2027年度、夜間部に新しく『エクスペリエンスデザイン専攻』が開設

Kuwasawa Design School Experience Design

XD

DIALOGUE越境するデザイン

SESSION 02

  • Takamitsu Ikoma生駒崇光
  • Keigo Honda本田圭吾
DIALOGUE越境するデザイン

デザイナーの役割は、時代の変化とともに更新され続けてきました。近年では、情報、プロダクト、空間、映像といった領域を越えながら、その役割はさらに広がりを見せています。
本企画では、デザインの最前線で既存の枠組みにとらわれず活動するデザイナーを迎え、本校教員との対話を重ねていきます。それぞれの実践や視点を手がかりに、これからのデザイナーに求められる姿勢やあり方を探っていきます。
SESSION 02では、電動バイクやロボットのデザインを手がけるICOMA Inc.代表の生駒崇光さんをゲストに迎え、「プロダクトデザイン」の未来を探ります。エコ/サステナブルデザインを専門とする本校教員の本田圭吾を対談パートナーとして、エクスペリエンスデザイン(XD)専攻「ライフプロダクト」領域の学び、そしてAI時代におけるプロダクトデザインの価値について、語り合っていただきました。

「モノ」から「コト」へ

2027年に夜間部に新設されるエクスペリエンスデザイン専攻(以下、XD専攻)に、おふたりはどのような期待を寄せていますか。

本田圭吾(以下、本田)|いま、私たちの価値観は大きく動いています。生活に必要なモノはほぼ行き渡り、飽和している。多くの人の関心が、モノの価値からコトの価値へと移ってきました。だからこそ、名詞的なDesignから動詞的なDesignへ——「モノをつくる」から「コトをつくる」へと視点を移す必要があります。まさに、体験(コト)をデザインするXD専攻は、時代のニーズに応える学びの場だと思っています。

生駒崇光(以下、生駒)|私の実感とも重なります。いまロボットの分野では「フィジカルAI」という言葉が注目されています。現実世界を認識し、身体を伴って自律的に動けるAIやロボットを指すのですが、正直、デザイナーもエンジニアも含めて、誰もまだそれを製品化するための正解を持っていない。だからこそ、特定のモノに閉じず、体験全体を包括的に見るXD専攻のような視点が、私がいるプロダクトデザインの領域ではますます重要になります。XD専攻の設立を私自身とても楽しみにしています。

本田|生成AIの普及によって、「誰もがデザイナーになれる」と言われるようになりました。いわゆる「デザインの民主化」です。ただ、それは手法やツールという“手段”が民主化しただけ。本当の「デザインの民主化」は、誰もが“効果”を生み出せるようになることを意味します。XD専攻が、その入り口になればと思っています。

生駒|私自身も、プロダクトを考えるときに「それを持つことで生活にどんな変化が生まれるのか」をかなり意識しています。単に形が新しい、機能があるというだけではなく、そのプロダクトがあることで人の行動や感情が変わるかどうか。そこが重要だと思います。

おふたりのご専門とこれまでのお仕事について教えてください。

本田|私はもともと、アウトドアブランドでレジャー用品のプロダクトデザインをしていました。自然の中で遊び、体験するなかで、環境へのアプローチにも関心を持つようになりました。現在は、桑沢デザイン研究所でプロダクトデザイン分野の講師をしながら、ライフワークとして、エコデザイン/サステナブルデザインを軸にした活動も模索しています。

生駒|私は、特定のプロダクトというより「ロボット」という漠然とした概念に惹かれてこの世界に入りました。私は〈桑沢〉の夜間部出身で、ここでデザインの基礎を学んだ後、玩具メーカーのタカラトミーで、『トランスフォーマー』の海外事業の商品開発に携わりました。そこで印象的だったのは、創業者の方から「我々がつくっているのはおもちゃではなく世界観だ」と言われたことです。子どもたちは単にフィギュアを手に取っているのではなく、物語の世界観に参加している。その感覚は、いまでも自分の中に強く残っています。
その後、IoT家電や家族型ロボットの開発を経て、いまは自分の会社ICOMA Inc.でモビリティをつくり、次はロボットへ向かっています。代表作のひとつが、折りたためる電動バイク『タタメルバイク』です。実は、かなり衝動的に始めたプロダクトで(笑)、「こんなのあったらいい」とSNSに模型をUPしたら話題になり、投資家がつき、車両設計のプロの方が声をかけてくれて開発が進んでいく——。そんなクリエイティブなプロセスを体験することができました。

本田|SNSがきっかけで製品化までたどり着いたのですね。

生駒|さらに面白いのは、買ってくれるのが一般のバイク乗りではないこと。お店の看板にしたい方やグラフィック面を“推しキャラ”にしたいという方が多い。モノに対する欲求のあり方が、以前よりずっと多様になったと感じますね。

出会い方、付き合い方、別れ方

XD専攻のプロジェクト科目「ライフプロダクト」とは、どのような領域なのでしょうか。

本田|桑沢デザイン研究所は創立当初から、バウハウスのカリキュラムモデルを参照しながら「リビングデザイン」を掲げてきました。リビングというと居間を思い浮かべがちですが、そうではなく「生活することすべて」をデザインするという意味なのです。リビング(Living)は“動詞”なのです。その精神を引き継ぎつつ、いまの時代に合わせたのが、「ライフプロダクト」領域だと考えています。「ライフ」には2つの意味があります。ひとつは、人のライフ(=生き方)や暮らしに作用すること。もうひとつは、プロダクト自体の「ライフサイクル」を引き受けること。これは、モノとの出会い方、付き合い方、別れ方までデザインすることを意味します。私たちはモノをつくっているようで、実はモノを通して行為や体験をデザインしている。誰も冷蔵庫そのものがほしいわけではなく、「いつでも冷たい飲み物がある」という体験がほしいわけです。

生駒|「体験(エクスペリエンス)」と言うとUX(ユーザーエクスペリエンス)が思い浮かびますが、UXはどうしても画面の中の体験として捉えられがちです。

本田|UXは重要な概念ですが、体験は画面だけで完結しません。例えば、ゲームで没入感を得るには、映像や音だけでなく、キャラクターを思い通りに動かせるコントローラーというハードウェアが必要です。手に触れる感触、押したときの反応、遅延の有無。そうしたフィジカルな要素が体験全体を支えています。それが「ライフプロダクト」なのではないでしょうか。

生駒|スイッチの感触が悪い、反応が少し遅いというだけで、人間はかなり不快になりますよね。スペック表には小さくしか出ないことでも、体験としては大きい。画面のリフレッシュレート、ボタンの配置、タッチセンサーの精度など、いろいろな要素がつながって初めて快適な体験になる。そこにプロダクトデザイナーの視点が効いてくると思います。私が過去に開発に携わったGROOVE X社の家族型ロボット『LOVOT』も、今思えば「ライフプロダクト」そのものでした。部屋を片づけたいという課題解決ではなく、心のよりどころや家族のような存在がほしいというニーズを叶えるプロダクトでした。だからこそ、出会いの瞬間も大事になる。家族として仲間入りするロボットのパッケージを開けたとき、電源オフの状態の真っ黒な瞳を見せてはいけない——。そう考えて、パッケージ用のアイマスクを設計しました。それは、梱包材であり、開封体験のストーリー演出でもあったのです。

本田|モノのデザインから、コトのデザインへ、さらに心のデザインへ進んでいる好例ですね。モノをほしいと思うのは、心を動かされるからです。ただ、以前はその心の動きが、店頭で見た瞬間や広告に触れた瞬間のように、比較的短い時間の中で起こるものとして考えられていました。いまは違います。プロダクトと人との関係が長く続くようになり、出会ったあと、触れ合いながら少しずつ心が変化していく。その時間軸までデザインする必要が出てきました。
先ほども言いましたが、出会い方、付き合い方、別れ方という「ライフサイクル」をひとつのデザインとして引き受ける必要がある。それが「ライフサイクルデザイン」です。別れ方は、私のもうひとつの軸であるサステナブルデザインにも直結します。捨てられない素材を最初に選ぶと、その瞬間から悲しい別れを予期することになる——。どう手放されるかをイメージしながら、素材や組み立て方を設計していくことも、これからのプロダクトデザインにおいては重要だと考えます。

おふたりは「プロダクトデザイン」の面白さは、どこにあると感じていますか?

本田|何かを操作するとき、人はたいてい手で触れます。そのときの肌触りや質感、重さ。これがとても重要で、しかも現代においては、ますます重要になっていると思います。例えば、ゲームの中なら、アバターが重さのない巨大な水鉄砲を軽々と振り回せる。でも、その楽しさを現実で体験しようとすると、どれくらいの重さで、放水したときの反動はどうか、と一気に難しくなる。そこを引き受けられるのが、プロダクトデザインの面白さだと思いますね。

生駒|未来像と現実像の接点が、いますごく近づいていると感じます。昔はSF映画やゲームで見たものは「全部嘘だ」と思っていた。でも、いまある技術とセンサーを組み合わせれば、実はできてしまうことが増えている。妄想の中で描いた未来を現実に落とし込んでいく。その両方に触れられる立場にいるのが、私にとってのプロダクトデザインの醍醐味です。『タタメルバイク』も、スタイリングスケッチからは入っていません。プロポーションと電動ならではの構造——例えば、「インホイールモーター」だからここは変形にできる、といった要件定義からフォルムを導いている。おもちゃ業界で培った変形機構の知識と、スタートアップで複雑なプロダクトを要件定義してつくってきた経験が、自分の中でつながりました。
『タタメルバイク』で大事にしたのは、バイク業界の既存文脈に乗りすぎないことでした。通常のバイクデザインでは、流線形のスタイリングやメーカーらしさが重視されます。でも私がつくりたかったのは、新しいキャラクターです。変形するモーションがあり、板金加工と3Dプリントの工法由来でもあるシンプルな直線と平面で構成され、電動バイクだからこそ可能な構造がある。チェーンやエンジンがないからこそ、平面を生かせる。技術を正しく理解し、要件を読み解いた上で、新しいものの見方を提示したかった。

本田|プロダクトによってルールが変わると、生活も変わります。かつて携帯電話からスマートフォンへ移行したとき、物理ボタンが消え、画面の中にインターフェースが入ったことで、私たちの行動が大きく変わりました。タタメルバイクも、移動のルールや暮らし方を変える可能性を持っています。

AI時代に、手を動かす

AIが急速に普及するいま、プロダクトデザインの価値はどこにあるのでしょうか。

生駒|私はAIを脅威ではなく純粋に有用なツールだと思っています。特にリサーチにおいては優秀で、「このデザインアプローチはすでに発表されている」と教えてくれる。デザインの場合、無知なまま新規性を語るのは大きなリスクになるので非常に助かります。最近は月3000円ほどのAIサービスで、自分用のCADツールまでつくれるようになりました。以前の私には絶対できなかったことです。一方で、AIによって浅い作業はかなり効率化されていくと思います。だからこそ、単に手を動かすだけではなく、何をつくるべきかを定義し、どういう構造で実現するのかを考えるアーキテクト的な力、ディレクションする力が重要になる。AIを使えるかどうか以上に、AIに何をさせるかを決められるかが問われる時代です。

本田|AIは基本的に過去のデータから未来を予測するものです。デザイナーがやるべきことは、理想の未来を描き、そこからバックキャスティングして、いま何をすべきかを考えることだと思うのです。過去の延長線上にない未来を構想すること。そこに人間のデザイナーの役割があります。ツールはますます使いやすくなります。Adobeのソフトを覚えたい、3D CADを使えるようになりたいというニーズはもちろんありますが、コマンドの使い方だけなら独学でも学べる時代です。AIにスクリーンショットを見せれば操作方法を教えてくれる。だから学校で学ぶべきなのは、ツールの使い方のさらに下にある基礎体力です。

生駒|私もツールの操作は自習した方が早いことも多いと思います。でも、「それを使って何をつくるのか」「なぜそれをつくるのか」は一人ではなかなか深まりません。学校で学ぶ意味は、概念を学び、他者の視点に触れ、自分の中の解像度を上げていくことにあります。

本田|AIやデジタルツールが進化しても、手でつくる経験は欠かせません。プロセスを自分で体験するからこそ、判断力が身につくからです。素材に触り、切り、曲げ、組み立て、失敗する。そうした経験があると、画面上の数値だけでは語れない感覚が育っていきます。

生駒|本当にそうです。3Dプリンターで出力した後、粘土で少し補整した方が早いことはよくあります。手で調整できる技術は、結局いちばん効率的なんです。段ボールとテープで形をつくってみるだけでも、画面上では見えなかったことが一気にわかる。これは本当に不思議です。

本田|スポーツに近いと思います。どんなにいい道具があっても、それを使いこなす体力とテクニックがなければ成果は出ません。デザインも同じで、アプリケーションやAIは強力な道具ですが、それを扱う基礎体力が必要です。だからこそ、〈桑沢〉のような場所で、基礎的な造形を学ぶことの意味があるのです。

生駒|〈桑沢〉で学んでよかったのは、デザインという概念を学べたことだったと私も思います。私はロボットをやりたいという思いはありましたが、そのために何を学べばいいのかわからなかった。建築、ファッション、グラフィック、プロダクトなどをひと通り見ていく中で、自分の興味の輪郭が見えてくる。自分はここが強い、ここは他の人に学びたい、ということがわかる。いまXD専攻があったら、自分はかなり向いていたタイプだと思いますね。

最後に、XD専攻の「ライフプロダクト」領域に期待することを聞かせてください。

本田|価値の置き方が「モノ」から「コト」、その先の心の動きへと移っています。つくる側も、モノをデザインするのではなく、コトや心までを作用させる。それがエクスペリエンスデザインであり、これからのデザイナーの姿勢です。基礎の基礎をしっかり鍛えた人が、社会を変えるところにアクセスできる。私は、XD専攻をそんな場所にしたいと思っています。

生駒|〈桑沢〉の夜間部で学んでいた頃、同級生には本当に多様な人がいました。グラフィックの経験者、現役の医師、大学生、社会人。それぞれバックグラウンドが違う人たちが、デザインという共通言語で話し、プレゼンし、失敗もする。その環境がとても大きかった。年齢や立場の違う人がクラスメートとして隣にいると、自分は何で対等に渡り合えるのかを考えるようになります。僕は勉強もプレゼンも得意ではありませんでしたが、絵を描くことやロボットへの興味では何かを返せるかもしれないと思っていた。そうやって、お互いに影響し合う関係性が生まれるのです。

本田|XD専攻でも、その多様性は大切にしたいですね。「ライフプロダクト」を軸にしながら、カルチャーコミュニケーションやファッション、ライフスペースなど他の領域とどう組み合わせるかを自分で選んでいく——。全員が同じ順番で同じことをするのではなく、自分の関心に応じて学びを構成していくことができます。

生駒|今だと新規事業の立ち上げに携わる社会人にも意味があると思いますね。「AIを使って新規ビジネスを考えろ!」という場面が必ずありますよね。会社で一定の役職に就いた人が、改めてデザインを学びに来てもいい。むしろ、そういう人がいることでクラスにダイバーシティが生まれます。ここは、事業構築の視点とデザインの視点が交わる場になる可能性もありますね。

本田|「ライフプロダクト」領域で育てたいのは、モノの形を整えるだけでなく、モノを通して人の行動や心の動きに作用できるデザイナーです。社会の中で何を変えたいのか。そのために、どのような媒体を使い、どのような体験を生み出すのか。AI時代だからこそ、その根本を考えられる人材が必要です。

生駒|私自身も新しい技術を理解しながら、新しい商品企画や事業をどうつくるかを「ライフプロダクト」領域で学ぶ皆さんと一緒に考えていきたいです。フィジカルAIのように、まだ誰も正解を持っていない領域が広がっています。だからこそ、手を動かし、考え、試し、他者と議論する場所が大切になる。XD専攻には、その可能性があると思います。

Profile

  • 生駒崇光Ikoma Takamitsu

    桑沢デザイン研究所夜間部専攻デザイン科プロダクトデザイン専攻卒業[1.1][1.2]。株式会社タカラトミーで『トランスフォーマー』の海外事業を担当したのち、株式会社CerevoでIoT家電製品の開発に携わる。2016年からGROOVE X株式会社で家族型ロボット『LOVOT』の開発に参加。2021年にICOMA Inc.を創業し、開発した電動バイク『タタメルバイク』は国内外で話題を呼び、カプセルトイ化やCES Innovation Award 2023/2025 グッドデザイン賞/2026iFデザイン賞を受賞。専門学校桑沢デザイン研究所非常勤講師。

  • 本田圭吾Honda Keigo

    桑沢デザイン研究所専任教員。プロダクトデザイン分野所属。東京造形大学卒業後、株式会社スノーピーク勤務を経て現職。デザイン教育・コンサルティングに携わるほか、地域の資源・技術を生かした製品の企画開発にも取り組む。東京都中小企業振興公社専門指導員、東京造形大学非常勤講師(エコデザイン・サステナブルデザイン)。

取材・文/丸茂健一(minimal)
写真/桑本薫平(minimal)

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    • 生駒崇光Takamitsu Ikoma

      桑沢デザイン研究所 非常勤講師

    • 本田圭吾Keigo Honda

      桑沢デザイン研究所 専任教員

    第3回では、電動バイクやロボットのデザインを手がけるICOMA Inc.代表の生駒崇光さんをゲストに迎え、「プロダクトデザイン」の未来を探ります。エコ/サステナブルデザインを専門とする本校教員の本田圭吾を対談パートナーとして、エクスペリエンスデザイン(XD)専攻「ライフプロダクト」領域の学び、そしてAI時代におけるプロダクトデザインの価値について、語り合っていただきました。

  • SESSION 01

    • 佐藤竜平Ryuhei Sato

      桑沢デザイン研究所 第12代所長

    • 川上典李子Noriko Kawakami

      ジャーナリスト、
      21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター

    第1回は、国内外のデザインに精通し、展覧会のキュレーションやプロジェクトディレクションなど多方面で活躍するジャーナリスト・川上典李子さんを迎え、所長・佐藤竜平との対話を通じて、デザインの歴史をひもときながら、これからのデザイン教育のあり方やデザイナーの役割について語っていただきました。

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