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「サローネサテリテ・アワード2025」参加者座談会【後編】

誰にでもチャンスがあるピュアなデザインコンペ、
ミラノ「サローネサテリテ」の魅力とは?


2025年4月に開催されたイタリアの国際家具見本市「ミラノサローネ」で併催された「サローネサテリテ・アワード2025」に、桑沢デザイン研究所の卒業生が多数参加しました。このアワードに参加した卒業生3名による座談会の後編では、現在の活動で活かされている〈桑沢〉の学び、さらに将来のビジョンについて詳しく聞きました。

SUPER RAT長澤一樹さん(中央/2017年 昼間部スペースデザイン専攻 卒業)
生駒崇光さん(左/2010年 夜間部プロダクトデザインコース 卒業)
中山大暉さん(右/2025年 夜間部プロダクトデザイン専攻 卒業)

「サテリテ」は言わばプロの「卒業生作品展」

―― 若手デザイナーの世界的な登竜門である「サローネサテリテ」に作品を出展した皆さんですが、現在の活躍に〈桑沢〉の学びはどのように活かされていると思いますか?

長澤 これはですね……表現するのが非常に難しいのですが、デザインに対する解釈にあたるものを肌感で身につけられたのが、〈桑沢〉の3年間だったと思います。自分なりの作家性というかアウトプットの手法を見つけられた達成感を得た実感があります。実は、これが意外と難しくて、3年間でアウトプットが見つかる人のほうが少ないと思うんです。

僕の場合は、常に退路を断って、「これがダメならデザイナーをやめる」みたいなことをずっと思い続けた学生時代でしたね。そこまで自分を追い込むと「やめたくない」という気持ちも芽生えて……そんなデザイン漬けの毎日を続けられる環境が当時の〈桑沢〉にはあった気がします。〈桑沢〉って、東京芸術大学、武蔵野美術大学、多摩美術大学ほどハードルは高くないにせよ、入学試験があるから面白い人が集まってるんですよね。とにかく、そういう恵まれた環境があったと思います。

生駒 私の場合は、母子家庭だったので、どう計算しても美大に行くお金が足りなかった。そこで、昼間働きながら、貸与型の奨学金も借りて、〈桑沢〉の夜間部に通ったんです。そうしたら、そこには医者とか一流企業で働いている人たちがいるわけです。グラフィック(デザイン)のほうで長い経験があって、プロダクト(デザイン)を学んでいる人とか。有名な大学を卒業した人がわんさかいて、しかもみんなガチで学んでいる。これはぜんぜん遊べないな……と思いましたね。飲み会行こうぜみたいな余裕はまったくなかった。

そういう環境で他者評価を受けて、自分の才能やポジションを自覚できたのが〈桑沢〉時代の収穫だったと思います。なんというか利害関係者じゃない人たちから、いろいろな意見を言ってもらえる。〈桑沢〉の「卒業生作品展」で、自分のデザイン思想を明確化した上で、ピュアに作品を評価してもらえたことは、本当に印象に残っていて、それが「サテリテ」の出展にもつながっている気がします。

「サテリテ」って、本当に多様な国籍の人たちが集まる国際見本市なんですよね。ヨーロッパ全土はもちろん、アメリカ、アジアの人も来る。しかも、みんなデザイナー、バイヤーといったクリエイティブに関わる人たちなわけです。そこで、クライアントワークではない、自分の作品をピュアに評価してもらえる。これは言わばプロの「卒業生作品展」なんですよね、私に言わせると。「サテリテ」出展者の人たちに話を聞くとここで5年、10年と大事なコンセプト作品を出し続けて、やっと商品化が決まるなんてこともあるようです。ちょっと脱線しましたが、〈桑沢〉の「卒業生作品展」で徹底的に他者評価を受けるような経験の先に、「サテリテ」のような場所への挑戦があるわけです。

長澤 あえて厳しいことを言えば、「卒制(卒業制作)」を頑張れなかった人は、デザイナーを続けるのは難しいと思う。結局、同じことがずっと続くわけだから。「卒制」は相談できる先生もいて、テーマも予算も自由なわけです。そこで、頑張り切ったからこそ、将来が見えてくる。という自分も所属していた藤森ゼミがなければ、学校をやめていたかもしれない。藤森先生は口にしなかったけど、「卒制」を通じて、「デザインって仕事は一生をかける意味がある」という教えを受けた気がしてますね。

自由なデザイン論を持てるのが〈桑沢〉の魅力

中山 私はちょっと違う視点なのですが、〈桑沢〉ってよくも悪くも決まったデザイン思想を教え込まれない。各々が自由なデザイン論を持てるのがよさかなと思いますね。私は30歳で社会人として通い始めたので、デザイン思想とか逆に興味があったのですが、こういう思想が正しいとか正しくないとか、一義的なことはほとんど教えられなかった。デザイン論の入門のような授業がひとつあったくらいで。

今回、「サテリテ」に来て、出展者がいろんな場所から、いろんなストーリーと感性を持ち寄って作品を発表している“多様性の美しさ”みたいなものを目の当たりにして、この構図に魅力を感じたんです。画一的なデザイン論を学んでしまったら、こういう魅力は生まれない。〈桑沢〉の夜間部って、基本的にみんな社会人だから、変な馴れ合いもなくて、ドライなんです。先生からもひとつの「解」を押し付けられるようなことがない。そんな環境がよかったんじゃないかと思っています。

「照明」に関しても、本来は「こうあるべき」というセオリーがかなりきっちりあるんですよ。でも、それを〈桑沢〉の授業では学ばなかった。むしろ、私は「サテリテ」から帰国後に自分で書籍を買って、勉強しましたからね。照明のセオリーの多さに驚いた半面、私の今回の作品はまったくそこに当てはまってなくて……。ただ、画一化されたデザインを押し付けられなかったからこそ、自分の感性を信じたデザインを「サテリテ」に持ち込めたのだと思います。

生駒 今回の「ミラノサローネ」では、〈桑沢〉の先輩にあたる現代アーティストの吉岡徳仁さんが、氷の椅子を展示していましたが、あのくらいの個性で自分を表現しないといけないなと感銘を受けましたね。

中山 どれだけ自分のデザインと向き合えるかですよね。

生駒 私は講師もしてるんで、あえて言えば、今の学生さんには、とにかく自分の個性を殺さないで、しっかり出してほしい。せっかく学校まで入って、アウトプットしなかったら意味がないですよね。やはり、自分のデザインと向き合って、作品をつくり続けている人は強いです。

「見る」と「出る」のギャップに驚いた

――〈桑沢〉の学生に向けて、「サローネサテリテ」に出展した先輩からメッセージをお願いします。

中山 今回、私は勢いで応募したら、たまたま審査に通ってしまったわけですが、そういうことが起こるんです。なので、「サローネサテリテ」を知っているかどうかで、デザイナーとして見える景色はずいぶん違ってくると思います。

生駒 私はSNSで発表した作品で起業したりしていることもあって、表現の場は多様でいいと思っています。別に「サテリテ」にこだわる必要はない。ただ、今回「ミラノサローネ」の現場を見て、インプットの質の高さを実感しましたね。毎年、お金をかけて、ミラノまで来ている先輩たちがたくさんいる意味がわかりました。

中山 付け加えると私は、ただ「見る」のと「出る」ことのギャップに驚きました。「参加すること」が想像以上に素敵すぎましたね。世界中のデザイナーが集う舞台で、いろいろな人と話す6日間を過ごせる。実力があれば、商品化への手応えを感じることもできます。日本のデザインコンペ受賞とは、また違った体験だと思います。「サテリテ」は、35歳以下なら誰でも応募できます。プロ経験などまったく関係ありません。誰にでも挑戦する権利があるフェアなコンペだと思います。

長澤 僕の場合、独立して、まずアウトプットのシステムを確立するタイミングだったんですよね。なので、「サテリテ」が確認の場になりました。そして、最優秀賞をいただいて、SUPER RATとしてのアウトプットが間違っていなかったという確信を得ることができました。もちろん、ダメならダメで考え直したのですが、その過程で多少の無理が生じるわけです。現代に合わせなきゃいけなかったり……。その意味で、バックボーンにある考察が正しかったと思えたのは大きいですね。

中山さんが「フェア」と言っていたのは、その通りだと思います。僕のような無名のデザイナーを拾い上げてくれるピュアさが「サテリテ」にはあります。これは僕の偏見もあるかもしれませんが、日本人って、作品よりも人を見て評価する側面が強いと思うんですよね。学歴だったり、所属する組織だったり……。作品だけを見て判断することができ、アカデミックな視点をしっかり持っている審査員がいる世界でも少ないデザインコンペだと思います。

世界に向けて作品を発信していきたい

――最後に皆さんの今後の目標があれば、教えてください。

生駒 今回のミラノサローネでの経験を自身のアウトプットにどう活かしていくかを考えています。ミラノに行って、各国で活躍するデザイナーがどのようにデザインを言語化し、表現してるかを見ることができました。私も視座をアップデートするために、「ミラノサローネ」はできる限り通いたいと思います。出展という意味では、次回はミラノの街で、今回発表した「tatamo!」を乗り回してみたりしても面白いかなと思っています。「ミラノサローネ」は、街を挙げてのお祭りなので。いずれにせよ、今後の弊社のデザインにも、今回得た知見を活かした新しい表現をトライしていきたいと思っています。

中山 実は、今年(2025年)6月で会社を辞めて、ニューヨークに移住する予定です。これは、妻の海外赴任もきっかけだったのですが、新天地でデザインに100%の力を注いでみたいという強い思いもあります。9月に、パリデザインウィークの新人部門にも参加できることになっています。できるところまで頑張ってみようと思います。

長澤 僕は、まず「JUHI SERIES」を続けながら、他のシリーズも作り出していきたいと思っています。交流を広げながら、日本の文化を世界に発信するような創作活動をしていきたいと思います。作品を発表する舞台としては、ヨーロッパを中心にやっていきたいですね。イタリアで、毎年作品を発表できるようなサイクルをつくりたいです。

また、クライアントワークとしては、家具を中心としてラグジュアリーブランドの仕事をしたいですね。日本で伝統工芸等の文化的なネットワークを広げながら、SUPER RATとして、国外に向けて作品を発信していきたいと思っています。

SUPER RAT長澤一樹さん
1995年、大阪府生まれ。高校卒業後、桑沢デザイン研究所昼間部スペースデザイン専攻に入学。在籍中は藤森泰司ゼミで家具デザインを学ぶ。卒業後、設計事務所スーパーポテトに入社。ホテルのインテリアなどを手がける。その後、2社を経て、独立しデザインスタジオSUPER RATを2024年に設立。「サローネサテリテ・アワード2025」に作品群「UTSUWA – JUHI SERIES」を出展し、最優秀賞を受賞。

生駒崇光さん
1989年、長野県出身。高校卒業後、桑沢デザイン研究所夜間部プロダクトデザインコースに入学。卒業後は、株式会社タカラトミーに就職し、「トランスフォーマー」の海外事業を担当。その後、株式会社CerevoでIot家電製品の開発を行い、 2016年からGROOVE X株式会社にて家族型ロボット「LOVOT」 の開発に携わる。2021年に ICOMA Inc.を創業。開発した電動バイク「タタメルバイク」は国内外で話題となり、CES Innovation Award2023を受賞。現在、桑沢デザイン研究所非常勤講師を務める。

中山大暉さん
1993年、東京都生まれ。大学卒業後、国内のメーカー企業に就職。商品企画・新規事業開発に携わる。2023年に会社員をしながら、桑沢デザイン研究所夜間部プロダクトデザイン専攻に入学。照明の課題で手がけたシリコン製のやわらかい照明「PUNINI」を「サローネサテリテ・アワード2025」に出展。現在はニューヨークに拠点を移し、プロダクトデザイナーとして活動中。

「サローネサテリテ・アワード2025」参加者座談会【前編】

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