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2026.09.03卒業生 鄭愛香さんが共同主宰するKACH「川崎朝鮮初級学校」の校舎を設計

桑沢デザイン研究所の卒業生が設計を手がけた、川崎朝鮮初級学校の校舎をご紹介します。
設計を手がけたのは、昼間部/総合デザイン科スペースデザイン専攻卒業生の建築家・鄭愛香さんと、建築家・笠井太雅さんが共同主宰する「カサイタイガ+チョンエヒャン建築事務所/KACH」です。

校庭と連続する「雛段状の3段のテラス」を特徴とするこの校舎は、子どもたちの活動の場を広げるとともに、学校と地域とのつながりを生み出す建築として計画されました。
第52回東京建築賞 東京都建築士事務所協会 会長賞、第67回神奈川建築コンクール 優秀賞、第5回日本建築士会連合会 建築作品賞 奨励賞を受賞しています。

鄭さんは幼稚園から大学まで朝鮮学校で学んだ後、桑沢デザイン研究所でスペースデザインを専攻。2016年から山本理顕設計工場に勤務し、2020年に笠井さんと「カサイタイガ+チョンエヒャン建築事務所/KACH」を共同設立しました。
現在は建築家として、住宅や店舗、学校、集合住宅などの設計に携わっています。

今回の川崎朝鮮初級学校の新校舎は、築50年以上が経過した旧校舎の建て替えとして計画されました。旧校舎から床面積が約3分の1となる中、子どもたちの活動の場をどのように確保するかが大きな課題となりました。

そこで提案されたのが、校庭と連続する3段のテラスです。校庭から階段で直接行き来できるテラスは、遊びや学びの場として日常的に使うことができ、校庭を補完する「拡張空間」として計画されています。また、3面が道路に接する敷地の特性を生かし、テラスでの子どもたちの活動が周辺地域からも見えることで、学校の存在や日常の様子がまちの風景となることも意図されています。

さらに、吹抜けや高窓を介してテラスと教室、共有部をつなげることで、校舎のどこにいても他の場所にいる人の気配を感じられる構成。自然採光や自然換気も積極的に取り入れ、限られた空間の中で、子どもたちがのびのびと活動できる環境をつくっています。

ここからは、川崎朝鮮初級学校の設計背景とともに、子どもたちの活動の場を広げ、学校と地域をつなぐ「雛段状のテラス」をはじめとする校舎の特徴をご紹介します。

在日朝鮮人と朝鮮学校

在日朝鮮人とは、1910年の日韓併合後、朝鮮半島から日本へ移住した人々、あるいはその子孫を指す言葉である。その在日朝鮮人の子どもたちが自らのルーツと母国語を学ぶため、継承してきた場所が朝鮮学校であり、現在は日本全国に51校(2024年10月時点)が点在する。そのひとつである川崎朝鮮初級学校は、1946年に開校し小学校と保育所が併設された全校生徒40名程の小さな学校である。

拡張空間としての雛段状のテラス

築50年以上の旧校舎は、生徒数の減少や老朽化を背景に生まれ変わることを望まれていた。川崎の在日同胞たちは先代たちが引き継いできた敷地の一部を売却し、残る土地に新校舎を建設することを決断した。そこには敷地の一部を売却することによって、子供たちの活動の場が狭まれてしまうのではないかという大きな懸念が最初にあった。それに応じるかたちで2階建ての建築のボリュームを調整し、子供たちが遊び回れるような、校庭と連続する開放的な雛段状の3段のテラスを提案した。3段のテラスは校庭から階段によって直接自由に往来することができ、校庭を補完する、子どもたちの活動領域の拡張空間となる。

まちの風景となる舞台

雛段状の3段のテラスでの活動は、周辺地域から視認されるまちの舞台となる。3面が道路に接する敷地は、各通りから子供たちを見渡すことができ、朝鮮学校の活動を日常的に感じることができる。10分の休憩時間でも子供たちはテラスを走り回り、楽しげな遊び声が周辺地域に響き渡ると、地域住民はその存在を確かに認識する。運動会、文化祭、地域交流会が催される日には、雛段状のテラスは校庭を望む観覧席になったり、校庭を観客席として演目を披露する舞台にもなる。雛段状のテラスでの活動は周辺地域と相互的に関わり、朝鮮学校の姿が地域の日常的な風景となるように意識した。

交錯する活動の風景

各階テラスでの活動は、吹抜けや高窓を介して校内の共有部や各諸室からも見渡すことができる。職員室からは玄関に入る来訪客、2階テラスで遊ぶ子どもたちと青い空が一場面として交錯する。2階の教室に入ると、中2階のテラスでヘチマを育てる子どもと室内広場(図書コーナー)のベンチで本を読む子どもの姿が交錯する。どこにいても、どこかにいる誰かの気配を感じることができる。またテラスは吹抜けや共有部を介して室内の教室とつながり、拡張した教室の一部として利用することができる。理科の授業で植物を育てたり、夏に仮設のプールを設置したりと、テラスを日常的に使用できるように東屋、水場、遊具を据えて子供たちの活動の場を設えた。

地盤置換工法と軽快な鉄骨造

敷地は川崎港沿岸部の埋立地に近く、地盤が緩いため支持地盤深さは32m程度になる。長大な杭の代わりに、掘削する土の重量と建築の重量を同程度にすることで、不同沈下を防ぐ地盤置換工法を採用した。地下耐圧盤の下に発砲スチロール埋設することで、重量のバランスを調整する。この工法を成立するため、より軽量な鉄骨造になるように部材の量を可能な限り絞り、遮音性が不要な床は乾式にするなど、打設するコンクリート量も最小限に抑えた。

開放的なラーメン構造

鉄骨の躯体は、部分的にブレースエリアを集約したブレース付きラーメン構造とした。構造部材の大きさを調整しながら、空間の構成を明快なラーメンにすることで得られるフレキシビリティを優先している。柱梁の鉄骨部材や床板のデッキプレートは表しとし、フレーム間の雑壁や建具によって部屋を構成した。ブレースエリアを限定し雑壁や建具を取り払うことで、将来的に予想される多様な使われ方や用途変更にも柔軟に対応できるように考慮した。部屋を仕切る建具は全開放できる引戸となっており、教室と教室を繋げたり、共有部と一体的に使用したりと、限られた空間を有効活用できるように設えた。雑壁の仕上げには有孔合板を使用し、最小限の仕上げ面積で最大限吸音できるように仕上げた。

開かれたシンボル

この学校が在日同胞たちの結束を深め、地域社会と一体となって日本人と朝鮮人を繋ぐ橋を担ってほしいと望んでいる。校庭から教室の中まで連続する雛段状のテラスは、その架け橋として、朝鮮学校の新しい開かれたシンボルになることを願っている。

川崎朝鮮初級学校

建築主:学校法人神奈川朝鮮学園川崎朝鮮初級学校
設計・監理:カサイタイガ+チョンエヒャン建築事務所/KACH
施工:丹勢建設

計画地:神奈川県川崎市川崎区桜本2-43-1
主用途:各種学校(小学校相当)及び保育所
建物名:川崎朝鮮初級学校
敷地面積 3,678.29m2
建築面積 520.54m2
延床面積 785.97m2
構造:鉄骨造(ブレース付きラーメン構造)
高さ:9,96m
意匠:カサイタイガ+チョンエヒャン建築事務所/KACH
構造:Graph Studio
設備:設備計画
監理:カサイタイガ+チョンエヒャン建築事務所/KACH
Graph Studio
校名板グラフィック:APPROGRAPHY/許相浩
撮影:千葉顕弥

▼第52回東京建築賞
https://www.taaf.or.jp/prize/index.html

▼令和7年度神奈川建築コンクール
https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/0721/kanagawa-architecture-concours/gallery/67/general.html#kawasakityousen

▼第5回日本建築士会連合会建築賞
https://www.kenchikushikai.or.jp/torikumi/new_awards/newawards_5th.html