
自動車メーカー・カーデザイナー 近藤秀哉 さん
1993年、兵庫県出身。京都大学法学部卒業後、社会人経験を経て桑沢デザイン研究所 総合デザイン科プロダクトデザイン専攻に再進学。2021年に卒業し、現在はダイハツ工業でエクステリア・インテリアデザインを担当。デザインを手掛けた、電動モビリティ「e-SNEAKER」が2025年8月に全国発売され、2025年の大阪・関西万博では150台が導入された。
ダイハツ工業株式会社で、東南アジア向け自動車のエクステリアデザインを主に担当しています。具体的には、企画立案しアイデアスケッチを描き、クレイモデルによる立体作成を経て、最終的な意匠データを仕上げるまでの工程を担っています。
電動モビリティ「e-SNEAKER」では、企画立案から構造設計や新たなサービス提案まで担当しました。
▲開発を手がけた「e-SNEAKER」
―― 「e-SNEAKER」開発の経緯について、詳しくお聞かせください。「お客様に寄り添い暮らしを豊かにする」というダイハツの企業理念のもと、免許返納高齢者の増加や過疎化による移動手段の減少といった社会課題を解決する一つのアプローチとして、e-SNEAKERの開発がスタートしました。シニアカーと一線を画す新しいかたちの歩行領域モビリティとして、いろんな世代の人が軽快にアクティブに使える乗り物を目指して開発しました。高いアイポイントと前傾したシルエットで、若々しい印象を与える躍動感のあるデザインと自転車と変わらない目線で軽快な走行感覚を実現すべく、設計担当者と何度も議論を重ねながらかたちにしていきました。完成した「e-SNEAKER」は、大阪・関西万博でも150台が導入されました。
法学からカーデザインの道へ
―― 桑沢デザイン研究所(以下〈桑沢〉)に入学したきっかけは?大学の法学部を卒業後、金融機関で1年弱働きましたが、ハードな職場環境に体調を崩して退職しました。もともと弁護士を志して法学部を選んだものの、正直、勉強にのめり込むことができず……。退職後に時間ができて、自分が本当にやりたいことは何かを、改めて考えたとき、幼少期から好きだった車の絵を描くことに立ち返りました。その後、喜屋武タケル先生のオンライン講座「Car Design Academy」を受講し、デザインを基礎から学べる〈桑沢〉のカリキュラムに魅力を感じて入学。当初は年齢のこともあり、1〜2年で卒業できる専門学校も検討しましたが、より本格的に学べる環境として〈桑沢〉の昼間部を選びました。
―― 〈桑沢〉での授業や課題で特に印象に残っていることはありますか?デザインの基礎は立体をつくる課題などを通じて学びました。なかでも印象深かったのは、小関潤先生の基礎造形の授業です。講評の時間には、学生の作品が長机にずらりと並べられ、どの作品が面白いかを皆で議論するのです。自分のつくったものが他者の目でどう評価されるのか。話題に挙がる作品もあれば、まったく触れられないものもある。その現実に純粋な驚きを感じたのを、今でも覚えています。皆のアイデアの幅広さに触れると同時に、講評には独特の緊張感があり、そのシビアさを経験できたことは大きな糧になりました。
また、〈桑沢〉の特徴として、さまざまな年齢層やバックグラウンドを持つ学生が多かったことも刺激的でした。私が入学したときは、現役で入学した学生とは6歳ほど年齢差がありました。その違いが刺激となり、視野が広がりました。昼間部に通っていましたが、夜間部の学生とも仲良くなり、垣根を超えた交流が生まれました。目指す分野は近くても、経歴も年齢もまったく違う仲間と関われたことは、自分の視野を大きく広げてくれたと思います。授業や課題は大変でしたが、自分が本当に学びたかったのはこれだと心から思える時間でした。
お寺×車で人と人をつなぐデザインを
―― カーデザイナーとしての第一歩はどんなことでしたか?自動車メーカーのインターンは、ポートフォリオを提出し選考を経過すると参加できる仕組みになっています。インターンでは、5日ほど会社に通いながら与えられた課題に取り組み、最終日にプレゼンテーションを行い、その後採用合否の結果が通知されるという流れです。
自動車メーカーから出される課題に多かったのは「身近な人物をペルソナとして設定し、その人物を喜ばせる体験価値を与える自動車を考案する」というものでした。私が提出したのは、中学から大学まで一緒だった友人をペルソナにした企画です。彼の実家はお寺で「お寺の文化をもっと広めたい」と会社を立ち上げ、YouTubeなどで発信活動をしていました。その友人をモデルに、お寺と若者をつなぐ車を提案しました。お寺には若者の檀家離れや世代間の接点不足といった課題があります。一方で、若者も人間関係が希薄になり悩みを打ち明ける場が少ない。そこで、お寺に人を呼ぶのではなく、僧侶が若者に会いに行くという発想をかたちにしました。車の中には、縁側のように人と人がゆるくつながれる空間を設け、僧侶がそこに座って若者の悩みや話を聞くイメージです。社会的な課題をデザインの力で解決できるかもしれないと感じたときはワクワクしました。
―― デザイナーとして大切にしていることを教えてください。誤解を恐れずに言えば、「一度こだわりやプライドを手放すこと」です。特定のスタイルに固執せず、柔軟に発想することが、革新的なデザインを生み出す上で欠かせないと考えています。この考えに至ったのは、先輩デザイナーたちの多様なスケッチスタイルを見て大きな影響を受けたからです。
日々の小さな積み重ねがアイデアにつながる
―― 今後挑戦したいことはありますか?日本の生活に寄り添った軽自動車のデザインに加え、「e-SNEAKER」のようなマイクロモビリティの開発にも挑戦したいと考えています。特に、自転車と原付の中間に位置するような、新しい移動手段の可能性には常に強い関心を持っています。
―― 〈桑沢〉での学びは、今の仕事にどう活きていますか?アイデアを出し続ける姿勢や、諦めずに新しい提案を重ねる粘り強さだと思います。アイデアを生み出すためには、Pinterestでインスピレーションを得たり、美術館や家電量販店などさまざまな場所で新しい刺激を受け、教養を得ることも欠かせません。
―― 最後に〈桑沢〉を目指す方へメッセージをお願いします。カーデザイナーを目指すなら、とにかくスケッチを描くことが重要です。〈桑沢〉の同級生の中でも、誰よりも多くスケッチを描いたという自負があり、その経験が今の仕事に直結しています。「学ぶ」という言葉は「まねぶ」という言葉から来ており、つまり真似ながら、模倣しながら習得していく、という意味です。世の中にある多様なスケッチを観察し、真似ながら自分の引き出しを増やしていくことも大切にしています。単なる模写ではなく、自分なりの分析や解釈を加えながら「まねぶ」ことを意識してください。



