
昼間部ビジュアルデザイン専攻2020年度卒
デザイナー・イラストレーター 周家宇(しゅう かう)さん
1994年生まれ、東京都在住。グラフィックデザイナー、イラストレーターとして活動。台湾・台南の大学で美術を専攻し、桑沢デザイン研究所でグラフィックデザインを学ぶ。イラストとショートループアニメーションが得意。2024年にイラスト集『work on/for weekend; weekend on/for work』を自主出版。
子どもの頃から漫画やアニメが好きで、よく絵を描いていました。将来はアーティストになりたいと考えていたことが、現在の活動の原点です。台湾の大学進学後は、本屋で本の表紙を眺めるのが好きだと気づき、友人とZINEを制作したり、インディペンデント出版の講座に参加したりしました。一方で、アーティスト活動だけで生計を立てる難しさも感じており、大学卒業後に桑沢デザイン研究所(以下〈桑沢〉)でグラフィックデザインを学んだことが、デザイナーを目指したきっかけです。
デザイナーとして働く中で、イラストレーターと組んで書籍の表紙や挿絵を制作する機会があり、イラストレーターの仕事にも関心が高まりました。仕事と並行して休日にイラストの練習を続け、定期的にネットに作品を投稿したところ、2年ほどで安定してイラストの依頼をいただけるようになりました。
―― 「卒業生作品展 桑沢2026」のメインビジュアルをご担当されています。このビジュアルに込めた想いやこだわりを教えてください。担当の先生と相談しながら複数のモチーフを組み合わせ、明るくて楽しい雰囲気を演出しました。マウスポインターを持つ人物が、背後にある花や草を描き出しているイメージです。また、コンピューターは創作の道具であると同時に、世界を広げる架け橋でもあるという意味を込めています。キーボードの上に置いた木のモチーフには、デジタルの中で生まれた表現がスクリーンを越えて現実へ広がっていくイメージを重ねました。

▲「卒業生作品展 桑沢2026」ポスター
―― こちらのメインビジュアルを派生させた、ステッカーやノベルティのトートバッグもデザインいただきました。それぞれのデザインに込められた、こだわりについて教えてください。
企業や学校のノベルティは、名称やロゴが大きく強調されるデザインが多く、日常では使いづらくなることがあります。そこで「手に取りたくなる」、「日常的に使いたくなる」ことを意識し、生活の中に自然に溶け込むことを重視しました。
トートバッグは普段使いしやすい印象に仕上げました。ステッカーは役割が見えやすいように「創作に関わる文具」と「展示準備で学校スタッフが使う文具」というふたつの用途に分けています。これにより、展示者とスタッフの区別が一目でわかるデザインなりました。
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▲来場者プレゼント・数量限定トートバッグ
▲会期中、出展者や教職員が身につけるステッカー
アートとデザインの違いを理解し、柔軟に思考できるようになった
―― 日本へ留学しようと思った理由、きっかけを教えてください。大学時代に日本の本が好きになり、書店で寺山修司が主宰した劇団「天井桟敷」の写真が掲載された本を見たとき、「この本を読めるようになりたい」と強く思い、日本語の学習を始めました。その後、日本語学校のプログラムに参加するため、2013年に初めて日本を訪れました。恵方巻きをつくるなど、日本の文化を体験できたことが印象に残っています。
翻訳されていない本や思想に触れることで、今まで自分が見ていた世界はほんの一部だったと気づかされ、異なる文化の中で生活し価値観の違いを直接感じたいと思うようになりました。台南では家と学校を往復する毎日でしたが、日本では自分の知らない文化や価値観に触れ、世界の広さを実感しました。国が変われば考え方も大きく変わることを体感し、物事を柔軟に見る姿勢も身についたと思います。
―― 〈桑沢〉を知ったきっかけは?
日本のデザインを学べる専門学校を探していたとき、日本語の先生に〈桑沢〉を紹介していただいたことがきっかけです。
―― 在学中に印象に残っていることは?特に印象的だったのは、昼間部1年生の授業「基礎デザイン(スペースデザイン)」です。1枚の紙だけでランプシェードをつくる課題で、先生が紙の切り方によって光がまったく違う表情を見せることを実演してくれました。その変化がとても新鮮で、素材の扱い方で印象が変わるという感覚を初めて実感しました。造形は得意ではありませんでしたが、紙に穴を開けて三角形に凹ませ、立体をつくる方法を試すなど自分なりに工夫しました。クラスメイトの完成度の高い作品にも刺激を受けました。
―― 〈桑沢〉での学びを通して、ご自身にどんな変化がありましたか?
デザインとアートは一見似ていますが、本質的には異なるものだと実感しました。アートは自分の内面を表現するものですが、デザインは使う人や見る側に立って成立します。最初はその切り替えが難しく、自分がつくりたいものと、誰かのためにつくるものの間で迷うこともありました。しかし、授業での議論や友人との対話を通して、自分では気づけなかった思考の癖や盲点が見えるようになりました。以降、「自分の満足のためだけになっていないか」、「誰かにとって意味があるか」を自然に考えるようになりました。技術以上に、人の気持ちや文脈を踏まえて柔軟に思考できる姿勢を得られたことが大きな変化でした。
デザイナーとイラストレーター、二足のわらじで活動する
―― 卒業後はどのようなキャリアを歩まれましたか?卒業後は書籍に関わる仕事をしたいと考え、雑誌編集や書籍制作を手掛けるデザイン会社に就職しました。現在は雑誌のレイアウト、ポスター、広告制作などを担当しています。一方、イラストレーターとしては、書籍の表紙やウェブのビジュアル、アルバムジャケットなどを手掛けています。
2022年には、社内企画として世界のアーティストを紹介する書籍、『目目 MOKUMOKU ILLUSTRATION BOOK』を提案し、自ら企画とデザインを担当。自分の興味と制作環境を掛け合わせたプロジェクトが実現したことは大きな経験となりました。
『目目 MOKUMOKU ILLUSTRATION BOOK vol.1』Zhong Xian(表紙)
『目目 MOKUMOKU ILLUSTRATION BOOK vol.2』Jiyung Lee(表紙)
―― 今まで手がけた中で、印象に残っているプロジェクトを教えてください。
2025年9月にフランスで開催された、『IF Illustration Festival』では、メインビジュアルのポスター制作、ライブペイント、マスタークラスでの講義を担当しました。

▲『IF Illustration Festival』メインビジュアル
メインビジュアルのテーマは、「If I could collect trees into my own space」。東京で暮らし、身近に植物が少ない環境の中で、「もし自宅に植物園をつくれたら?」と想像したことから生まれたイメージです。リソグラフ印刷のポスターやTシャツを制作し、来場者がTシャツを着てくれているのを見たときはとても感動しました。ライブペイントでは世界中のイラストレーターの作品に触れ、その表現の幅や発想に大きな刺激を受けました。翌日のマスタークラスでは、学生たちから制作過程や仕事について多くの質問をいただき、作品だけでなく考え方まで共有できたことが貴重な経験でした。
▲2024年に自費出版したイラスト集『work on/for weekend; weekend on/for work』。
挑戦しながら、自分の可能性を更新していく
―― お仕事をする上で大切にしている考えや、こだわりがあれば教えてください。自分の考えに固執しすぎず、柔軟に対応することを大切にしています。頑固になりすぎると視野が狭まり、制作が苦しくなると感じています。異なる意見やアイデアを受け入れつつ、気持ちに余裕を持って進めるよう心がけています。
―― これから取り組んでみたいことはありますか?これまでショート動画の制作経験があるので、より長い映像と音楽を組み合わせた作品に挑戦してみたいと思っています。
また、インテリアや日用品のデザインにも関心があり、花瓶やマットのイラスト、商品のパッケージデザインなど、人々の日常に溶け込むものの表現にも挑戦したいです。やりたいことは尽きませんし、さまざまな分野に挑戦することで自分の表現の幅を広げていきたいです。
―― 最後にデザイナー・イラストレーターを目指す方へメッセージをお願いします。興味があることには、どんどん挑戦してみてください。実際にやってみることで、自分の得意、不得意や、本当に楽しいと感じることが見えてきます。失敗しても、そこから学べることはたくさんあります。 また、技術や表現力だけでなく、健康もクリエイティブな仕事には欠かせません。集中力が求められる仕事なので、体調が整っていないと良いアイデアも生まれにくいからです。自分の体を大切にしながら、創作を続けてほしいと思います。






