月刊インタビュー
         

         【月刊インタビュー】 桑沢卒の素敵なあのひと
         今注目のクリエイターにお話を伺う連載。第12回目は、イラストレーターとして活躍しているあのひとです!        

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イラストレーター/芳賀あきなさん

桑沢デザイン研究所 総合デザイン科 ビジュアルデザイン専攻卒業。HB WORK vol.2 川名潤賞。仕事に、東京芸術劇場「朗読『東京』」第六回ポスターイラスト、舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」のロゴ・メインビジュアル、神楽坂のメロン専門工房「果房 メロンとロマン」の店内アニメーションと1周年記念キャンペーン用イラスト、他に書籍装画・挿画等。

―― 桑沢2022 卒業生作品展のメインビジュアルを担当されています。コンセプトを教えてください。

「新しい場所に移っていく爽やかさ」をストレートに表現しました。インパクトを強くしたかったので、形や色味で奥行きやメリハリの面白さを感じてもらえるように描いています。ありがたいことに私のイラストの有機的な線を気に入ってくださる方が多いので、意識して表現している部分でもあります。

デザイン担当の六月さんは、桑沢の同級生でもあり、一緒に仕事をしたこともあります。お互いにどういうテイストを持っているのか知っていたので、ある程度はお互いに任せて進める形で、いくつかアイデアを提案しました。

桑沢2022卒業生作品展 ポスター・DM
AD・D:六月



使用している紙については、「ポスターとDMでイラストのモチーフがそれぞれ違うから、紙を変えて面白さを出せたらいいよね。こういうイラストだから、色んな空間に透かしてみたら面白いかも」と話していました。六月さんは本のデザインをされているだけあって資材に詳しく、紙について印刷所の方と相談してくれました。大胆にプラスチックを使うなど、決定するまでには皆さんのアイデアがあって完成形まで辿り着けました。郵便物の中に異物が入っているような強さがあり、面白いのではないかなと思います。学生の頃は卒業校でこのような仕事をさせていただくとは想像もしていなかったので、面白いですね。

―― デザインを勉強するきっかけを教えてください。

小さい頃からアニメや漫画、本が好きだったので、なんとなく関連する仕事がしたいと思っていました。高校の美術部の先生が美大で油絵を専攻されていて、その先生の影響を受けて、デッサンや油絵を描いている子が多くいました。先生から進路について聞かれた時に、「本が好きだから文学部に行って出版社へ就職しようか考えている」と話したら、「じゃあブックデザイナーを目指したら」と言われて。美術やデザインとひとくちに言っても領域は様々で、一概には言えないということもよく知らず、美術の世界は食べていくのは厳しいとか漠然としたイメージしかなかったし、当時は一人で作品を完成させるほどの力がなかったので、難しいのではと思いました。ただ「デザインだったら会社に所属もできるし、食べていけるよ」と言われて、「そういうものか」と。それから進路として検討し始め、先生の縁で地元の小さな美術予備校に通い始めました。志望校は家庭の事情で国公立を目指すことになり、藝大のデザイン科に決めました。

しかし、結果としては二浪して不合格。二浪目の半年はアルバイトをして、残りの半年で予備校へ通ったりもしました。もう体力的にも精神的にも限界で、別の選択肢が必要だと感じ、高校の美術部の先生や、予備校の講師たちの口からよく名前が挙げられていた桑沢を受験しようと決めました。地方にある公立の美大も選択肢としてはありましたが、交通面と学費面を考慮し、桑沢を選びました。また、卒業生で活躍されている方がたくさんいるのも決め手になりました。

―― 浪人生活を経てから桑沢に入学されて、どう感じましたか。

描いてきたなりにデッサンはできるけど、勉強していないことはやっぱりできないんだなと感じました。受験対策の中である程度はトレーニングを積んでいたので、ハンドスカルプチャーなどの確認しながら作業を進めていく地道な課題は投げ出さずに最後までやり切れました。ただ物事にすぐ正解があると思い込むタイプだったので、そういう意味ではうまく正解を出せなかったようだぞと。今なら、過程を振り返ることが重要なんだぞ、と思えるのですが。

現役で入った子の方が「私のより素敵じゃん!」と思える作品を作ったりして傲慢にも「悔しいなあ」と感じたりしていましたし、ずっと目指してきた環境ではないけれど、ここでちゃんと学ぶべき内容があるんだろうなと感じました。

木を触ったり削ったりするのは中々無い経験なので面白かったですし、逆に紙で立方体を作る二等分割に関しては、予備校ですでに紙立体を学んでいたので、紙は扱えるんだなと確認しながら取り組んでいました。自分が何でもできる人間ではないという当たり前のことが分かり始めた時期だったかな。まずは適性を確認しながら、何をしていきたいのか考える必要があるのではないかなと考えていましたね。

―― ビジュアルデザイン専攻に進まれてから、印象的だった課題はありますか。

製本と写真集の課題です。本に愛着があったので、とても粘着質にやりました(笑)。製本は文字組や挿絵も含めて本作りができる課題だったので、テンションが上がりましたね。題材は誰もが知っている不思議の国のアリスだったので、すでにアニメ映画化されている作品のイメージが強く、近いイメージのものを作ると、どうしても見た人の頭の中で比べられてしまうだろうなと考え、あえて墨を使った筆描きでモノトーンな雰囲気に仕上げました。当時は積極的に色を使わなかったのと、鉛筆で描いて印刷すると機材環境によってあまり良いニュアンスが出なかったという理由もあります。自分で印刷して切って製本したので、面白がって取り組めました。

授業作品 不思議の国のアリス

写真集は、好きな題材を撮って冊子にしてまとめる課題でした。撮る技術は全然ありませんでしたが、好きなテイストに寄せたり、予定調和から少しズレたものだと感じる被写体を探したりしながら、落ちている紙屑やひび割れたコンクリート、枯れた花、空いてしまったテナントの写真を撮っていました。結構よく出来たと自負しています(笑)。印刷の処理で悩んだ時は、図書室に行って参考書を探しました。そこで袋綴じ製本という処理方法を見つけて、理想通りの本を作れるように取り組みました。自分が作っている作品の隣に好きな写真集や本を置いて、比べながら試行錯誤しましたね。

授業作品 写真集

―― ご自身の卒業制作はいかがでしたか。

「社会的な問題や欲求を解決するためにデザインがある」という一つの指針を桑沢で得たけれど、自分自身が何を求めているのか分からなくて、何か作れば身の回りの環境が良くなるという感覚が持てない時期でした。デザインへの自分自身の指針が見つからない中で、何を作ればやりきれるのかと悩んでいた時、シシヤマザキさんや久野遥子さん、井上涼さんといった個人単位でアニメを制作されている方々を見て、「一人でアニメって作れるんだ」と発見があったんです。人って動いているものには一瞬でも視線を奪われるじゃないですか。なので、とりあえず描いて動かして作品にしてみようかなと。

卒業制作 アニメーション 

ディズニーやジブリの作品が好きなのですが、なぜなのかを考えると動きの面白さだと思い、まずは線の動きに注力しようと決めました。「デザインがわかりません」という裏テーマでアニメを作るんだから、人工的にデザインされたものではない生き物をモチーフにして、次々に姿が変化していく様子を延々と線で動そうと決めました。情報量や作業量の可能な範囲で、色をつけずに線だけで900枚くらい描いています。漫画やアニメの中で、抽象化されたモチーフや動きに魅力を感じていることに影響されているかもしれません。

―― 就活はいかがでしたか?

今は個人事務所を立ち上げる方も増えましたが、当時のスターデザイナーは大手広告会社に所属されている方が多かったので、まずはいくつかの広告会社にインターンや採用試験で行きました。素晴らしい仕事を手掛ける会社ばかりで経験できて良かったのですが、紆余曲折した末、本作りを学ぶためにエディトリアルデザインの会社に入社しました。

入社した会社の社長も桑沢卒で、それこそ版下時代にたくさん雑誌やロゴを手掛けた方です。入社してすぐに本を一冊任せられたりと大変な時もありましたが、先輩方に教えてもらいながら乗り切ったりしました。結構スパルタで教わりましたね。

―― イラストレーターの活動はどのように始められましたか?

会社で4年ほど働いてみて、他の働き方を経験したいと思い始めました。個人で活動するなら何をしたいのか考え、働いている間も細々と描いていたイラストでやってみようかなと決めました。「仕事を辞めます」と宣言した頃にちょうどフェスティバル/トーキョーの仕事で声をかけていただいて、色々なタイミングが重なった幸運でここまで来てしまった感じです(笑)。

フェスティバル/トーキョーの依頼は、私の卒制を見て会場で声をかけてくださった方が、髙田唯さん率いるAllright Graphicsに所属していた齋藤拓実さんで、私の作品を提案してくれたと聞きました。卒制のテイストを面白がっていただけたようです。卒制で描いた作品がまさか仕事につながるなんて、と驚いています。

フェスティバル/トーキョー19 メインビジュアル
https://youtu.be/MG8v6L5RmL4
フェスティバル/トーキョー
AD:髙田唯(Allright Graphics)
D:齋藤拓実
DC:髙田舞



日本初のメロン専門店「果房 メロンとロマン」の仕事も、実は同級生とやりました。同じ予備校に通っていて、桑沢で再会した方から声をかけていただきました。桑沢で色々な繋がりを持てて、とても良かったです。同窓生の活躍は刺激も受けますね。

果房 メロンとロマン 1周年ポスター
果房 メロンとロマン
AD・D:KARAPPO Inc.



イラストレーターの仕事では、クライアントの要望に答える形で描く面白さを感じます。全体のディレクションの中でのイラストをどういう意図で使いたいかは仕事ごとに異なるので、ご要望を聞きながら完成形に近づけていくイメージです。

―― 精力的に自主制作もされていますね。

「私の中で特別な世界観があるわけではない、でも何かを描きたいんだな。何を描きたいんだろう」というのをずっと考えていて。そんな中、自分が息苦しくなく、気分良くいられる空間やモノ、シーンを描きたいなとずっと思っていました。私が今何を描きたいのかをずっと探ってきている感じです。

なので、特別な物は描かないけれど、そのモチーフをどう描くか、それぞれの関係性をどう描くか、を意識して描くようにしています。加えて、それを自分のイラストとして差別化する時に、私は線をきれいに描くことに楽しさを感じていたので、その辺りが見せられたらいいなと。

また、イラストレーターを長く続けていくには技術を磨いていかなければいけないし、やっぱり人の視界に入る必要があるので、線だけではなく色面も絵の中で上手く使っていけるよう、今積極的に描いています。一色で描いてきた自分の絵にどう色を取り入れていこうか悩む時期もありましたが、後々苦しまないように今やろうと思って、色と仲良くなろうと決めた1年でした。勉強した部分を自主制作で取り組んでいます。

最近の自主制作物

配色の機能やその研究の歴史に関するテキストを読んでいたところ、身体機能として色の持つ機能はあるけれど、最終的に配色から得る印象は人によって違うと書いてあり、「そっか、人によって違うのかー」と思って(笑)。それなら自分なりの色の世界を探っていけばいいんだなと感じ始めて、色を使って描くのが楽しくなり始めた段階です。色を使ってもっと遊べるようになりたいですね。

―― イラストレーターを希望する学生にとって、桑沢で学ぶ良さはどこにありますか?

たくさんあると思います。私の場合、イラストは視覚伝達としての1つの技術なので、その基礎の基礎を桑沢で学べるのがプラスになりました。デザインの技術の延長線上で描いているので、すごく役立っています。言葉ではなくビジュアルでコミュニケーションを取るためには、基礎的な色の使い方だとか、何を見て人がどう感じるのかといった文脈も勉強する必要があります。何を求めて桑沢に入るのか、本人の目的意識による部分も大きいのではないでしょうか。

―― 最後に、今後はどんなイラストレーターが社会で求められますか?

私も求められていることを知りたいですが(笑)、どんなイラストを描くにしても、過去に描かれた作品の歴史やその流れをちゃんと自覚しなければいけないなと感じています。例えば、ある性別の人物を描くときに、どういうイメージが「一般的」として求められがちなのか、とか。私自身、いくつかのコンプレックスを感じながら生きてきたけれど、そういうのっておかしいよね、と今になって考えられるようになってきました。コンプレックスを抱えるようになった理由と向き合い、その上で選んだものを描きたいというのが今のテーマです。イラストも含め、見られて消費されるものに対して自問自答しながら描いていきたいです。

そうやって考えられるようになったのは、桑沢のデザイン学の助手として働いているのも大きく影響しています。学生時代は座学を怠りがちでしたが、学校で教えてくれるのは色々な情報の触りというか、入り口なんですね。なので、面白そうだと思ったら、流してしまわずに深く掘ってみると、何がやりたいのかわかるのではないでしょうか。


インタビュアー:はやしわかな
桑沢デザイン研究所 総合デザイン科 プロダクトデザイン専攻卒業。

<インタビュー 2021年12月>

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