日本で最初の『デザイン』学校で未来を創造する【専門学校桑沢デザイン研究所】

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プロダクトデザイナー/喜屋武 タケルさん

桑沢デザイン研究所卒業後、カーデザインディレクター栗原典善が率いるNORI,inc.に入社。以来、自動車デザインを中心に建設機械などのプロダクトデザインから、モニュメント作品まで幅広く手掛ける。現在もデザイナーとして先行開発から量産モデルを中心に企業のデザイン開発を支援。2014年に取締役に就任。同年、当時会長で創業者の栗原典善の協力を得て、カーデザイン教育をオンラインで提供するCar Design Academyを当時社長の仲宗根と共に創立。2020年に同社代表取締役に就任。2021年から桑沢デザイン研究所プロダクトデザイン分野にて専任教員として勤務。

桑沢デザイン研究所 プロダクトデザイン分野専任講師

NORI,inc. http://www.noriinc.com/
Car Design Academy https://cardesign.jp/

―― デザイナーを目指すことになったきっかけを教えてください。

私は出身が沖縄で、昔からファッションやカルチャー、インテリアに興味があって、趣味の範囲で絵を描いたり部屋を改造していました。その中でも特にオートバイが好きで、高校生の時には友達と一緒にカスタムをしていました。ただ、当時はデザイナーになりたいという気持ちを抱く以前に、デザイナーが自分の身の回りのプロダクト製品をデザインをしているということ自体を知らなくて、そういう仕事は設計者がやっていると漠然と思っていたんです。周囲にそういう人がいるわけでもないし、知っているのはファッションデザイナーぐらいで。高校生の終わりぐらいの時に、父親の知り合いの伝手で桑沢出身のデザイナーの方と知り合う機会があり、そこで初めて製品の形を考えるプロダクトデザイナーの存在を知りました。それで自分もデザインの道に進んでみたいという話をしたら、桑沢を勧められました。ただ受験を考えると、すでに時間が差し迫っていて、昼間部に入るには準備が間に合わなかったので、夜間部を受験しました。その時点ではまだ具体的に何をしたいというのはなくて、学校に行ってから決めようと思っていましたね。

―― 桑沢に入学してから、どんなことが心に残っていますか?

夜間部ということもあり、当時はクラスメイトのほとんどが年上で、自分と同い年の人は3人程度。大学を出てから学び直しにきた人、社会人で仕事の後にスーツのまま学校に来ている人もいて、その中に高卒の自分もいる。色々な年齢やバックグラウンドの人が同じ時間で同じ課題に取り組んで、課題によってはグループ作業をするので、それがとても刺激的でした。それまでは年齢が近い人としか関係性を持っていなかったのに、急に10歳も離れてる人が同じクラスにいる。その環境そのものが面白かったです。学校でデザインを学びつつ、同級生から自分が知らない世界のことを色々教えてもらうことで、こんな生き方があるんだとか、結構自由に生きていいんだと、それまでの固定概念から解き放たれて、自分自身もあまり型にはまらないようになりましたね。

―― 夜間部を卒業された後に、昼間部に編入されたそうですね。

夜間部の2年生になって、この先の進路をどうしようか考えた時に、デザインを学び始めて1年が経ち、楽しくなってきた反面もう少し学びたいなという気持ちが強まりました。昼間部の学生の作品を学内で見たときに、クオリティがとても高かった印象もあり、昼間部に編入することに決めました。
昼間部では、以前から好きだったオートバイのデザインに興味を持って研究しつつ、卒制の作品として作ることにしました。高校生の時から親しんでいたBMXとEVを組み合わせた提案で、モックアップモデルはフルスケールに挑戦しました。制作では、夜間部在学中に働いていた鉄の加工会社に相談したら、余っている部材や作業場を提供して下さいました。作品の画像ではわからないかもしれませんが、フルスケールのモデルの中には自分で加工した鉄フレームが入っています。

▼卒業制作『HOPPER』。自転車よりパワフルで、オートバイよりも身軽なEVで新しいエクストリームスポーツの可能性を追求した。

―― 卒業後の進路はどのように決めましたか?

実は卒業制作を作っている最中にNORI,inc.への就職が決まりました。創業者で私の師匠でもある栗原典善さんが桑沢で先生として教えていた時に、ポートフォリオを見せたことがきっかけです。運良く人員に空きがあり、在学中に実習や入社前研修を全て終わらせて欲しいと言われて、卒業と同時に入社する形で入りました。卒業制作と研修を両立しなければならず、授業がある時は学校へ、それ以外は当時小田原にあった会社に行くような日々でしたね。卒業制作は、元の職場(鉄の加工会社)でフレームを組んで、就職先でボディの造形や最後の仕上げをしました。会社にはプロのモデラーもいたので、たくさんアドバイスをいただきました。

―― まさに現場に近い形で制作されていたんですね。今の会社に入ってからは、どのようなお仕事をされてきたのですか?

クライアントの関係で表に出せないものがほとんどですが、主には車のデザインです。量産前提のプロジェクトから、これから先の未来を考えるコンセプトカーの仕事まで。栗原先生のもとで働きながら、全体のコンセプトを考えたり、エクステリアやインテリアのアイデアスケッチをしていました。その傍らで、EVのオートバイや、ブレーキキャリパーなどの用品のデザインをすることも。建設機械のデザインにも長く携わっています。中国に行く機会が多く、そのほとんどは製品の仕上がり確認でしたが、一番大変だったのは建機の市場調査でした。入社5年目ぐらいの時に中国で世界中の建機メーカーが出展する「Bauma」という展示会があり、おびただしいほどの大型建設機械が並ぶ会場で、他社の製品デザインを細かくリサーチしました。ほぼ全ての建機の写真を撮るのに、広い会場を歩き尽くして翌日変な歩き方になる程でした。その他にも工作機械会社の商談ルームの空間デザインや、ロボット芝刈り機や発電機といった、車やバイク以外のプロダクトをデザインをすることもあります。

▼エクステリアとインテリアのデザイン提案

▼コベルコ建機株式会社のクローラクレーン。建設機械としての高い作業性能はもとより、輸送分解性、省エネシステム、快適な運転環境などの機能を搭載した。街行く人々に威圧感、違和感を与えない、街の景色に溶けこむような安心感のあるデザイン。2012年にはグッドデザイン賞を受賞

▼中国での展示会の様子。調査のため、細かいパーツまで何枚も写真を撮りながら歩き回って、ほぼ全ての機械の写真を撮って回ったそう

―― プロダクト全盤に当てはまるかもしれませんが、製品はその時代を色濃く反映するものですよね。ご自身が学生の頃から現在に至るまで、
カーデザインにおいて変化してきたことはありますか?

15年程前までは、いかに「新しさ」を表現するかが求められていた印象があります。クライアントからも「かっこよさよりも新しい提案が欲しい」と依頼される事が多かったです。当時のカーデザインの傾向を振り返ってみると、面構成やキャラクターラインの使い方、プロポーションなどもユニークなものが多かったように思います。あとはキャラクターライン(*1)が強めに傾斜している、ウェッジの効いたデザインも多かったです。
現在は面質の良さに重きを置いた車が多く、Mazdaなどが象徴的ですね。フラッシュサーフェス(*2)で処理されたデザインも増えており、これは近年のランドローバー、特に最新のRANGE ROVER​を見るとより理解しやすいです。ウェッジが効いていたトレンドも、現在は水平基調に移っています。これはおそらく近年のAppleのiphoneなどにみられる、シンプルでありながら、細部の処理で高品質に見せるようなトレンドが影響しているように思います。 また、車のインテリアデザインはこの数年で大きく変化しています。電動化・自動運転・コネクテッドで、ドラスティックに時代が変わってきた実感があります。例えばタッチパネルで色々なことが操作できるようになると、ボタンやダイヤルがなくなるので、それだけでもデザインはかなり大きく変化しますよね。最近は量産型でも電子ミラーが導入されていて、サイドミラーにはカメラがついています。そうすると今度は室内にその映像を映すためのモニターが必要なので、今までにない要素が次々と加わってきます。更にこの先自動運転になれば、今まで運転のために最適化されてきた室内の過ごし方も変化する。例えば車ではなくインテリアデザインの要素を車に持ってきたらどうなるかというようなことが、色々なメーカーで提案・検討されているところです。車のデザイナーを目指す若い世代はエクステリアに興味を持つことが多い印象ですが、インテリアデザインはこれからもどんどん変化・発展していくのでおすすめの領域です。

*1 ボディの側面に折れや彫り込み等で成形される、その車の特徴を浮き出すライン
*2 突起や段差のない滑らかな表面

―― デザインする時に一番大切にしているのはどんなことですか?

私の場合はインハウスデザイナーの方とお仕事をすることが多く、求められているのは内部のデザイナーからは出てこないようなアイデアの方向性を示すこと。なので彼らと話をしながら、これは少し大胆すぎるかなというものでも、躊躇せずに出しています。、建機や車以外のプロダクトデザインをする際には、デザイナー以外のエンジニアや企画、営業の方々が会議に参加されますが、そこでもアイデアスケッチの段階から参加いただき、デザイン決定のプロセスまで、全て一緒に進めています。こちらから出すアウトプットはあくまでもコミニケーションの材料で、このデザインでいくぞという一方的なものではなく、対話のための道具として使っている感覚に近いです。彼らも市場や方向性についてのイメージを言葉で用意してくれますが、一人一人が頭で想像しているものはきっと違う。だから出てきたキーワードや条件の中で、あり得るパターンをスケッチや3Dモデルでビジュアル化してみると、より方向性が明確になります。ビジュアル化する前にデザイナーとしての意見ももちろん言いますが、一回見せてから調整する。そうやってクライアントと一緒に作り上げて、彼らが「これだ!」と言ってくれる瞬間が一番嬉しいですね。製品にするために技術者へデザインを渡した時に、笑顔で「また難しいのにしてくれましたね」と一緒に楽しんで下さる姿を見ると、こちらもデザインして良かったなと思います。私自身も人と話したり、議論して作るのが好きなんだと思います。

―― 現在桑沢でご担当されている授業について、教えてください。

昼間部1年生の基礎デザインでプロダクトデザインを担当している他に、1・2年生対象のカースタイリング、そしてプロダクト分野に進んだ学生に対して、モデリングを教える授業を担当しています。カースタイリングはその名の通り車のデザインを教える授業ですが、これ自体は栗原先生が提案して始まった授業です。というのも、カーデザイナーの就職試験は、デザイン分野の中でも特段早く、卒業前年度に行われるのでかなり早めに準備をしなければ間に合いません。この授業ができるまで、カーデザインを目指す人たちは、それを事前に知った上で授業とは別に独学で準備しなければならなかったんです。そこで栗原先生が車メーカーの就職対策として、1〜2年生から学べる授業を作りました。私は彼からそれを引き継いだ形になります。手伝いをしていた頃から数えると、もう10年くらいになりますね。

▼夜間部1年生プロダクトデザイン専攻の前期授業「表現技術C -モデリング- 」の課題作品。各自で決めた造形テーマを表現するために、スケッチと粘土により形状を吟味し、最終的にケミカルウッドを削り出して作品を制作。

写真は、モデリングするためのテクニックを身につける授業の課題作品です。他の学校だとこの手法はスピードシェイプと呼ばれていて、速そうな形ばかりができるのですが、私の授業で重要視しているのは、立体として成り立つことです。面が自然に移り変わるにはどういう面処理をするのが良いのか、稜線をどういう風に回せば自然に見えるのか。ハイライトを通すとかエッジを繋ぐという話ばかりしています。そういう意味ではカーデザインの要素がたくさん詰まった授業です。

―― 世界初のオンラインでカーデザインが学べるスクール「Car Design Academy(以下CDA)」をご自身でも立ち上げられていますね。
どういう思いで作られたのでしょうか。

実は私自身が、メーカーの試験を受けて落ちた経験があります。その当時はなぜ落ちたのか分かりませんでしたが、ある程度プロになって色々やっていくと、その原因も分かるようになりました。桑沢にはカースタイリングの授業ができたので、その先は良かったものの、世の学生たちの中にはやる気があっても学び方が分からなかったり、カーデザイナーのなり方すら知らない人がたくさんいることを実感しました。それで情報発信と学べる場をつくりたいという思いで、立ち上げました。おかげさまで良い反響もあり、海外の方も参加できるよう英語版も展開しています。そうした経験も、桑沢の常勤職員になりたいと思ったきっかけの一つです。教えることに対してもとても魅力を感じているし、若い人たちからは新しくてユニークなアイデアが出てくるので、自分自身への刺激になっています。

―― これからプロダクトに進学したいと考えている学生に向けてメッセージをお願いします。

この仕事はクリエイティブな作業だけでなく、現場との調整などもあり大変ですが、苦労したものが世に出る経験はかけがえのないものです。先程もお話したように、私自身はデザインをコミュニケーションの手段だと思っているので、コミュニケーションの相手であるクライアントやユーザーに「どうやったら伝わるのか」をひたすら考えながらやることも醍醐味の一つです。プロダクトデザインは絵を描いて立体化する、あるいは立体から絵に落とし込む、というように二次元と三次元を行き来する作業になるので、そういうことを楽しめる方には、ぜひこの世界に入ってきて欲しいなと思います。


インタビュアー:元行 まみ
桑沢スペースデザイン年報(2021-2022)の編集などを担当
<2022年11月>
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