2019.05.236.ハンドメイドの価値
暮らしを楽しむ街
急速に変化してきた渋谷は、その一方で暮らしに近い街でもあり続けています。戦後まもなく、渋谷駅の周辺に活気をもたらした露天商はGHQによって撤去されたものの、東急の社長・五島慶太の計画により、63店舗からなる日本で初めての地下街「しぶちか」が1957年にオープン。市場から家庭へ、新鮮な野菜や魚介、多様な総菜を提供する「しぶちか」は、今でも活気にあふれた場所であるとともに、海外からの観光客の人気スポットともなっています。
流行の先端を行く、若者たちに人気の古着屋やリサイクルショップも渋谷には多く集まります。インディーロックとファッションを軸に、オーナーが独自のコンセプトで古着や音楽、雑貨などを紹介する店など、1軒しかない個性の立った名店が現れています。
自分の手で暮らしをつくる「東急ハンズ」
商品を買うだけでなく、自らの手で形づくり、暮らしを楽しみたい。できることは自分でやる(DIY)という、新たな時代のニーズを引き出したのが「東急ハンズ」でした。消費者が自分で選び、つくり出すことでクリエイターとなる。そのための「楽しい生活の仕方」や「クリエイティブな生活」を提案する新たな展開は、ライフプロデューサーの浜野安宏によってもたらされました。
本社機能を渋谷においた東急ハンズは、1号店を神奈川県藤沢市にオープンします(1976年)。高機能で多種多様な道具や材料が揃い、気軽にスタッフからのアドバイスも受けられる店舗は爆発的な人気をみせます。ワンフロアごとに同系商品をおいた東急ハンズ渋谷店が1978年にオープンし、その後も全国各地、海外へも展開していきました。
これで充分。シンプルな暮らしに「無印良品」
1980年、PARCOや西武百貨店を率いていたセゾングループの代表・堤清二は、高級ブランドとは反対に、ブランド(印)の無い良い品を提供する「無印良品」を立ち上げます。青山に1号店を開店させた無印良品は、素材の選択、工程の見直し、包装の簡略化によって、「これで充分」と利用者に思わせる、シンプルで素材の味を生かした生活用品を開発しました。価格を抑え、利用者の視点で使いやすく装飾を排した商品は、旅行や転居時にも重宝され、今や暮らしに欠かせない存在となっています。
ノーブランドを掲げ、新しい生活の提案を行った無印良品は、海外を含め700店舗以上の展開をみせています。こうした動きも、消費者と近い渋谷の街に拠点をおいたことに端を発しているといえるのかもしれません。