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空間デザイナー 大坂谷一平さん

2015年度卒 夜間部スペースデザインコース

法政大学を中退後、ヨーロッパ各国を巡りながら蚤の市で古道具の仕入れを始める。西荻窪に「山田古道具」を出店するが、東日本大震災の影響で閉店。その後、アパレル企業で企画職を経て、桑沢デザイン研究所に入学。アトリエ設計事務所、店舗デザイン事務所での経験を経て独立し、2019年にカフカ株式会社を設立。

空間デザインへの情熱を貫く

――  まずはこれまでの経歴を教えてください。

学生時代からインテリアや空間デザインへの興味がありました。その興味が強すぎて大学を2年で中退して、アルバイトを掛け持ちして資金を貯め、ヨーロッパを巡ることにしたんです。フランスやベルギー、ドイツ、オランダなどを1ヶ月ほどかけて巡り、アンティーク家具や雑貨を少しずつ仕入れていました。そこから半年に一度くらい渡航して、日本に帰国したらイベントやポップアップで販売をして……。それを繰り返すなかで、店舗を持とうと思い立ち2008年に西荻窪で「山田古道具」をオープンしました。

ところが、2011年の東日本大震災で店内が大きな被害を受けてしまって……。商品が割れてしまい、再度仕入れに回ることも難しかったため閉店を決断。その後はアパレル企業で企画職に転身しました。海外から婦人服を輸入する仕事で、自分で店をやっていた頃からインボイスや書類業務に慣れていたので順応は早かったです。2年ほど働いて資金を貯め、桑沢デザイン研究所(以下〈桑沢〉)に入学しました。

――  〈桑沢〉に入学したきっかけは?

アパレルの仕事を続けるなかで、「やはり自分は空間やデザインに関わりたい」という気持ちが強くなったんです。でも当時は知識も技術も足りず、しっかり学び直す必要があると感じていました。

入学前は海外留学も考えましたが現実的ではなく、〈桑沢〉であれば本気で学ぶことができると考えました。特に実務に近い教育内容や、タフで実践的なイメージに惹かれたんです。

夜間部を選んだのは、昼間に設計事務所で働きながら学ぶためでした。体力的にはきつかったですが、学校の学びを現場で試し、仕事で得た知識を課題に活かす。その往復こそが今の仕事に直結しています。振り返ると、あの環境が自分を大きく変えてくれました。

仲間との出会いが広げた学びの世界

――  在学中に印象に残っていることは?

課題発表と講評が特に印象に残っています。仲間の前でプレゼンをして、講師の方から厳しい指摘を受けることもありました。しかし、それが実務に近く、後々役立ちました。

同じクラスには美大卒の学生や社会人経験者がいたり、年齢や経歴はバラバラ。さらに元テレビ局員がいたりと、多様な視点を持つ仲間と互いに刺激を受けながら学べたのも大きな財産です。その環境で鍛えられたプレゼン力や柔軟な思考力は、今の仕事にも活きています。

――  仕事との両立は大変ではありませんでしたか?

昼はアトリエ設計事務所で住宅設計に携わり、夜は〈桑沢〉に通っていました。時には〈桑沢〉に行った後に、事務所に戻り作業を続けることもあり大変でしたが、CADや実務を肌で学べたのは大きかったです。学校と仕事を往復する中で、短期間で一気に力をつけられた実感があります。

人と空間の関係性を大切にするデザイン

――  卒業後はどのようなキャリアを歩まれましたか?

〈桑沢〉在学中は住宅設計を経験しましたが、小規模な空間のデザインを手掛けたい気持ちが強く、店舗デザインの会社に転職しました。

ところが入社してみると任されたのは、希望していた小規模の空間ではなく、大規模商業施設の部署でした。しかも、本社のある名古屋に転勤になってしまったんです。担当したのは商業施設のデザイン監修。200店舗が入るような規模で、定例会には約200名が集まり、町をつくるような感覚でした。とても貴重な経験ではありましたが、小規模空間を手掛けたい気持ちが強く、約3年で退職しました。

東京に戻ってからは、〈桑沢〉時代のネットワークを辿ったり、知人の設計者に声をかけて仕事を手伝わせてもらいました。そのようなつながりから2019年に〈桑沢〉卒業生の仲間と「カフカ株式会社」を設立しました。

――  今まで手がけた中で、印象に残っているプロジェクトを教えてください。

高知県・仁淀川沿いに設置した、トレーラーハウスは印象深いですね。以前、住宅を手掛けたクライアントの案件で、「今度は川沿いにトレーラーハウスをつくりたい」と依頼がありました。千葉で制作したトレーラーハウスをトラックで運んで、現地で組み立てたんです。移動可能な建物という特殊性もあり、かなり挑戦的なプロジェクトでした。

▲高知県仁淀川沿いに設置した。トレーラーハウス。



また、東京都庁内のお土産ショップ「TOKYO GIFTS 62」も忘れられません。「TOKYO GIFTS 62」は東京62区市町村の特産品や工芸品を扱うギフトショップなのですが、場所柄セキュリティの制約がとても厳しく、62種類の東京産品をすべて展示することが条件だったので、それをクリアするのがとても難しい仕事でした。でも終わったときの達成感は大きかったですね。

▲東京都庁内にある東京62区市町村の特産品や工芸品を扱うギフトショップ「TOKYO GIFTS 62」。



――  空間デザインを手掛ける際に大事にしている考えを教えてください。

常に意識しているのは、人と空間の関係性です。店舗であれば、オーナーと一緒にお客様からの見え方を考えます。住宅ならそこで暮らす方の生活スタイルや好みにどう寄り添うか。ただ図面を描くだけではなく、クライアントとの丁寧な対話を通して形にしていくことを大切にしています。

――  これから取り組んでみたいことはありますか?

先祖が旅館を営んでいたことを示す絵画が実家に残っていて、宿という存在には特別な思い入れがあります。単なる宿泊施設としてではなく、時代に合わせて人や地域をつなげる文化的な場として旅館を再構築できないかと考えています。その土地で暮らす人たちも関われるような場所づくり。空間デザインを通じて、地域の価値を掘り起こすようなプロジェクトに挑戦したいです。

――  最後に〈桑沢〉を目指す方へメッセージをお願いします。

〈桑沢〉は課題も講評も甘くはありませんが、それが確実に力になります。実務的な技術以上に、現場ではアイデアや柔軟な発想が求められます。〈桑沢〉ならではの、あらゆるバックグラウンドを持つ仲間と学ぶことで、自分の視野がぐっと広がると思いますよ。


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