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浅葉克己 桑沢生の、目。 桑沢生の、目。

2025.11.18クロストークイベント第2回目『シブヤフォントを語る ローカルと共創デザインの可能性』

桑沢デザイン研究所では、デザインイベント「DESIGNART」期間にあわせ、全3回の公開講座を開催しました。その第2回目として、「シブヤフォントを語る ローカルと共創デザインの可能性」をテーマにした講演会を開催しました。

登壇者は、一般社団法人渋谷フォント共同代表の磯村歩先生と、クリエイティブディレクターのライラ・カセム先生(オンライン登壇)。ファシリテーターはプロダクトデザイン分野教員の本田圭吾先生が務められました。ライラ先生は自由選択科目「ソーシャルデザインプロジェクト」、磯村先生は「発想ワークショップ」を担当されています。

シブヤフォントは、渋谷でくらし・はたらく障がいのある方と、桑沢デザイン研究所の学生が協働して生み出した文字や絵柄・イラストをフォントやパターンとして公開しているパブリックデータです。2016年からスタートし、現在は600種類以上のデータが誕生、100社以上の企業に採用されるなど、大きな広がりを見せています。
現在は、自由選択科目「ソーシャルデザインプロジェクト」(担当:ライラ・カセム先生)として開講され、多くの学生・関係者にとって特別な学びと出会いの場となっています。

シブヤフォントの授業は、単にフォントをつくることが目的ではありません。
授業ではまず学生は福祉施設に通い、利用者さんと一緒に過ごす時間を重ねながら、お互いを知るところから始まります。
対話をしたり、表情やしぐさを観察したりする中で、聞き取る力、観察する力、分析する力を養っていきます。
デザインは一人で完結するものではなく、多くの人との協力によって成り立つことを、学生は現場で体験的に学びます。

またシブヤフォントの特徴は、フォントやパターンを企業が色や形を変えながら自由に編集できることです。企業が手を加えたデザインが「こう受け取りました」という返信のように福祉施設へ戻ることで、新しい刺激や自信が生まれるそうです。
「作って終わり」ではなくて、作品を通して自然な対話が生まれることが、このプロジェクトの魅力です。

近年ではシブヤフォントの取り組みは全国にも広がり、「ご当地フォント」として64の福祉施設が参加するプロジェクトへと発展しています。
ただ、決められたマニュアルを渡して展開するフランチャイズ型ではありません。
シブヤフォントで大切にしている “人と人との関係づくり” を各地でも実践できるよう、1年間のオンラインレクチャーを通じて理念を共有しながら進めています。関わるメンバーや地域の状況に合わせて方法を変えられるようにし、活動が長く続く体制づくりにも力を入れている点が特徴です。
完成したデータの売上をシェアする仕組みも導入されており、地域が自立的に活動を続けていけるようサポートしています。

講演の終盤では、3人の先生からコメントをいただきました。

本田先生は、環境だけでなく「人としてどうあるべきか」が問われる時代において、相手と向き合いながら関係をつくり進めていくデザインの重要性がこれからさらに高まっていくだろうと述べ、シブヤフォントが持つ社会的意義をあらためて示されました。

磯村先生は、シブヤフォントはプロダクトやグラフィックなど既存の専門領域に収まらない、新しいデザインの流れをつくっており、専攻の垣根を越えて人と関わりながら制作する経験そのものが価値になっていると語られました。

ライラ先生からは、シブヤフォントの取り組みは「答えを見つける場所ではなく」ではなく、良い問いに出会える場であると話され、人と関わる中で生まれる気づきがデザインの視野を広げていくことを感じさせるメッセージを送っていただきました。