日本で最初の『デザイン』学校で未来を創造する【専門学校桑沢デザイン研究所】

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CMFデザイナー 里舘ひなのさん

1998年 埼玉県生まれ。桑沢デザイン研究所 昼間部 プロダクトデザイン専攻卒業。2019年 ダイハツ工業株式会社に入社後、主に国内向け軽自動車のデザイン開発に携わる。現在までに「新型ハイゼットシリーズ(2021)」、「新型タントシリーズ(2022)」のCMFデザインを担当。オートカラーアウォード2022にて「ハイゼットトラック」のプレゼンターを務め、グランプリを受賞。

―― まずはじめに、ご自身がデザイナーを目指すことになったきっかけや経緯を教えてください。

自分が作ったものに対して周りの人が喜んでくれることが昔から好きで、それを仕事にしていきたいと思ったのが、デザインを学ぶことになった一番最初のきっかけです。高校は普通科でデザインとは無縁のところに通っていましたが、デザインを学びたいと思ってから情報を集めていく中で桑沢に出会いました。もちろん他の美大や専門学校も考えたのですが、桑沢に見学に行った際にいわゆる「学校」とは異なる独特の空気感や緊張感がある印象を受けました。一風変わっているけれど立地もいいし、色々な個性の学生がいて、他では味わえないような経験ができるのではないかと感じたのが決め手でした。いざ入学してみると、それぞれ信念を持った人たちがいて刺激的でした。私は昼間部でしたが、最初に専攻が分かれているわけではなく、一年次に色々な分野を学んで、自分の興味や得意分野、特性を見つけて専攻を決めていくスタイルも私に合っていました。

―― 桑沢に入学してから、どんな授業が印象に残っていますか?

小関先生の「立方体の二等分割(立方体を同じ2つの形に分ける課題)」での経験は、今の仕事にも通じる部分があると感じています。模型を100個ぐらい作り、その中で美しい造形を模索していくのですが、色々な視点を見つけることを授業の中で教えていただきました。学生の頃は自分がこれだと思ったものをただ突き進むばかりでしたが、いざ会社に入ってみると、思いもよらない多方面からの視点があり、それをなんとかまとめていかなくてはならないこともあります。そのような時に、この授業での経験が活きていると感じています。

もう一つは中田先生のカースタイリングの授業です。やはりスケッチ力が求められるのですが、先生に「これはなんでこの形なの?」と聞かれた時に、全然答えることができなかったんです。学生には難易度が高いですが、あらゆるプロダクトの形には単なるかっこよさだけではなく、人の行動や生活環境に根付いた理由があることを教えてもらいました。またそれがきっかけでCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインという分野を知り、今の仕事にも繋がっています。

▲カースタイリングの授業の作品。様々な技術が進化を遂げ、モビリティのカタチが変化する現代において「人が本当に良いと感じるクルマの姿は何か」を考察。原点をテーマに、理論ではなく感覚で思うままに描かれた 「子どものイラスト」に着想。フリーハンドでのびのびと描いたようなボディと円形のウィンドウが、お出かけのワクワクを演出する。

プロダクト専攻に進んでからは、ドライヤーをデザインする課題がありました。それまでなんとなく日常で使っているプロダクトに対して、どんな課題があるかを考えることから始めました。ドライヤーの収納しづらさに着目し、取手と風がでる部分を回すとコンパクトになるデザインを提案しました。使う人の視点を読み取ることが、プロダクトデザインに求められることを学びました。

▲身の回りの小型の電化製品を考える授業。人間にはスマートフォンが普及しているが、人間以外の動物にテクノロジーを届けられないかという思いから、心拍数や歩数、居場所がわかるプロダクトを提案。鈴のように装着することができる。

桑沢の課題と両立しながら、インターンにも精力的に取り組んでいました。車業界は特に就職活動の時期が早く、他の大学のライバルたちと競うのも大変でした。インターンで学んだのは、こういう時代背景があるからこんな人に届けたい、だからこの車はこんなコンセプトを立てる、といったような全体のロードマップの作り方。内定をいただいた時に提案した車では、特にデジタルネイティブである若い世代はコミュニケーション不足で、ネット疲れしているという現状から、自然を求める人たちが増えているのではないかと考え、コンセプトを立てていきました。最終的にはまとめ上げた過程を皆さんに評価いただいて、内定をいただくことができました。

▲現在在籍しているダイハツ工業のインターンへの応募書類。経済的な理由も相まって車離れしている若い世代へ向けたミライースの提案。外板色は春の楽しさを感じられるような華やかな雰囲気のエクステリアカラー、インテリアは和を感じるようなちりめんやウッドを使うことによってぬくもりを感じられるような演出に。

▲内定時の提案。海に出かけるようなイメージで、朝日と海が融合して溶けていくような、優しい輝きのエクステリアカラーと爽やかな雰囲気のインテリア。

―― 車業界は特に就職活動の時期が早いとよく聞きます。進路はどのように決めていきましたか?

4年制の大学の場合は、3年生の春頃からインターンに行き始める時期ですが、桑沢は昼間部が3年制なので、2年生の春頃には動き始めます。最初は私自身車の知識は全くなく未知の世界で、興味の向くままにカーデザインの授業を受けていたのですが、先生方とお話すると車へのただならぬ情熱を感じ、次第に自分もその世界に惹き込まれていきました。絶対に入ってやるぞという心持ちで始めた訳ではありませんでしたが、インターンに行ってみようと思い始めてからは、作品作りにのめり込むようになりました。

同時に、桑沢の友人が背中を押してくれたことも、大きな力になったと感じています。未知の分野に挑戦する時に、一人だとこのまま進んで大丈夫だろうか?と不安になりますが、友人が「やってみなきゃ分からないし、挑戦してみなよ」と声をかけてくれたことで、踏み出すことができました。働き始めてからは頻繁に会うことはありませんが、今でもSNSなどで近況を知ったり、仲間がデザインの賞を取った時には嬉しいですし、分野が違っても頑張っていることがわかるので、それが誇りでもあり自分が頑張る糧にもなってます。

―― 卒業後のご活動について教えてください。

卒業後はダイハツ工業に就職し、カラーデザインを担当した車種が現在2種類発売されています。入社して初めて担当したのがハイゼットトラックです。軽トラに関して全く手探りの状態でスタートしたので戸惑いがありましたが、お客さんがどのように使っているのかを調査するうちに、単なるビジネスカーというだけではなく、彼らにとっては愛車だということに気がつきました。話を聞いていくうちに私自身の中にもお客さんへの愛が段々と芽生えてきて、働く人たちを彩るのが自分の使命だと考えて提案した作品が、オートカラーアウォードというイベントで見事グランプリをいただきました。

▲働く人が快適に仕事ができるよう、生の声を集めた緻密なリサーチが評価された。エクステリアは使い手のライフスタイルに寄り添ったカラーリングに。インテリアは砂で汚れてもお手入れがしやすいシート素材にしたり、シートの端が破れにくい縫製にする工夫も施されている。

―― デザインする時に、それを使う人の声を聞くことをとても大事にされているのですね。

ダイハツ工業は特に、高級車というよりもお客さんの生活の中で一番近い存在でありたいという方針があります。デザイナーだからといってオフィスでのリサーチで完結するような方法ではなく、お客さんのところへ出掛けて行って、彼らの目から見た困りごとから改良点を導き出して車に反映することを開発で一番大事にしており、そういったものづくりの姿勢を会社に入ってから仕事を通じて改めて学びました。商品のその先にある暮らしを作っていくことが私のやりがいだと感じており、ダイハツの考え方が自分にも合ってると思っています。

―― 使い手に直接聞くことに加え、どのようにリサーチをされているのですか?

使う人の気持ちを知ることを、全てのリサーチのベースにしています。例えばアウトドアが好きな層をターゲットにする場合、アウトドアブランドを調べて、お店にいるお客さんがどんな視点で何を基準に商品を選ぶのかを観察してみる。私自身は興味がなかったとしても、服装をアウトドアウェアにしてみると、使う人の気持ちが少しわかるようになることもあります。そうすると、道具感があって力強そうなカラーが求められるのか、というように自分と違う人の目線になることで違う世界がみえてきます。今まで全く知らなかった世界を車が教えてくれるような感覚です。自分自身の引き出しを増やすとともに、使い手の心に響くプロダクトに反映できるよう日々リサーチしています。

―― デザイナーとして、これからどんなことに挑戦していきたいですか?

デザイン部も、大きな会社の中ではマイノリティだという気づきもあり、それによる課題も見えてきました。デザイナーとして「こんなことに挑戦してみたい」と思った時に、展示会等で実現できることもある一方で、お客さんが5年10年使う車を製品化する際には、本当にこれでいいのか?という問いにぶつかることになり、関係者との調整を繰り返すうちに、一番最初にデザイナーから出てきた想いを反映することへの難しさも感じます。伝え方や自分の目線をアップデートしていくことで、当初の想いをそのままお客さんへ届けられるようなデザイナーになりたいと思っています。そのためには分野にとらわれず、企画や設計などにも挑戦してみたいです。

―― お仕事を通して、大事にしたいことや考え方はありますか?

チームでひとつの気持ちになってやることの重要さは最近特に感じています。お金の面や生産性を踏まえた社内の制限もデザイナーとして考慮しなければなりませんが、それはお客さんには全く関係ありません。たくさんの人が関わるからこそ、チームの思いを守れているかどうかがプロダクトの質に関わり、ズレが生じてしまった時に中途半端なものができてしまいます。そうしたことを無くしていくためにも、分野を超えて気持ちを一つにできるような提案をしたいと思っています。最近意識していることは「相手に伝わる言語で話す」こと。例えば設計部の人にデザインを説明する時に、なぜそれが良いのか?を感覚的な言葉ではなく、シェアグラフなど数字で説明できるものを準備して、なるべく論理的に話すようにすると、理解してもらえることが増えました。お客さんはもちろんのこと、一緒に仕事をする人のことを考えて、意思疎通する精度を上げていくことを大切にしていきたいと思っています。

―― 最後に、これからデザインの道に進もうとしている受験生や学生に、伝えたいことがあれば教えてください。

今は自分が何をしたいかわからない人もいると思いますが、興味があることには全部チャレンジしてほしいです。私自身の経験から感じていることですが、CMFデザインに至ったのも自分の興味を掘り下げていった結果であり、それが今の仕事ややりがいに大きく影響しています。もしあの時自分が動いてなかったらこんな経験はできなかったし、あの時友人が背中を押してくれなかったらやめていたかもしれない。その時点では興味がなくても企業説明会などに参加して、自分の適正ややりたいことを見つけていくことも、道を切り開いていく一つの方法だと私は思います。


インタビュアー:元行 まみ
桑沢スペースデザイン年報(2021-2022)の編集などを担当
<2023年2月>
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