2027年度、夜間部に新しく『エクスペリエンスデザイン専攻』が開設

Kuwasawa Design School Experience Design

XD

DIALOGUE越境するデザイン

SESSION 04

  • Yoshiyuki Miyamae宮前義之
  • Satoshi Yoshiizumi吉泉 聡
DIALOGUE越境するデザイン

デザイナーの役割は、時代の変化とともに更新され続けてきました。近年では、情報、プロダクト、空間、映像といった領域を越えながら、その役割はさらに広がりを見せています。

本企画では、デザインの最前線で既存の枠組みにとらわれず活動するデザイナーやジャーナリストを迎え、対話を重ねていきます。それぞれの実践や視点を手がかりに、これからのデザイナーに求められる姿勢やあり方を探っていきます。

第4回では、A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(以下、A-POC ABLE)を率いる宮前義之さんと、TAKT PROJECTを主宰する吉泉聡さんを迎えました。それぞれ異なる領域を起点に活動する二人は、なぜ領域を横断し続けるのか。デザイナーに求められる役割から、これからのデザイン、そしてデザイン教育のあり方まで語り合います。

関係性のデザイン

SESSION 01では、デザインジャーナリスト・川上典李子さんが「デザインは『消費されるもの』から、『行為や場、つながり』をつくるものへと広がっている」と話されていました。まずは、お二人が現場で感じている、デザイナーの役割についてお聞かせください。

吉泉聡(以下、吉泉)|時代によってデザイナーに求められる役割は変わりますが、一つ変わらないのは、人の暮らしをより豊かにするためにデザインがあるということだと思います。

宮前義之(以下、宮前)|そうですね。ただ、その「豊かさ」の定義が時代によって変わってきたように思います。例えば、戦後のように物資が不足していた時代は、「物があること」が豊かさに直結していました。一方で物が飽和する現代において、新しい形や機能を生み出すだけではなく、その先にある価値が求められているように感じます。

吉泉|以前は「やりたいことはあるけれど、それを実現する環境や物がない」時代でした。一方、今は「環境や物はあるけれど、自分が何をしたいのか分からない」時代になっているように感じます。

なぜ、そのような時代になったのでしょうか。

吉泉|一つには、作り手と受け手が明確に分かれすぎてしまったことがあるのではないでしょうか。「与える」側としてのデザインと、「受け取る」側としてのユーザー。その関係が固定されることで、受け取るだけで生活が完結し、自分で考えたり、分からないことと向き合ったりする時間が失われつつあるように感じます。

宮前|まさにそのことを、三宅一生は「作り手半分、受け手半分」という言葉で表現していました。使い手が想像力を持って関わることで、初めて人と物との関係性が完成するという考え方です。
1998年に始まったA-POCも、その思想を形にしたプロジェクトでした。完成品としての服を渡すのではなく、使い手自身がハサミを入れて服を完成させる。そこには、作り手と受け手がともにデザインを成立させる、一方通行ではない関係性がありました。

吉泉|完成した「答え」を渡すのではなく、使い手が関われる余白を残す。

宮前|ただ余白があればいいわけではありません。受け手の想像力を引き出し、作り手と使い手をつなぐ余白であることが大切です。関係性をどうデザインするか。そこに、これからのデザインの可能性があるのではないでしょうか。

吉泉|余白があるからこそ、人と人、人と物とのあいだに関係性が生まれてくる。そう考えると、これからのデザイナーの役割は、「物」を形づくること以上に、そうした関係性をデザインすることへ広がっているのかもしれません。

宮前|私もそう思います。その関係性を生み出すためには、異なる立場や領域をつないでいくことが欠かせません。それは受け手と作り手の関係だけではなく、ものづくりのプロセスそのものにも言えることなんです。

吉泉|つまり、一つの専門性だけで完結するものづくりではなくなる、ということですね。異なる知識や技術が交わることで、初めて新しい価値が生まれてくる。

宮前|そうなんです。例えば、A-POC ABLEでは素材づくりから衣服までを一つの流れとして考えています。そのためには、パタンナーであっても糸や加工技術への理解が欠かせませんし、素材を開発する側も衣服になるところまで想像する必要があります。

素材がどのようにつくられたのかを知らないまま扱っていては、どうしても形や色の提案にとどまってしまう。そこから大きなイノベーションは生まれにくいと感じています。

吉泉|だからこそ、完成したプロダクトだけでなく、プロセス自体がデザインの対象になっていくわけですね。

宮前|まさにそうですね。ものづくりの源流まで立ち返り、技術や仕組みを理解しながら、プロセスそのものをつくり直していく。プロセスが変われば、そこから生まれるものも自ずと新しくなっていくはずです。

遠回りして、つくる

おふたりはこれまでにさまざまな企業やブランドと協業されています。協業には、どのような意義があると考えていますか。

宮前|自分一人で考えていると、発想はどうしても自分の経験や知識の範囲に収まってしまいます。だからこそ、異なる分野の人と出会い、対話することが大切。そうした出会いから、自分では思いもよらなかったものづくりが生まれることがよくあります。

吉泉|僕も、協業の本質はそこにあると思います。異なる分野の人や企業は、それぞれ固有の課題や「問い」を持っています。その問いに触れることで、自分一人では見えなかった景色が見えてくるんです。
例えば、展覧会「関係のレッスン:Dialogue with Trees #100」も、デジタルエンジニアリングを軸にものづくりを支援する企業から、「自社の技術を生かして環境に向き合うものづくりができないか」という相談を受けたことが出発点でした。協業は、新しいものをつくるためというより、自分自身の思考や視点を更新していくプロセスなのだと感じています。

「関係のレッスン:Dialogue with Trees #100」(2025)
TAKT PROJECTとSOLIZE Holdings株式会社による共同研究の成果を発表した展覧会。デジタル技術を素材を支配するための道具ではなく、素材の個性や環境との関係性を読み解くための手段として再解釈し、森で採集した枝をもとに制作した100点の習作を通じて、人・素材・自然の新たな関係を提案した。
(PHOTO: Masaki Ogawa)

宮前|何十年もものづくりをしていますが、知らないことばかりなんです。車の仕組みや電気のことなど、一見すると衣服とは無関係に思えることでも、知れば知るほど全部つながっている。そのつながりが、新しい素材や服づくりのヒントになることがよくあります。

協業を進めるうえで、大切にしていることはありますか。

宮前|最初にゴールを決めすぎないことですね。僕はスケッチも描きません。最初に形を決めてしまうと、そのイメージから離れられなくなってしまうからです。「こういうものをつくりましょう」ではなく、「そもそも衣服とは何だろう」といった抽象的な問いから始める。そうすると、自分たちの想像を超えるものに出会えることがあるんです。
昨年発表した「TYPE-XIII Atelier Oï project」も、最初の一年間は何も決めませんでした。お互いのアトリエを行き来しながら対話を重ね、その積み重ねの先に、数年かけてようやくプロダクトが生まれました。

「TYPE-XIII Atelier Oï project」(2025)
A-POC ABLE ISSEY MIYAKEとatelier oïによる共同プロジェクト。「一枚の布」と「一本のワイヤー」を融合した照明器具を通して、布の可能性を衣服から空間へと拡張し、素材・光・デザインの新たな関係性を探求した。
© ISSEY MIYAKE INC.

吉泉|「関係のレッスン」も同じでした。最初から展示の形が決まっていたわけではなく、まずはみんなで山へ行って枝を拾うところから始めたんです。

宮前|そうそう。最短距離で答えを出そうとしないことが大切です。効率だけを求めると、商業的な協業で終わってしまう。一緒に手を動かし、一緒に時間を過ごすことで、お互いの考え方そのものが少しずつ変わっていく。その変化こそが、一番大事なんです。

吉泉|「生み出す」というより、「生まれてきた」という感覚に近いんです。人や領域をつなぐことはスタートにすぎません。関係性のなかで、お互いの考えや価値観が引き出され、新しい可能性が自然と立ち上がってくる。その土壌をつくることも、これからのデザイナーに求められる役割なのではないでしょうか。

宮前|恋愛と一緒ですよね(笑)。本当の意味で協業するには、自分の考えを一方的に伝えるだけではうまくいきません。相手の言葉に耳を傾け、お互いに刺激を受けながら関係を育てていく。その関係を楽しめる人とだからこそ、想像を超えるものづくりができるんだと思います。

二拠点デザイン

これからの時代、どのような人と一緒にものづくりをしたいと思いますか。

宮前|やっぱり好奇心のある人ですね。どれだけ技術や知識があっても、好奇心がなければそこで止まってしまう。知らないことを面白がれる人と、一緒にものづくりがしたいです。

吉泉|僕もそう思います。

好奇心は、どうすれば育つのでしょうか。

吉泉|「違和感」が入り口になると思っています。違和感というのは、自分が当たり前だと思っていることと、目の前の現実との「差分」です。その差分に気づくと、「なぜだろう」という問いが生まれる。その問いを追いかけていく姿勢が、好奇心なんじゃないでしょうか。

宮前|違和感って、日常の中にいるだけではなかなか生まれないんですよね。

吉泉|僕は2021年から東北でリサーチを続けています。都市だけで暮らすのではなく、もう一つの環境を持つことで、自分の中に、もう一つの基準が生まれる。二つの基準を行き来すると、それまで当たり前だと思っていたことに違和感を持てるようになるんです。

TOHOKU Research(2021–)
TAKT PROJECTによる自主研究プロジェクト。東北各地でのフィールドワークを通じて、厳しい自然環境や土地固有の文化に触れながら、人間が本来持っていた自然への感受性や知覚を再発見し、これからのデザインのあり方を探究している。都市化の過程で見落とされてきた価値を手がかりに、人・自然・環境の新たな関係性を考察するリサーチプロジェクト。(PHOTO1-3: Shotaro Tsujii /PHOTO 4: Kohei Shikama)

宮前|私も以前、三宅一生が率いるチームで「縄文」をテーマにリサーチしたことがありました。「もし自分たちが縄文人だったら、どのように発想し、何をつくるだろう」と考えるプロジェクトです。
ミシンもスマートフォンもない世界をあえて設定して、公園でどんぐりを拾い、「これをどう持ち歩こう」と考える。すると、「ポケットって本当に必要なんだろうか」「そもそも服って何だろう」と、それまで疑うことのなかった前提に違和感を持てるようになりました。

吉泉|私たちの東北リサーチも宮前さん達の縄文リサーチも、本質的には同じことをやっているんですよね。一度、自分の当たり前から距離を置いて、もう一つの基準を持つこと。一つの基準だけでは見えなかったものが、もう一つの基準を持つことで見えてきます。

宮前|場所でもいいし、人でもいい。自分の当たり前を少しずらしてみる。そこで生まれる違和感こそが、デザインの始まりになります。

吉泉|その意味では、〈桑沢〉が新しく始めるエクスペリエンスデザイン専攻も、とても面白い試みだと思っています。一つの専門を深めるだけではなく、異なる二つの領域を同時に学びながら、自分の中に複数の基準を育てていく。

宮前|それに桑沢には、高校を卒業したばかりの人もいれば、社会人を経験して学び直す人もいる。年齢も経験も違う人たちが同じ場所で学ぶこと自体が、大きな刺激になりますよね。

吉泉|そういう環境に身を置くことで、「良い」という基準そのものが変わってくるんですよね。「良いデザイン」と言っても、それは誰にとっての良さなのか。その問いに向き合い続けることが、デザインには欠かせないのではないでしょうか。

宮前|ものづくりって、すぐに答えが出るものじゃないんです。だからこそ、いろいろな人に出会い、いろいろな世界を知り、自分の中に異なる基準を増やしていく。その積み重ねが、デザイナーとしての土台になっていくはずです。

Profile

  • 宮前義之Yoshiyuki Miyamae

    1976年東京生まれ。2001年三宅デザイン事務所に入社し、三宅一生が率いたA-POCの企画チームに参加。その後ISSEY MIYAKEの企画チームに加わり、2011年から2019年までISSEY MIYAKEのデザイナーを務めた。2021年にスタートしたブランドA-POC ABLE ISSEY MIYAKEでは、エンジニアリングチームを率いて、A-POCの更なる研究開発に取り組む。2024年、専攻デザイン科ビジュアルデザイン専攻『制作の現場』オープンレクチャーにてゲスト講師を担当。

  • 吉泉 聡Satoshi Yoshiizumi

    東北大学を卒業後、桑沢デザイン研究所に進学。中退後、デザインオフィスnendo、ヤマハ株式会社を経て、2013年にTAKT PROJECT株式会社を共同設立。感性と論理をつなぐことに深い興味があり、ロジカルな思考だけでは到達できない仮説を構想する「新しい知性」としてのデザインを志向し、実践している。

取材・文/柴田准希 (kontakt)
写真/大町晃平

© 2026 KUWASAWA DESIGN SCHOOL

OTHER SESSION

  • SESSION 04

    • 宮前義之Yoshiyuki Miyamae

      A-POC ABLE ISSEY MIYAKE/デザイナー

    • 吉泉 聡Satoshi Yoshiizumi

      TAKT PROJECT/主宰

    第4回では、A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(以下、A-POC ABLE)を率いる宮前義之さんと、TAKT PROJECTを主宰する吉泉聡さんを迎えました。それぞれ異なる領域を起点に活動する二人は、なぜ領域を横断し続けるのか。デザイナーに求められる役割から、これからのデザイン、そしてデザイン教育のあり方まで語り合います。

  • SESSION 03

    • 狩野佑真Yuma Kano

      株式会社NOU代表
      クリエイティブディレクター/デザイナー

    • 髙平洋平Yohei Takahira

      桑沢デザイン研究所 専任教育職員

    第3回では、株式会社NOU代表で、クリエイティブディレクター/デザイナーの狩野佑真さんをゲストに迎え、スペースデザイン分野専任教育職員の髙平洋平先生とエクスペリエンスデザイン(XD)専攻「ライフスペース」領域の学び、そして、空間デザインから広がる表現の可能性について、語り合っていただきました。

  • SESSION 02

    • 生駒崇光Takamitsu Ikoma

      桑沢デザイン研究所 非常勤講師

    • 本田圭吾Keigo Honda

      桑沢デザイン研究所 専任教員

    第2回では、電動バイクやロボットのデザインを手がけるICOMA Inc.代表の生駒崇光さんをゲストに迎え、「プロダクトデザイン」の未来を探ります。エコ/サステナブルデザインを専門とする本校教員の本田圭吾を対談パートナーとして、エクスペリエンスデザイン(XD)専攻「ライフプロダクト」領域の学び、そしてAI時代におけるプロダクトデザインの価値について、語り合っていただきました。

  • SESSION 01

    • 佐藤竜平Ryuhei Sato

      桑沢デザイン研究所 第12代所長

    • 川上典李子Noriko Kawakami

      ジャーナリスト、
      21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター

    第1回は、国内外のデザインに精通し、展覧会のキュレーションやプロジェクトディレクションなど多方面で活躍するジャーナリスト・川上典李子さんを迎え、所長・佐藤竜平との対話を通じて、デザインの歴史をひもときながら、これからのデザイン教育のあり方やデザイナーの役割について語っていただきました。

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