日本で最初の『デザイン』学校で未来を創造する【専門学校桑沢デザイン研究所】

アクセス
MENU
LINE YouTube Instagram Twitter Facebook
月刊インタビュー 月刊インタビュー

工藤強勝先生は、2023年1月23日にご逝去されました。
本校における学校運営および教育活動へのご献身に対し、感謝の意を表するとともに、謹んでご冥福を申し上げます。
本記事は、「基礎造形ガイド(2022年4月発行)」に掲載されている第11代所長工藤強勝先生のご生前のインタビューを掲載しています。

-----------真のクリエイティブは、五感から。
ツールで差別化できないデジタル時代だからこそ、 基礎造形で「一生ものの感覚」を身につける。

変化のスピードが激しい時代。利便性と効率性を追求してクリエイティブツールが進化を続ける中で、クリエイター個々の差別化はむしろ難しくなっています。世の中に価値を届けるデザインを生み出すため、現代のクリエイターに求められる素養とは。

同じツールを使うデジタル時代の差別化に必要なこと

世の中にITが浸透し始めてから、私はずっとアナログとデジタルの境目に置かれるクリエイティブの変化を見つめてきました。アナログの時代は、筆やカッターといった道具の一つひとつも、クリエイターがオリジナルのものを作って工夫していました。しかしデジタルの時代になってツールが均一化されてからは、「同じ道具を使っている中でいかに他者と差別化するか」が問われるようになっています。そこで重要になるのが基礎造形。ハードやソフトウェアに引っ張られることなく自身のクリエイティブを発揮するための拠り所となるのが基礎造形なのです。私自身も便利なツールを活用しつつ、クリエイティブに悩んだときには、基礎造形の学びを思い出します。例えば木の葉はどこにでもある素材ですが、葉脈を光に透かしてよく見てみると、一つひとつの脈から筋が伸びて複雑な模様を形作っている。そんな 自然の中にある造形を見つめてデザインに生かす発想は、基礎造形の学びの中で身についたものでした。

時として厳しい基礎造形の訓練は、そのまま現場で生かされる

「基礎造形」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか。有名なデザイナーになるための基礎訓練だと捉える人もいるようですが、それは違います。基礎と付いていますが、これは決して初歩的な学びを意味するものではありません。科学の世界には広範な分野を扱う基礎科学があり、その上で専門分野を研究する応用科学が成り立ちます。同様に基礎造形も、用途を定めずデザインを深く探求し続けるために存在しているのです。基礎造形の訓練は時として地道で厳しいものですが、その経験はそのまま現場で生かされます。そして基礎造形の素養を伸ばして第一線で活躍する人もいます。私は桑沢デザイン研究所で平面構成や立体構成などの基礎造形を学び、何十もの案を出して先生にダメ出しをされるという厳しい過程も経験しました。当時培った素養は、現場でアイデアのソースが詰まった際に基礎造形で考えるという地力につながっています。現場でともに仕事をするスタッフたちも日々頭を悩ませていますが、「一滴の墨を紙に落とし、そこからデザインを発展させてみよう」という基礎造形に由来する手法で、一気にアイデアが拓けていくこともあるのです。クリエイティブの分野で何かを成し遂げたいと思うなら、ぜひ基礎造形の厳しい鍛錬を経験してほしいですね。

五感で学び身につけた感覚は一生もの

基礎造形の訓練では「五感で得る学び」を大切にしています。例えば木片を削り磨き続けるハンドスカルプチャーという授業がありますが、素材をアレンジしたときに得られる手の皮膚感覚は、何十年経っても残るもの。「こんな学びが本当に何かの役に立つのだろうか」と思うこともあるかもしれません。地道で、アナログで、時に厳しい訓練に対して、若い人たちがそう感じるのも無理はありません。それでも私は、五感で学び身につける感覚が必ず将来の糧になると断言します。ありとあらゆるクリエイティブ領域において、現代のデザインは見えないものを視覚化したり、形のないものを形にしたりすることでソリューションを生み出すことが求められています。同時に現代はソリューションに行き着くためのルートがデジタルツールによって簡素化されている。それが必ずしも悪いわけではありませんが、ミリ単位の細かな調整までこだわり、細部に神を宿すようなクリエイティブを実現することは、ドットの谷間に埋没してしまうPCでは難しいかもしれません。「人とは違うものを生み出したい」と思うなら、自分だけが持つ一生ものの感覚を身につけるべきではないでしょうか。


工藤強勝
KUDO Tsuyokatsu


1948年、岩手県生まれ。日本電信電話公社(現NTT)勤務を経て桑沢デザイン研究所を卒業。1976年にデザイン実験室を設立し代表就任。武蔵野美術大学造形学部講師、首都大学東京システムデザイン学部教授、日本タイポグラフィ協会理事長、日本グラフィックデザイナー協会理事会監事などを歴任。「第48回講談社出版文化賞[ブックデザイン賞]」(講談社 2017)、「第45回造本装幀コンクール[ユネスコ・アジア文化センター賞](日本書籍出版協会2010)など受賞歴多数。主な著書に『編集デザインの教科書<第1版>~<第4版>』(日経BP 社 1999-2015)、『デザイン解体新書』(ボーンデジタル 2006)など。

基礎造形ガイド(2022年度4月発行)掲載
協力:株式会社スタイルメント


卒業生一覧に戻る