来たとか、スタディの感覚が好きなので、そのような心持ちで制作しています。

―― 直近では、ニベア缶のキャンペーンに参加されていますね。

これまでも何度かやられているキャンペーンで、前回までは個人的に応募していたのですが、今回は参考作品としてお声がけいただきました。「繋がるニベア」という企画なので、ニベア缶を大小2つ使って繋がっているデザインになっています。コンセプトは「家と世界」です。

普段から制作のテーマにしている住環境を軸に、まずは〈家〉、そして対になる〈世界〉を表現しました。大きいほうの缶には小さいほうの缶の家が小さく登場していて、視点・スケールの変化、ズームバックとズームアップの要素を入れています。いつも主に住宅のスケールの作品を作っているので、〈世界〉をどう表現したものか、何を以て世界とするかと迷いましたが、空・陸・海の3つの要素を抽出して、デザインを試みています。

作りながら思い出されたのが、「パワーズ・オブ・テン」という映像作品です。原っぱに寝転がっている男のひとがいて、カメラをどんどん引いていって宇宙の果てからの視点になり、今度は寄って行って男の人の細胞の中の電子?まで行きます。パワーズ・オブ・テンは10の10乗という意味です。起点が変わらなくても引いたり寄ったりするとびっくりするくらいいろんなものが見えてくる、ということを感じさせます。大学と桑沢の授業で、合計4回見たほど縁のある、というか学生にとって重要とみなされているであろう作品で、空間をテーマに制作活動をしている以上、視点やスケール感のことを常に意識していたいな、と考えるきっかけになった一作です。

―― それでは、桑沢入学前のお話を教えてください。

小さい頃から図工が好きで、美大も気になっていました。ただ、受験する自信が無かったので、一般大学の中から偶然見つけた文学部芸術学科に進学しました。学芸員資格が取得できる課程があり、純粋芸術やメディア芸術の歴史などを勉強していました。

「やっぱり手を動かして何か作りたいな」と思っていた頃、ファスナーの船で有名な鈴木康広さんの授業を受けたり、展示のお手伝いをする機会がありました。当時のアシスタントの方に「専門学校への進学を考えている」と相談したら、「桑沢がいいよ」と教えていただいたんです。調べてみると、専門学校の中でもしっかりとカリキュラムが組まれているのが分かったので、桑沢に決めました。卒論もあって忙しかったので、受験は一般入試の創造表現で受けました。

―― 1年次に印象的だった授業を教えてください。

やっぱり基礎造形・立体ですね。始めは何をしているのか分からなくても、ずっと楽しかったです。ハンドスカルプチャー(以下「ハンスカ」)や2等分割、30案は特によく覚えています。2等分割は「たいへんだから8段にしといたら」と先生に言われたのですが、16段で押し通しました(笑)。30案は先輩方が後で役に立つと言っていたので段々と力が入っていき、ポートフォリオを作成する際には納得のいかなかった序盤の分を描き直したりしました。今でも夜間附帯教育に入ってもう一度学びたい!と思うほど、思い入れがあります。

基礎造形は講評もとても楽しかったです。誰かが創作物を見てくれて、講評をもらえるというのはとてもハッピーなことだと改めて感じました。まして授業で講評をしてくれるのはプロの先生方や志を同じくするクラスメイトです。大学の卒論のときに自分が書いた数万字単位の文章を読んでもらえることが果たしてこの先あるだろうか、と考えたのを経て桑沢に入学できたこともあり、より課題を大事にできたのではないかと思います。

―― 授業を受ける際、大事にしていたことは何ですか?

課題意図の理解です。どんな力をつけるための課題なのか把握する、そのために設けられている課題の中のルールを守る、初回の授業は絶対に出る(笑)。ありがたいことに成績が良かったのですが、9割がた出席率が断然良かったからだと思います。

基礎造形では、特に精度について教えてもらいましたね。とにかく手をきれいに保ったり、カッターの刃はマメに折ったり、正しい方向に刃を流す、正しい場所を押さえる、等々。模型バイトをしているとき、そういう基本を教わっていないと思わしき人が多いように感じました。
1年次の基礎造形できれいに作る癖をつけた方がいいといろんな先生から何度も言われていたので、やはり大事だと思います。学生時代にしっかりと手を動かしておけることが桑沢のつよみです。社会に出たとき役に立つとは言い切れませんが、少なくとも生きる上での下支えのようなものにはなると思います。

ハンスカは「触覚をとにかく追いかける」ということを忠実に守り、見た目に引っ張られないよう、触覚で作るまとまりやメリハリを大事にしていきました。自分が作った作品の中でもハンスカはかなり気に入っていて、ありがたいことにデザイナーズウィークに出展していただいたり、マイアミのインテリアショップにも展示していただいたりしました。

▼ハンドスカルプチャー ―― スペースデザインを選んだ理由と、印象的な授業を教えてください。

大学時代からイラストを描いていたので、入学前はビジュアルデザインを専攻しようと思っていました。ただ1年次に4つの専攻を経験し、クラスメイトの評価としても、自分の体感としても、立体や模型に向いていることに気づいたんです。また、空間デザインも好きでしたし、専任の先生が好きだったのも大きかったですね(笑)。

1年次のスペースデザインでは、渋谷に空間デザインをするのがテーマでした。街に繰り出して自分なりの手がかりを見つけるのですが、雑踏や様々な言語の会話、スピーカーから流れる歌などのあらゆる音が拾えて、街としての特徴のひとつだと感じられたので「声」をテーマに選びました。聞こえてくる色々な音や言語を可視化して、平仮名を分解して配置したデザインです。

2・3年次になってからは、「2つの住宅論」という授業が印象的でした。篠原一男という建築家がいて、彼のデザインした住宅の隣に自分で住宅を設計します。抽選でどの住宅を担当するか決めるので、みんなそれぞれ自分が引いた住宅に愛着が湧いていました(笑)。私は山城さんの家を担当することになり、まずその模型をしっかり再現してから、自分のデザインも制作しました。

構造のアドバイザーとして鳴川肇先生というすごい先生も参加してくださって、軸組模型を作って、実際に建てる想定のもと、「こういう工法がいいよね」とか、「この素材にしたら?」といった技術的な、具体的なアドバイスをしていただきました。そのため、設計の解像度が上がりました。先生が当然のように実際に建てるていでお話を聞いてくれたのも印象的でした。

―― ポートフォリオを拝見すると、コンセプトにしっかりとした説得力を感じます。

実は在学中から、自分はデザインに向いてないと薄々気付いていました。人の話を聞いて、望んでいることを見極めてすり合わせていくのが苦手だと。そんなわけで課題に取り組む上で大事にしていたのは、「自分にとって切実かどうか」です。課題ごとに、コンセプトは自分の経験や価値観に基づいているか、納得できているか、選んだ形や素材はコンセプトに基づいているか、ちゃんと自分の好みになっているかを、常に念頭に置いていたので、結果的に作品をしっかりと作り上げられたのではないかなと思います。

―― 就活はどうでしたか?

先生からお声がけをいただいたりもしたのですが、いまの業界の枠組みでの実務をやり切れる自信がなく、お断りしました。
また、デザイン業界全体にいえる重要な問題として、お給料と福利厚生などの基本的な待遇のことがありました。母親が建設系の労働組合で仕事をしていたので、就職先を探すにあたって、その部分は妥協できなかったというか、「やりたいことだからしょうがないよね」とはならなかったです。

その後は、先輩の紹介で続けていた模型制作のアルバイトを続けることにしました。比較的模型を大事に考える事務所だったと思いますが、それでもやはり模型への皺寄せを切に感じました。 学生の頃にデザインを優先して模型が疎かになることもあると思います。もちろんその逆もあると思いますが、いずれにせよ問題なのは、時間ですね。授業でも模型制作に取れる時間が短いのですが、実務設計だともっと短いんです。模型がゴールではないので当然といえば当然だし、そのおかげで建築模型特有の素材や構法が生まれたという背景もありますが、やはり精度や作りこみを諦めざるを得ない場面はしんどかったです。

―― ハンドメイドアワードでの受賞が、転機になったそうですね。

この賞を主催しているminneさんには、大変お世話になっています。桑沢卒業後は2年ほど業務委託での模型製作をやっていましたが、受賞を機に、自主制作をお金にできるようになっていきました。minneは、ハンドメイドの通販サイトで、個人作家でも一般のお客様と直接の取引ができるサービスです。

桑沢の座学で、デザイナーズヴィレッジの鈴木淳先生が登壇した回がありました。革小物やアクセサリー、陶芸など、小規模で制作をしている作家さんを集めて、制作・販売できる空間を提供して支援するという活動をされている方で、卒業後の進路にプロダクトの個人作家もちゃんと想定されていたんだなあと、カリキュラムを組んだ先生方の細やかさをしみじみ感じます。

鈴木先生の授業を受けたのはもう5年以上前で、今は個人の発信力も向上し、minneのようなネット上の個人販売のプラットフォームもかなり充実しています。販売方法のアドバイスなども受けられるので、すでに自主制作などをしていてデザイン事務所などへの就職に違和感がある、というような学生さんには是非チェックしてみてほしいです。

現在の仕事としては、依頼を受ける機会もありますが、基本的に自主制作をしています。常に新作を作り続けているので、これからもっと頑張りたいですね。ちなみに建築事務所の同僚から依頼されて、結婚式のための模型を作らせていただいたこともあります。桑沢時代の友人同士の結婚式では、前述の受賞作であるつみきにウェディングがテーマのピースを追加で制作しました。

―― 最後に、学生の皆さんに伝えたいことはありますか。

他の卒業生の方もよく言われるそうなのですが、図書館にたくさん行くといいと思います。

大学のとき先生に「皆さん、学費の元をとるためには図書館に行きなさい」言われて以来、心の中で図書館部を発足し、隙あらば図書館に行き、桑沢でも継続していました。今も地域の図書館で継続しています。

桑沢の図書室は、規模感がちょうどよく、蔵書も厳選されているので、とりあえず行ってみて、気になったら手に取ってぴんとこなければ戻して、とにかくいろいろ開いてみるといいと思います。知識やアイデアの引き出しがないと、いざという時に出てこないので、役に立つかは置いといてたくさん蓄えておいた方がいいです。その蓄え先として、ノートを大事にしています。

私はノーテーションと呼んでいますが、図書館部で読んだ本のタイトルと気になった箇所などを書き留めたり、授業のメモを全力でとったり課題のアイデア出しをしたり、友達・先生・映画の登場人物などによる名言・至言などを書いておいたり、展覧会などに行ったときは張り切ってグラフィカルにメモをとったりと、自分にとって素敵な情報をノートで一元管理しています。

手を動かす授業はもちろん、座学の授業もとても楽しく受けていたのですが、ノーテーションの心意気は桑沢の全体講義のレポート課題と非常に相性がよく、更に楽しんでやっていました。レポートもまとめて大事にとってあります。

また振り返ってみると、なにより私が恵まれたと思うのは学業に集中できる環境です。家族のサポートがあり、それに思いきり甘える度胸があったからこそ、自分の目指す道を突っ走ることが出来ました。苦労は買ってでもした方が良いといいますが、そんなことはないと思います。課題のクオリティって、どれだけ学業に専念できるか、要は使える時間に左右されるじゃないですか。親でも公的支援でも頼れる先には頼って、本業(学生なら課題)に全振りしようとしたっていいと思います。望む限りの全ての学生が課題に全振りできるようになるよう、公的支援の拡充や、苦労賛美の見直しがすすんでほしいと切に思います。


インタビュアー:はやしわかな
桑沢デザイン研究所 総合デザイン科 プロダクトデザイン専攻卒業。
<2021年10月>
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