


デザイナー・クリエイティブディレクター 脇坂政高さん
2014年 プロダクトデザインコース 卒業
1989年生まれ。〈桑沢〉を卒業後、株式会社良品計画を経て、現在は株式会社LIXILにて住宅設備機器、先行開発関連のデザイン業務に従事。2018年にはデザインユニットwahを設立し、プロダクトデザインにとどまらず、ブランディング、空間デザイン、UI/UXなどカテゴリーを超えたデザインを国内外で発表している。桑沢デザイン研究所非常勤講師として「コミュニケーションデザイン」を担当。JIDA正会員。
本当の意味で好きになる
―― 〈桑沢〉で過ごした時間について教えてください。授業の課題だけでなく、コンペに参加したり友人とデザイン関連のビジネスに挑戦したりと、とにかくデザインに没頭していました。本当の意味でデザインを好きになれた時間でした。
―― 働きはじめた際、苦労したことはありましたか?商品として実際に販売されるため、コストや営業のしやすさなど、学生時代にはあまり考慮しなかった要素にも注意を払う必要があります。とはいえ、基本的なデザイン・プロセスは〈桑沢〉で学んだことと同じでした。リサーチからはじまり、手を動かしてスケッチし、プロトタイプをつくり、何度も試行錯誤を繰り返す。この流れが身についていたので、スムーズに働きはじめられました。
問題定義から問題解決へ

▲脇坂さんが手がけたデザインを目にしたことがある方も多いかもしれません。プロダクトデザインにとどまらず、空間やUI/UXなど領域を横断しながら、劇的な変化でなくとも使い手の日常を少しでも豊かにするデザインを追求しています。
―― CADなどデジタルツールがある中で、手を動かすことの意味を教えてください。もちろんデジタルツールを習得しておくことも大切ですが、手を動かすことの大切さは社会に出てからも変わりません。頭だけで考えたデザインは、どこかで見たものやそれまでに自分がつくったものの組み合わせになってしまうことが多いように思います。実際に手を動かしてみると、頭の中で想像していたものとは違った“ 偶然”に出会うことがあります。たとえば、手を使うことでCADでは生み出せないラインが現れることがあります。それこそがユーザーに驚きや感動を与える要素になります。
―― その他に、今にいきている〈桑沢〉での学びはありますか?デザインを捉える視野の広さです。〈桑沢〉は利便性に優れた立地ゆえ、他の学校と比べて比較的コンパクトな校舎が特徴です。そのコンパクトさは、学生同士の密なコミュニケーションを生み出しています。私はプロダクトデザイン専攻でしたが、他の専攻にも多くの友人ができ、彼らとの交流を通じてデザインに対する視野を広げることができました。また、デザインは既存の問題を解決するものだと考えられがちですが、実際には“ 何が問題なのか”を見極め、正しく定義すること自体もデザイナーの重要な役割です。問題を解決する前に、その問題を定義する段階の重要性も〈桑沢〉で学んだことです。
伝える力・聞く力

“ 伝える力”と“ 聞く力”です。働きはじめてから、デザインとは決してひとりで完結するものではなく、多くの人たちとの協業によって成り立っていることを身をもって理解できました。だからこそ、自分のつくりたいものを他者に伝える力が必要になります。また、先に触れた“問題定義”も、自分の頭の中だけで考えていては意味がありません。自分の経験には限りがあるからこそ、さまざまな人の意見に耳を傾けることが必要になります。自分がすでに知っていると思っていることでも、あえて聞いてみる。そうすることで、徐々に問題の本質が見えてきます。
―― 聞く力が特に重要だったプロジェクトについて教えてください。たとえば、LIXILで担当した『TOSTEM WindowAppliances』のプロジェクト。私自身、もともと窓のデザインを担当する部署に配属されましたが、LIXILの強みは住宅全体をデザインできることだと考えていたため、カテゴリーを超えたデザインコードの統一が必要だと感じていました。そこでまず、その考えが正しいかを確かめるためにユーザーの声を聞きました。その結果、やはり期待と実際の体験にギャップがありました。次に、なぜ統一できていないのかを把握するために、現場や管理職の声を聞きにいきます。それらを収集し分析した結果、建築関連の法律が障壁となっていることが判明しました。そこで、法律の専門家に意見を聞き、生まれたのがこのプロダクトです。デザイナーの役割はこれまで実現できなかったことを形にすることです。そのためには、まず問題を正しく見極めることが重要であり、“ 聞く力” が不可欠になります。
デザイナーへの近道
―― 〈桑沢〉を目指す方へメッセージをお願いします。とにかく、デザインを本当の意味で好きになってもらいたい。本当の意味で好きになるためには、手を動かして、たくさんつくることが一番の近道です。〈桑沢〉は課題量が多く、大変に感じるかもしれませんが、どんなことでもできるようになってからが楽しいですよね。私自身、入学したころは自分がデザイナーになれるとは思っていませんでしたが、卒業した今は〈桑沢〉の一つひとつの授業に真剣に向き合えば、誰だってデザイナーになれると思っています。
